第38話 セルグドの最期
玉座の間は、血の匂いに満ちていた。
倒れた兵。砕けた柱。
そして、動かなくなった魔王の身体。
「……父上」
キースの声が震える。
ヴァルドは壁にもたれ、血を流しながら立っていた。
その中央に、ゼルクドは膝をついていた。
鎧は砕け、剣も手放している。
敗北は、誰の目にも明らかだった。
「ゼルクド……」
キースが近づく。
怒りではなく、信じられないという顔だった。
「なぜだ?」
低く問う。
「……俺を王にするためだと?」
ゼルクドはゆっくり顔を上げた。
その目には、もう戦意はない。
ただ、疲れだけがあった。
「……キース様」
かすれた声で言う。
「あなたこそ……魔族を率いる王にふさわしい」
「ふざけるな!!」
キースの怒声が響いた。
「俺はそんなもの望んでない!」
拳が震えていた。
「父上が死んだんだぞ……! 大勢の仲間も! また、減ってしまったではないか!」
その言葉を聞いた瞬間、ゼルクドの表情が崩れた。
初めて、後悔が浮かぶ。
「……そう、ですな」
静かに呟く。
「私は……取り返しのつかぬことをした」
誰も動かなかった。
その時、玉座の間の奥から小さな足音がした。
イーリャだった。
幼い姿のまま、静かに歩いてくる。
ゼルクドはその姿を見る。
そして目を細めた。
「……なるほど」
小さく笑った。
「闇と光の合わさった血……か」
イーリャは何も言わない。
ただ、金の瞳で見つめていた。
ゼルクドはゆっくりと立ち上がる。
誰も剣を向けない。
もう戦いは終わっていた。
ゼルクドは床に落ちていた短剣を拾った。
キースが眉をひそめる。
「……やめろ」
だがゼルクドは首を振った。
「私は敗者です」
そして、キースを見た。
「最後まで……お守りできなかった」
一瞬だけ、優しい顔になる。
「どうか……良き王になられよ」
「だから違うって言ってるだろ!!」
キースが叫ぶ。
だがその言葉より早くーー
ゼルクドの短剣が、自分の胸を貫いていた。
青い血が床に落ちる。
崩れ落ちながら、彼は最後にイーリャを見た。
「……魔族を……頼む」
そのまま、動かなくなった。
玉座の間に、静寂が落ちた。




