第三十五話 相棒たちの、再合流
遠征隊の、最後の空席。深層で戦える、護衛の腕。それを埋める相手に、俺は、心当たりがひとつだけ、あった。
謹慎の明けた、暁の剣である。
王都の外れの訓練場で、三人は、剣を振っていた。ガルド、リノン、そしてもう一人の剣士。
二年前、俺を「数を数えるだけの無能」と追放したパーティーだ。そして――公開計量対決や測量大会の陰で、借入の銀貨三十枚を日雇いで稼いで送ってきた、不器用な連中でもある。
「……よう、ロイド」
赤銅色の短髪に、左眉を裂く古傷。岩塊のような肩の巨躯が、剣を下ろして、こちらを見た。ガルド。二年で、少し痩せた。謹慎と、日雇いと、たぶん、いろいろあったのだろう。
「久しぶりだ、ガルド。……日雇いの護衛、板についたか?」
「うるせえ。おかげで、Sランクの看板がなくても飯が食えることを覚えた。……お前のギルドのせいだぞ。あの銀貨三十枚を送った日から、俺たちは、ただの腕自慢じゃいられなくなった」
ガルドは剣を鞘に納め、まっすぐに俺の前に立った。かつて酒場で俺を追放した、あの見下ろす目は、もう、ない。あるのは、対等な相手を見る目だ。
「聞いた。深度百層に行くんだってな。……護衛が要るんだろう。俺たちを、雇え」
「雇う、じゃない」
俺は、首を振った。
「対等の、遠征隊員として、来てくれ。給金じゃない。深度百層の景色を、一緒に測りに行く仲間として。……ガルド。二年前、あんたは俺を追放した。あれは、あんたの人生で、一番か二番目に、正確じゃない計量だったと思う」
「……ぐ」
「だが、あの追放がなけりゃ、計量ギルドはなかった。テオも、ミアも、ヴェラも、俺が拾えなかった。……だから、貸し借りは、なしだ。銀貨三十枚も、追放の件も、全部チャラ。その上で、聞く。――暁の剣。世界でいちばん深い場所に、一緒に、行かないか」
リノンが、桃色がかった金髪を揺らして、進み出た。聖女の彼女は、二年前より、少し大人びた顔で、笑った。
「行きます。……ロイドさん。二年前、あなたを追い出した夜、私、聖印に祈ったんです。『あの人が、どうか、飢えませんように』って。……追い出しておいて、勝手な祈りですよね。でも、その祈りは、届きすぎました。あなた、飢えるどころか、世界を測る側になっちゃって」
「祈りの精度が、良すぎたな」
「ふふ。今度は、隣で祈らせてください。回復役が一人いれば、深層でも、生きて帰れる確率が上がるでしょう?」
三人目の剣士も、無言で、拳を突き出した。俺は、その拳に、自分の拳を合わせた。無口な男だが、二年前、俺の荷物を酒場の外まで運んでくれたのは、こいつだった。
追放を言い渡したのはガルドだが、こいつだけは最後まで、俺と目を合わせて、済まなそうにしていた。覚えている。計量士は、そういう些細な数値も、記録に残す。
――二年前、酒場で解散した仲間が、深度百層の遠征隊として、再び揃った。追放した側と、された側が。世界でいちばん深い場所へ、一緒に降りるために。
帰り道、ガルドが、ぼそりと言った。
「なあ、ロイド。……お前、俺たちを恨んでないのか」
「恨む? 計量士は、恨みを勘定に入れない。損得だけ量る。……で、あんたたちと組む損得を量ったら、圧倒的に得だった。それだけだ」
「……っ、はは。相変わらず、可愛くねえ野郎だ」
「知ってる。可愛げの重さは、追放された夜に、荷物と一緒に置いてきた」




