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機体がわずかに上方を向いた。まだ機銃弾の光は見えない。相対距離も縮まらない。
ロバートの声が聞こえた。何を言っているのかはわからない。いや、そもそもロバートの声なのかすら怪しかった。性別もわからない。異常に緩慢で、間延びした声。再生速度を落として流した歌声のような、牛の鳴き声のような、声。
何を言ってるんだ、ロバート。いいところなんだよ。もう少し……
応える言葉は頭に浮かんだ。だが次の瞬間に訪れた衝撃が、それを霧散させた。
上方を向いた機首が、そのままさらに上へ、上へと移動していた。俊哉は全身に迫る強烈なGを受け止める。今までとは何かが違うGの衝撃。
これまでの衝撃が、殴られた後に押し潰される感覚ならば、今は最初から押し潰される感覚だ。ゆっくりと、確実に強くなる衝撃が、身体をシート深く沈める。
機首はそのまま九十度まで持ちあがると、そのまま背面へ倒れて行く。百二十度、百六十度。百八十度。《X―2》は真下の《X―1》と機首を同じ方向に向けた。完全な背面飛行だった。俊哉はコクピット画面の天井を見上げる。天地が逆さになったコクピットから見えたのは、放たれ始めた《X―1》の機銃弾の帯だった。その弾丸一つ一つが、なぜかはっきりと目に見えた。
回転は止まらない。俊哉はここに至って、《X―2》がどんな状態になっているのかをイメージし、理解した。
《X―2》は今、前方に向かいながら、機体をバック転させているのだ。《X―1》の上方に占位しつつ、機体をくるくると縦方向に回転させながら、まるで片端を掴んで投げられた棒きれのように、『飛行』しているのだった。
これは航空機の飛行ではない。こんな機動はあり得ない。俊哉は否定したが、どう考えても今、自分が搭乗している機体はそのイメージ通りに動いている。
そんなことをすれば、パイロットは無事では済まない。そのはずだ。だがそのパイロットであるはずの自分は、しっかりとすべてが見えていた。いや、見え過ぎていた。




