17 込められた思い
家に帰り、俺は祖母に穂乃実のことを話した。
どうやら祖母は穂乃実のことを知っていたようで、名前を出すと一言「穂乃実ちゃんね」と言っていた。昔からこの町にいるのだから、当然といえば当然である。
とにかく、一緒に昼飯を食べることも快く了承してくれたし、もう問題はない。
そう思ったのだが、残念なことに食べる物が何もなかった。
なんと、半ば予想していたことが当たってしまった。
俺は祖母に、カレーを作るよう頼まれた。
作ることが嫌いなわけではないからいいのだが、その間は穂乃実のする事がない。出来上がるまで居間で待っててと言うのも酷だろう。
というより俺から誘っておいて、長く待たせるのは申し訳ない。
僥倖なことに現在の時刻は十時過ぎ。カレーにかかる時間をおよそ一時間と考えるとお昼には十分間に合う。
俺は台所に行き、早速カレーを作る準備をする。
準備といっても大したことではなく、まな板と包丁を取り出し、買ってきた野菜を並べる程度だが。
とりあえず豚肉は後で使用するし、ひとまず冷蔵庫に入れて置いていいだろう。先に入れる人参とじゃがいもを水で洗おう。
と、人参を持った瞬間ーー
ーーピンポーン。
チャイムが鳴った。
その数秒後に扉の開く音が聞こえ、それから「ごめんくださーい」と穂乃実の少し遠慮気味な声が続く。
早すぎる。俺が家に着いて五分経ったかどうかというところだ。
たしかに荷物を置いてから行くと言っていたが、本当に荷物を置いてすぐに来たようだ。
俺は手を洗って玄関に向かう。
「……早かったね」
「……うん、荷物を置いて来ただけだからね」
穂乃実が手を組ながら、少しもじもじするように立っていた。
買い物時に手にしていたハンドバッグが、小型のショルダーバッグに変わっている。お出掛け用といったところか。
「おばあちゃんはいないの?」
「さっきまでいたんだけど、外に出てるのかな。そのうち戻って来ると思う」
つい先程まで話していたのだが、今は家の中に気配がない。
田舎だとご近所付き合いというその地域ならではの独特のルールがあるようで、ごみ当番や草むしりなど、まぁ何かとやることがあるらしい。
あとこれは余談だが、家の横には小さな畑があってもしかすると畑仕事をしているのかもしれない。
つまるところ、いつもふらふらしているため、何をしているのかきちんと把握できていないのだ。
「そっか。じゃあ、お邪魔します」
穂乃実は靴を脱ぎ、中に上がった。慣れたような所作で、丁寧に靴を揃えている。
「あのさ。お昼なんだけど、俺が作ることになったから少し待っててもらってもいいか?」
「そうなんだ。全然良いよ? 杜遥君の料理、楽しみだな」
「……あまり期待をされても困る。カレーだから、パックに書いてある通りに作るだけだし」
「うーん、そういうことじゃないんだけどな……」
穂乃実は苦笑しながら、困ったように首を傾ける。
「杜遥君さ、たしかスーパーで私が美味しいと思うものを試してみたいって言ってたよね? それと同じだと思うよ。知らない誰かが作った料理より、杜遥君の作った料理の方が嬉しいし、食べたいって思うの」
「……そうか」
たしかに知らない人が作った料理よりも、知っている人が作った料理の方が断然魅力的だ。
人が作る以上、そこに込められている思いというものが存在する。
だからこそ単に料理の味という話ではなく、その料理自体にも意味が生まれるのだろう。
それはそうと、よく考えるとこれはかなり恥ずかしいことを言われた気がする。
「べ、別に特別な意味があるわけじゃないからねっ!?」
「わ、わかってるよ」
穂乃実もそれに気づいたのか、あたふたして特別な意味というものを否定する。
その特別な意味というものがなんなのか、少し気になるところではあるけれど、ここは察してあげよう。
「それに野菜を大きめに切るとか小さめに切るとか、同じレシピで作っても、意外と人によって違うんだよ?」
「……でも、だいたいカレーって同じ味にならないか?」
「もー、そういことじゃないんだよぅ……」
俺が作ったカレーも、祖母が作ったカレーも殆んど同じ味だった。
同じカレールーを入れているのだから、隠し味でも入れない限り当たり前である。
でも、きっとそういうことではなく、野菜の切り方で人の性格が出るとかを言いたかったのだろう。
実際それはある。人の性格というと少し怖いが、祖母と俺の野菜の切り方は若干違っていた。具体的に祖母は人参を半月切りに切るが、俺は乱切りに切る。理由は単純明快、早いからである。
穂乃実は嘆くように項垂れていた。




