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World Without Memory ~生きる希望を探して~  作者: 深山河 蜻蛉
第二章 夢の中の少女

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9 集う者たち

 木立の薄い林の前、烏山の案内を頼りに、俺たちは目的の場所へと辿り着いた。


 荒河は道路脇にある石の上に座り、虫取網や虫かごはもちろん、麦わら帽子に軍手と、いかにも準備万端という格好をしていた。


「よっ、遅かったな……って、何で(ひかり)がいるんだよ……」

「何? 悪い?」

「べ、別に悪くはねぇけど、色々と制限されそうなんだよなぁ……」

「何か言ったかしら?」

「何でもないっす」


 荒河は朝霧に気圧されたように肩をすくめる。

 それでもどこか納得したのか、すぐに話を切り替えた。


「まぁ人手は多い方が良いしな。実は俺ももう一人助っ人を呼んでるんだ」

「助っ人……?」

「おっ、ちょうど来たっぽいな」


 ふと、荒河が俺たちが通ってきた道路へと目を向ける。その視線の先には、見覚えのある少女がいた。


「ご、ごめんなさい~!」


 凪沢(なぎさわ)穂乃実(ほのみ)だ。数日前に出会ったばかりだが、ほんわかとした雰囲気は変わっていない。

 俺たちの元まで駆けてくると、勢いよく謝り出した。


「道路にいた猫ちゃんとじゃれてたら遅くなっちゃって~」

「大丈夫、時間ピッタリだ。」

「え……? でも、八時に集合って……」

「穂乃実が遅れてくることぐらい分かってたからな。一時間早く時間を教えたんだ。」

「うー、ひどいよ~」

「でも、それで間に合っただろ?」

「……うーん、まぁ、たしかに? なら、いいのかな……?」


 穂乃実は小さく唸りながら、困ったように首を傾げる。騙されたことへの不満と、間に合ったことへの安堵が入り混じっているのか、複雑そうな顔をしている。

 荒河は「やれやれ」と苦笑し、小さく息を吐いた。


「よし、皆集まったな。紹介するぜ、凪沢穂乃実だ」

「……ああ、知ってる」

「あれ、杜遥(もとはる)くんもいるの?」

「ん? もう知り合いか?」


 荒河が驚いたように目を丸くする。


「穂乃実とはこの前、公園で会ったんだ。」

「そうそう、そのあと杜遥くんと一緒に夜、星を見たよね~。」

「おいおい、名前呼びする仲なのかよ。」


 俺が軽く説明すると、荒河がにやけた顔でこちらを見てきた。烏山も「やるね」と、同調するように言ってくる。


「……何か誤解しているようだが、大した意味はない」

「そうか? でも、燦のことは朝霧って呼んでるだろ」

「…………」


 言われてみればそうかもしれない。全く違和感がなかった。


「確かに、この前は少し距離を置いている感じがしたけど、今日はそれがないね。何かあったのかい?」


 あの時の俺は、記憶がなく空っぽな自分が嫌で、無意識に人と距離を置いていた。

 穂乃実と出会ったことで、これから埋めていけばいいと思うようにはなったが、そんなあからさまに分かるものなのだろうか。


「ま、それは別にいいとして、俺たちのことも名前で呼んでくれよ、友達だろ?」

「……わかったよ」


 一応了承したが、実際に名前で呼ぶ場面を想像すると、少しだけ躊躇いが残る。

 祐介(ゆうすけ)(さとし)、燦に(なお)。名前は分かるが、やはりしっくり来ない。


 燦の時もそうだったが、そもそも、俺たちは友達と呼べるのだろうか。


「決まりだな。で、昆虫採取だが、今回は二人ペアを組んでもらう。」


 だが、その思考を遮るように、祐介が口を開いた。


「私、お姉ちゃんはやだ!」

 

 楠が即座に声を上げる。それを聞いて、隣に立つ燦がわずかに眉をひそめた。


「ちょっと楠……」

「だってお姉ちゃん、あれ駄目とかこれ駄目とかばっかりなんだもん」

「だよなー」

「そ、それは、楠が危ないところに行こうとするからでしょ!」


 燦の声が少し強くなる。けれど楠は気にした様子もなく、ふいと顔を背けたまま、視線を合わせようとしない。

 どちらも引く気配はなく、気まずい空気が流れる。


「まぁまぁ、それじゃあ楠ちゃんは、私とペアを組もうよ~」

「うん!」


 そこに穂乃実が割って入り、張りかけていたものがふっと緩んだ。


「それで残りのペアなんだが、俺は聡と組むわ。」

「でしょうね」

「杜遥は初心者だから、俺のペースにはついてこれないだろうしな。それに燦といると色々制限……じゃなくて、安全を考えてくれるから安心だぜ」


 祐介は咳払いを一つして言い直すが、正直、誤魔化せていない。

 けれど異論は出ず、燦も何も言わないまま、話はまとまっていった。


 結局、俺と燦、祐介と聡、穂乃実と楠でペアを組み、昆虫採集をすることになった。

 

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― 新着の感想 ―
最新話まで読ませていただきました! 会話のテンポがとても自然で、それぞれのキャラクターの個性が分かりやすく、楽しく読み進められました。 特に穂乃実ちゃんのふんわりした雰囲気や、燦ちゃんと楠ちゃん…
とても読みやすく、ここまで一気に拝読させていただきました! 俗に言う「なろう系」というものも読みやすいですが、こういう雰囲気の作品も大好きなので、出会えたことに感謝です(*^^*) それにしても、なん…
情景描写や心理描写がとてもしっかりされている作品だなと最初に思いました。 特に情景描写が印象に残ってます。公園やどじょうを使った料理、そして星空。作中の舞台が自然と頭の中に浮かんできます。 地の文と会…
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