第31話 魔族を見極めよ
夜更けの神殿は静まり返っていた。
回廊の奥、灯火の揺れる窓辺に、レオンは立っている。
遠く南方
魔王城方面の観測値が、わずかに揺れていた。
大きな乱れではない。
だが、確かに『何か』が生まれた波形だった。
そのとき思い出した。
ーー魔族を、見極めよ。
神託は、それだけだった。
討てとも見逃せとも言わなかった。
なぜ、そんな曖昧な言葉を残したのか。
魔族は、滅びかけている。
もう一つの闇、アルゲイ族は消えて久しい。
均衡は光へと傾いた。
討伐は正義とされ、
冒険者は英雄と称えられる。
それで良いはずだった。
なのに。
観測盤の揺らぎは、消えない。
まるで世界が、小さく呼吸を取り戻したように。
レオンは目を細める。
もしや――
滅びるはずの魔族が、
形を変えたのではないか……?
人に紛れ、光の側へ近づく形で。
ディン族は適応の種族だ。
生き延びるためなら、姿を変える。
ならば、神の言葉はーー
「見極めよ」
それは、闇を討つ前に、
その『理由』を見よということではないのか。
奪うのは本能なのか。
悪意か?
それとも、生き延びるためか……
そして、もう一つ。
光の側に立つ者もまた、自らを見極めよ、という警告。
光は常に正しいのか……?
レオンの胸に、静かな違和感が落ちる。
南方の波形が、かすかに脈打つ。
それは強大ではない。
だが消えない。
消えぬ意思のように。
「……始まったのか」
誰にともなく呟く。
まだ名も知らぬ存在。
だが、神はそれを見よと言った。
ならば自分はーー
目を逸らさない。
討つ前に、確かめる。
それが神の意志ならばーー
夜風が灯を揺らした。
南の空に、わずかな闇が息づいている




