第37話 内乱
魔王城には、いつも笑い声があった。
魔族の王家にしては珍しいほど、家族の仲が良かったからだ。
長兄ヴァルドは厳格だが面倒見がよく、次兄キースは豪快で明るい。それを見守る優しいエリンの姿もあった。
そして末弟のイーリャは、まだ見た目十歳ほどの少年の姿で、城の廊下を走り回っていた。
「こら、走るなイーリャ!」
ヴァルドの叱責が飛ぶ。
「兄上が捕まえればいいじゃないか!」
笑いながら逃げるイーリャを、キースが軽々と捕まえる。
「はい捕獲」
「うわっ、ずるい!」
そんなやり取りを、玉座の上から魔王は静かに見ていた。
その表情は、どこか穏やかだった。
魔族の王でありながら、この男は家族の時間を何より大切にしていた。
だがーー
その平穏は、ある日突然終わる。
「反乱だと?」
報告を聞いたヴァルドの声が低くなる。
反旗を翻したのは、魔王の側近。
長く王を支えてきた将、ゼルクドだった。
「目的は?」
魔王が静かに問う。
「……キース様を王に」
その言葉に、玉座の間が凍りついた。
キースが目を見開く。
「は?」
「俺が王だと?」
だがキースはすぐに首を振った。
「ふざけるな。そんな気はない」
だがゼルクドの軍勢はすでに城へ迫っていた。
戦いは避けられなかった。
城内で激しい戦闘が始まる。
魔王自らが前線に立ち、ヴァルドも剣を取った。
だがその戦いは、誰も予想しなかった結末を迎える。
魔王が、戦死したのだ。
そしてヴァルドもまた、深い傷を負って倒れた。
「兄上!!」
血に染まる床。
混乱する城。
その中で、ただ一人静かに立っていた者がいた。
イーリャだった。
幼い姿のまま、金の瞳だけが冷たく光っていた。
次の瞬間、城の空気が変わる。
魔力が溢れ出した。
誰もが動きを止める。
「……終わりだ」
少年の声が、玉座の間に響いた。
その日、反乱を鎮圧したのはーー
末の王子、イーリャだった。




