第39話 王にならざる者
魔王が亡くなったあと、魔王城には重い沈黙が落ちていた。
城の奥にある円卓の間では、ディン族の重臣たちが集まり、緊急の会議が開かれていた。
長く魔族を統べてきた王がいない。
それは、彼らにとって初めての事態だった。
「王位はどうする」
誰かが低く言う。
だが、すぐには答えが出ない。
多くの者が口にしたのは、同じ意見だった。
「ヴァルド様の回復を待つべきだ」
長兄ヴァルドは、本来ならば次の魔王となる人物である。
内乱で深い傷を負い、今もまだ床に伏せていたが、その器量を疑う者はいない。
「急ぐ必要はない。傷が癒えてから即位されればよい」
「それが筋というものだ」
重臣たちはうなずき合う。
だが、その中で一人だけ沈黙している者がいた。
キースだった。
やがて彼は、ゆっくりと顔を上げた。
そして円卓の向こう側に座る小さな少年を見た。
「イーリャ」
突然名前を呼ばれ、イーリャはきょとんとする。
「なに?」
キースは真っ直ぐに言った。
「王になれ」
部屋の空気が凍りついた。
重臣たちがざわめく。
「な……」
「キース様、何を……」
イーリャ自身も目を丸くした。
「ボクには無理だよ」
首を横に振る。
「半魔だもん」
その言葉に、再びざわめきが起きる。
確かにそれは事実だった。
イーリャの体には、人間の血が混じっている。
だがキースは、静かに首を振った。
「そうだな」
一度、肯定する。
「だが、お前が一番力を持っているのだ」
部屋が静まる。
キースは続けた。
「ゼルクドの反乱で、我らの仲間の人数は半分になってしまった」
その言葉は重かった。
この内乱で、多くの魔族が命を落としている。
城の外でも、まだ血の匂いが残っていた。
「今の魔族に必要なのは、血筋ではない」
キースは言う。
「生き残る力だ」
そして、イーリャを見た。
「我らの未来を託せるのは、お前しかいない」
それは命令ではなかった。
願いだった。




