16 雨上がりの帰り道
一通り買うものを入れ終え、俺と穂乃実は別々のレジに並ぶことにする。
その方が効率的で、余計な時間を使わずに済むからだ。
いや、決してレジに一緒に並ぶのが恥ずかしかったとか、そういうことではない。
だってレジに並んでいる人の数が異様に多いのだから仕方ない……。
ここにしかスーパーがないのかもしれないが、それにしたって混みすぎている。
……俺の曜日感覚が狂っていただけで、そういえば今日は休日だった。
そんな下らないことを考えながら並んでいると、やっと俺の番が回ってくる。
前の人の買ったものの量が少なかったからか、穂乃実よりも一足先に会計を済ませることができた。
先に外に出て、出入口の横にそっと立つ。
好意があるとか、そういうのでは全くもってないけれど、なんだかすごく、ソワソワする。女の子を待つって不思議な感じだ。
自分で言うものでもない気もするが、俺もちゃんと思春期なんだなって思った。
待っている間にふと空を見上げる。
すでに雨は止んでいて、雲の隙間から一筋の光が差し込み、薄い青空が見え始めていた。
と、あぶないあぶない。傘を忘れるところだった。
帰る前に思い出せて良かった。流石にここまで取りに戻るのは大変すぎる。レジ待ちの時間がどうとか、そんな次元の話ではない。
俺はやむなく傘置きに向かおうとした。ちょうどそのとき、
「おまたせ~。思ったよりいっぱい買っちゃった……」
穂乃実が荷物を持ってよいしょよいしょとやってくる。酷く重そうだった。二リットルのペットボトルのお茶を二本も買っていたのだから、当然である。
「傘、忘れてないか?」
「え!? あっ、そうだったぁ」
荷物しか持っていないのを見て、やはりと言うべきか、穂乃実も傘を忘れていた。
穂乃実も戻ろうと、慌てた様子を見せる。一生懸命荷物を持っているし、こんなに重そうにしているなら、いっそ俺が二つ持ってきた方がいいだろう。
「いいよ、俺が持ってくる」
「いいの?」
「まぁ、俺も忘れたからね」
「そうなんだ。ふふっ、二人揃ってうっかり屋さんだぁ」
なんとも気の抜けた言い方。君は本当におっとり屋さんだと思う。
スタスタと傘置きに行って、傘を二つ、手に取った。
たしか、穂乃実が持ってきたのはこのピンクの傘だった。
「はい」
「ありがとう」
すぐに戻り、俺は穂乃実に傘を渡す。
「それで、穂乃実の家はどこにあるんだ?」
「うーん、そうだな~。杜遥くんって、水瀬のおばあちゃんの家に住んでるんだよね?」
「そうだけど……」
「上手く説明はできないけど、とりあえず杜遥くんの家と方向は同じかな」
「なら、ちょうど良いな」
「うん!」
一緒に帰れるからか、穂乃実は笑顔になった。
そこまで喜ばれると、一緒に帰るのも悪くない。いや、吝かではない。
「その荷物、俺が持とうか?」
「え? ……いいの? でも、なんか申し訳ないよぅ」
あまりにも穂乃実が重そうにしているものだから、俺は代わりに持ってあげることにする。
それに飲み物類はティーバッグしか買っていないし、俺の買い物袋は比較的軽い。
「いいよ、それくらい」
「……ありがとう」
お礼を言われながら、俺はそれを受け取る。
「ぐっ」
重かった。想像していたよりも二倍くらい。
何だろう。前にもこんなことがあった気がするが、思い出せない。
ほんと、我ながら非力だった。
「む、無理しなくていいよ!? 自分で持つからっ!」
「だ、大丈夫。へいきへいき」
穂乃実が俺の姿に心配したように声をかける。
俺は平常心を装った。多分、大丈夫には見えていないだろう。
でも、ここでやめたら不甲斐ないというか、格好悪すぎる。
もはや、これは男の意地である。
「ふふっ、杜遥くんも男の子だね」
ちょっとやめてほしい。急にそんなことを言われると、照れてしまう。それに、まるで俺が君を意識していて、格好良いところを見せようとしているみたいじゃないか。
まぁ、格好良いところを見せようとしているのは事実だが。
「あ、そういえば……、一緒に買ったプチっと占いのチョコ、どうしよ?」
歩いていると、穂乃実がお菓子のことを思い出し、迷ったように言う。
俺は少し考えた。
「ならさ、俺の家に来ないか?」
「も、杜遥くんの家?」
いきなり家と言われれば、警戒するのも無理はない。
「いや、別に変な意味はないんだけど、どうせならお昼でも食べていけばいいと思って。いつも一人なんだろ?」
俺は訂正するように、自分の意見を口にする。
穂乃実は一人でも寂しくないと言っていたが、食事は一人で食べるよりもみんなで食べる方が美味しい。と、この前祖母が言っていた。
「……嬉しい。でも、行ってもいいのかな……?」
「ん? 逆に何で駄目なんだ? 来たくないなら分かるけど」
「だって私、男の子の家とか行ったことないし……」
「…………」
すると穂乃実がおろおろと、迷っていた理由を話した。
どうしよう。対応に困る。そこまで意識されるとは思っていなかった。本当、乙女心って分からない。というか、そんなことを言ったら俺だって女の子を家に入れたことなんてない。
幸い、俺はそこまで取り乱さないけど。
「ああでも、ご飯はいつも祖母が作ってるから、何があるかは分からないけど。もし何もなかったら、俺がカレーでも作るよ」
「そっか、水瀬のおばあちゃんもいるんだもんね。……ならいっか」
何がいいのだろう。二人きりだとそんなに……ああ、たしかに二人きりで何もすることがないとなると、気まずくて死んでしまうかもしれない。
「……どうする?」
最終的に、俺は彼女に委ねることにした。
「じゃあ行っちゃおうかな。もちろん、荷物を置いてからになるけど」
彼女は何かを決心したように、「よーし」と呟いてから答える。
そんなに意気込まれると余計気まずくなるのだが。……もっといつも通りにしてほしい。
「うーん、この辺で一回お別れかな。私、こっちの道なんだ」
きれいなY字の形をした分かれ道。そこで穂乃実が指を指しながら、俺に別れを告げる。
「そうか。じゃあ、これを返すよ」
それを聞いて、穂乃実に買い物袋を手渡す。
「うん、ここまで持ってくれてありがとね」
「別に、大したことじゃない」
「でも、私は嬉しかったよ?」
「…………」
「あ、もしかして照れた?」
「て、照れてない」
う、うるさいとまでは言わないが、本当に余計なことは言わないでほしい。それに、首を傾けながらキョトンとした目で聞いてくるのは反則だと思う……。
「じゃあ、またね」
「ああ、またな」
そうして、俺たちは別れた。




