第八話 土下座と、依頼書
その三人組がギルドの扉をくぐったとき、受付のミアの悲鳴が聞こえた。
「し、師匠ーっ! 変なのが来た! 王都の! Sランクの!」
……来たか。剣聖ガルド、大魔導士ヴェラ、聖女リノン。暁の剣、勢揃いだった。最後に見たときより、三人とも見る影もなく痩せていた。
俺のスキルが勝手に数値を並べる。ガルド、体重マイナス八キロ。ヴェラ、魔力総量が常時三割減――魔力枯渇の後遺症だ。リノン、睡眠不足の兆候。
ガルドは俺の顔を見るなり、板張りの床に、膝をついた。額を、擦り付けて。
「ロイド……! 頼む、戻ってきてくれ! 報酬は三分割……いや、四割やる! 名前も『暁の剣とロイド』に変える! お前がいねえと、俺たちは……!」
四十二層の一件は、王都中に知れ渡っている。深層に潜れなくなった暁の剣は、指名依頼が途絶え、格付け審査の再評価が迫っているという。
ヴェラは俯き、リノンは唇を噛んで震えている。ギルド中の視線が、俺に集まった。
「断る」
俺は静かに言った。ガルドの肩が、びくりと跳ねる。
「頭を上げてくれ、ガルド。土下座は要らない。……あんたたちが憎いわけじゃないんだ。もう俺には、ここに守るものがある。それだけだ。それにな、俺一人が戻っても、あんたたちは何も変わらない。『数えてくれる誰か』に寄りかかる癖が、また始まるだけだ。それは俺にとっても、あんたたちにとっても、いちばん危ない迷宮だよ」
「じゃあ、どうしろってんだ……! 教えてくれよ……! 俺たちはもう、終わりなのか……!」
そのとき、受付の緊急鈴がけたたましく鳴った。ミアが依頼札を掴んで駆け込んでくる。顔が真っ青だ。
「師匠! 緊急依頼! ゼルガ大迷宮四十層で、新人パーティ『白樺』四名が消息不明! 五日前の崩落で帰還路が塞がれたって……! ギルド連盟から、崩落に対応できる救助隊の緊急募集です!」
四十層。罠と崩落の巣。生存の見込みがあるうちに岩をどけ、罠地帯を往復できる救助隊――必要なのは、深層で戦える戦力と、崩落を測れる目。どちらが欠けても、死人が増えるだけだ。
俺は、床に額をつけたままの男を見下ろした。
「ガルド。土下座をするなら、俺にじゃなく、依頼書にしろ」
「……え?」
「計量ギルドから暁の剣に、合同依頼だ。ゼルガ四十層、白樺の救出。俺が測る。あんたたちが斬り拓く。指示系統は現場ごとに分ける――戦闘はあんた、計測と可否判断は俺。報酬は等分。……四十二層で詰んだ借りを、四十層で返す気は、あるか」
三人が、弾かれたように顔を上げた。ヴェラの目に光が戻り、リノンが両手で口を覆う。ガルドは一度だけ強く目を瞑り、立ち上がって、右手を差し出した。
「「「――受ける!」」」
握った手は、昔と同じ、馬鹿力だった。




