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「トシヤ、聞こえるか。直ちにその場を離脱しろ。繰り返す。離脱だ。帰投を開始しろ」
通信からは荒い息づかいだけが聞こえていた。応える余裕はないのか。二次元的にしか表示されないレーダー上ではわからない、かなり無茶な空戦をやってのけた、その影響がトシヤの身体に現れているのだろうか。今のトシヤは、離脱さえままならない状態なのだろうか。
「トシヤ……!」
「艦長、入電です! 第十五駆逐隊タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦『カウペンス』!」
CDCの歓声が、振動する空気を失ったかのようだった。先ほどを上回る真空の沈黙の中、硬い表情を保ったままのヘイゼン艦長は、ついにきたか、と言うようにロバートに視線を送った。
第十五駆逐隊。《X―1》のプラットホームである『ジョージ・ワシントン』を旗艦とする、米第七艦隊、第七○任務部隊のミサイル巡洋艦、駆逐艦からなる艦隊。『X計画』を阻止するために米本国を敵に回した自分たちに差し向けられた刺客。ヘイゼン艦長はそれらに対する方針を、すでに決めている。
米本国に叛こうとも、自分が空母の艦長であることに変わりはない。部下に死傷者は出させない。そう話した艦長の声を再現し、ロバートは頷いた。
「回線を。わたしが応じる」
ロバートの隣から、艦長が離れていく。ここまで。その言葉が、去っていくヘイゼン艦長の背中に張りついていた。
「……トシヤ、すぐにこっちを目指してくれ。……作戦は、終了だ」
作戦終了。口にして、改めてロバートは、これまでなのだ、と自分自身でも理解した。奥歯をきつく、噛みしめる。
伝えるべき想いは伝えた。『X計画』の中核を為す新型機の破壊には成功した。だが、グレイグ・リーは、まだ何かをしようとしていた。
『切り札』とは何か。グレイグに自分の想いは一欠片も届かなかったのか。嫌な予感と自らの非力を嘆く想いが胸の中で澱み、すべてが半端な状態で終っていくこの状況に、ロバートは爪が掌に刺さり、血をにじませるほど強く拳を握りしめた。




