第七話 迷宮計測士という仕事
三月後。計量ギルドには、三つの部門が育っていた。
市場部門。秤の校正と監査を担う。筆頭はミア。パン屋の娘の目と舌は誤魔化せないと、界隈の不正業者に恐れられ始めている。先週は隣街の穀物商の升に細工を見つけ、商業ギルドから正式な監査依頼が来た。
鉱山・建築部門。ドガ率いる元鉱夫組。崩落予測の手順書は、俺のスキル計測と彼らの実地経験を突き合わせて、版を三つ重ねた。今では俺が現地に行かなくても、亀裂の幅と進行速度、支保木の撓みから、危険度を三段階で判定できる。
そして三つ目が、今日デビュー戦を迎える。迷宮部門――通称「迷宮計測士」だ。
「いいか、出発前に復唱しろ。迷宮で計測士がやることは三つ」
「「一つ、罠の作動条件の計測! 二つ、地形と崩落危険の計測! 三つ、撤退判断の材料提供!」」
「やらないことは」
「「戦闘! 索敵! 交渉! 専門外には手も口も出さない!」」
「逃げ足は」
「「毎朝鍛えてます!」」
「よし、行ってこい」
メルガ近郊の中級迷宮『風哭きの穴』。地元の中堅パーティ「山猫の爪」に、うちの計測士二名――テオとその相棒が同行する、記念すべき初仕事だ。
俺は後方の見守り役に徹する。手を出したくなる場面は必ず来る。だが出したら、育たない。
三層の罠地帯。床石の色がわずかに違う一帯の手前で、テオが手を挙げて隊列を止めた。声が上ずっている。緊張で、計測索を持つ手が震えている。
――落ち着け。手順を思い出せ。俺は声に出さず、ただ見守る。
テオは深呼吸を一つして、腰の手順書に触れ、それから膝をついた。計測索を伸ばし、錘を吊るし、床石の沈み込みを三点で測る。二度、測り直す。相棒が数値を復唱し、記録板に書き付ける。
「……計測終わり! この床の罠、作動重量は推定五十五キロ、誤差プラスマイナス五! 全員、装備込みの自重を申告してください! 六十キロを超える方は、床を踏まず、こちらの側梁の上を通ってください! 梁の耐荷重は確認済み、百二十キロまで安全です!」
山猫の爪の五人が、指示通りに罠地帯を抜けていく。最後の一人が渡り終えたとき、リーダーの女戦士が唸った。
「探知魔法より、遅い。正直じれったい。……だが、納得できる。『なぜ安全か』を数字で説明されると、こんなに腹が据わるとはな。うちの専属にならんか、その坊主」
「だ、駄目です! 俺は計量ギルドの計測士なんで! 依頼はギルドを通してください!」
帰還後、テオは泥だらけのまま俺のところへ飛んできた。
「師匠! 俺の計測、合ってましたか!?」
俺はスキルで視ていた実測値を告げる。「実測五十三キロ。お前の推定は誤差の範囲内。二度測り直したのも正しい。――合格だ、テオ」
テオはその場にへたり込み、相棒と抱き合って吠えた。その日の記録簿に、俺は新しい職業の名を書き込んだ。
『迷宮計測士 稼働一名』
翌日、ギルドの受付には同行依頼が七件届いた。世界は、測られるのを待っている。




