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悔しい。あまりにも明瞭な悔しさが、胸の澱みの中に注がれていく。結局、手遅れだったのか。握り締めた拳を振り上げ、下ろし所のない怒りを自分に叩きつけるつもりで、コンソールに叩きつけようとした。
『……ロバート。それは、できそうに、ない』
思いがけない返答に、ロバートは振り下ろす手を止めた。通信はやはり擦れていた。
『まだ、戻るわけ……かない。……あいつが、呼んでるんだ』
「呼んでる……? あいつ? トシヤ、何を言っているんだ?」
ロバートだけではない。周囲を見れば士官たちも、ミサイル巡洋艦『カウペンス』の降伏勧告に応じようとしていたヘイゼンも、CDCの全員が、トシヤと自分の声に耳を傾けていた。
『〝ライオンハート〟だ。まだ……決着……いて……ない』
敵は何かをするつもりだ。『切り札』があると口にしていた。何をするのかは、わからない。後退しろ、トシヤ。トシヤ、逃げろ。つい先ほど、自分が叫んだ一連の台詞を思い出す。あの時、トシヤは応じなかったが、それを聞き、理解することで、まだ決着がついていないことを悟ったのだろうか。それとも、もっと別の……
『あいつの気配は消えていない。あいつが呼んでるんだ。だから、ちょっと、会いに行ってくる』
「会いに、って…… トシヤ! バカな真似はやめるんだ!」
『あいつ、《X―1》の中にはいなかったんだよな? でもこの近くにいるんだ。だから会って、止めてくる』
確かに、遠隔操作を基本にしたグレイグの『B・M・I』は『ジョージ・ワシントン』のどこかに設置されているはずだった。だがトシヤはそれを知らないはずだ。遠隔操作で制御されている、ということまでしか話していない。この近くにいるかどうかまでは、知らないはずなのだ。
なぜ、どうしてわかったのか。呼んでいるというのは、比喩的な表現ではないのだろうか。そんなことがあり得るのだろうか。突然明瞭に聞こえるようになったトシヤの声に、ロバートは激しく困惑した。
「だめだ、トシヤ、戻れ。我々も……『エイブラハム・リンカーン』も降伏する。君の帰れる場所がなくなるんだ。その前に戻れば、まだ回収することができる」
今のトシヤは正気なのだろうか。それとも何等かの身体的事情で、意識を失いかけているのか。夢現の状態で、死者の呼び声を聞いているのかもしれない。だとすれば、これ以上飛ばせることは危険だった。ロバートは動揺する心中を押し隠し、努めて冷静に、置かれている状況をはっきりと理解させるための言葉を投げた。
「今ならばまだ、君の帰還を待てる。合流後に降伏する時間がある。だから戻れ。戻ってくれ、トシヤ……!」
「艦長! ウィーヴァー博士!」
レーダー観測により戦況把握を担当する、オペレーター士官だった。ロバートとトシヤのやり取りに割って入った声は、絶叫していた。




