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「……いいのか、リー博士」
部下に答える言葉よりも先に、口をついて出たのは、〝乗客〟に問う言葉だった。
何が、という主語を欠いた言葉になったのは、言ったグラント自身、その『何』を定め切れていなかったからだ。
グラントにしてみれば、彼の一族発祥の地であるイングランドを攻めろ、と言われているようなものだ。その第一線に立つ事を求められた時、自分はどう考えるか。
軍人である以上、その任務には就くだろう。だが、少なからず抵抗は感じるはずだ。自分自身にその記憶はなくとも、血に記されている数々の記憶が、無言の力となって抗うはずだ。まして自ら進んでそんな作戦を立案することなど、できるはずがない。
それをこの東洋人は、眉一つ動かさず実行している。出自も肉親もある、人から生まれた人に、本当にそんなことができるものなのだろうか。




