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緩慢だが、確かな衝撃を感じる。ただ、それだけだった。内臓が飛び出る様子も、眼球が押し出される気配もない。痛みもない。すべてが緩慢に流れている。
そうした目に見えるもの、自分の身体の動き、聞こえる音、それらすべてが緩慢な理由はわからない。ただ、超えたのかもしれない、という感覚だけを、俊哉は描いた。何を、という主語を欠いた言葉が、俊哉の脳を埋め尽くす前に、コクピットでは次の変化が起こっていた。
火器管制装置(FCS)がコマンドを開く。俊哉が手を伸ばし、主武装を選定する前に、FCSは短距離空対空ミサイルを選んだ。まるで《X―2》という機体そのものが、意思を持って選んでいるかのようだった。
《X―2》が敵機へのレーダー照射を開始する。俊哉は操作することを諦めた。緩慢に流れる映像をただ見つめて、機体の状態を頭にイメージすることに努めようとした。
俊哉は気がついたのだ。これは機体の意思などではない。自分の脳のイメージなのだと。
『B・M・I』が、これまでにない高速処理で機体と自分の脳を繋いでいる。先ほどから何もしていない、できていないわけではない。自分ははっきりと機体の動きをイメージし、それをシステムが実現している。
頭で考えてなどいない。ほとんど感覚で飛んでいる。機動の選定もその時その時、臨機応変に対応する。攻撃タイミングも、どこでどう、というルールづけはない。『W.A.R.』における操縦技術の高み。それが《X―2》を動かし、今、FCSにAAMを選ばせた。
機体の回転はまだ続いていた。《X―1》の背面が見え、尾翼がコクピット画面を流れ去った。いったい何回転したのだろう。回転しつつ《X―1》を跳び越えて、《X―2》は敵機の背後に回り込もうとしていた。
と、その回転がふいに止まる。急制動が生んだ重圧が遅れて届き、俊哉は殴られたような衝撃にうめいた。うめきながら、それでもどうにか見据えた正面に、逆さになった《X―1》の排気口の赤い光が見えていた。




