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「数を数えるだけの無能」と追放された【計量士】、実は世界のすべてを測れました  作者: 青雨あき


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第三十四話 金貨三百枚の集め方

 人と技術の目処は立った。残るは、金だ。


 深度百層遠征、総費用の見積もりは、金貨三百枚。


 前世……いや、この世界の感覚で言えば、王都の大商家が一軒、屋敷ごと買える額である。庶民の生涯賃金の、何十人分だ。


 技術院総裁の私財二十枚が呼び水になったとはいえ、残る二百八十枚を、どう積むか。


 装備の見積書を、俺は改めて読み上げた。特殊な計測索が一巻で銀貨八枚、深層用の防寒防湿の外套が一人金貨一枚、非常食と灯り用の魔石が締めて金貨十五枚、ヴェラの魔導計測具の増設に金貨三十枚、そして万一の遭難に備えた予備物資と救援体制に、ごっそり金貨五十枚。命の値段は、こういう地味な数字の積み重ねで決まる。安く済ませれば、その分、誰かが深層で死ぬ。ケチる場所ではない。


「借入は、しません」


 運営会議で、俺は方針を告げた。


「グラム商会との戦いで学んだ。金は、集め方に、その事業の『正しさ』が出る。誰かに頭を下げて借りた金は、その誰かの都合で、遠征の途中で引き上げられるかもしれない。……深度百層で、資金繰りの心配はしたくない。だから、集め方を三つに分ける」


 一つ目、寄付ではなく「出資」。


 遠征の成果――深層の完全測量図と、未知の鉱物資源の記録――は、王国の測量学と鉱業に、計り知れない価値を生む。その将来価値に、出資を募る。技術院、王立測量院、そして意外にも、あのグラム商会の跡を継いだ良心的な度量衡商たちが、名乗りを上げた。


「あのとき広場で負けた側の商人だ。今度は、あんたの正しさに賭ける番だと思ってな」――商売とは、面白いものだ。


 二つ目、「計量所基金」との分離。公共計量所の建設基金には、一リルも手をつけない。あれは市井の人々の日々のための金だ。遠征の夢と、市井の暮らしは、別の帳簿で管理する。混ぜれば、どちらも濁る。

 三つ目、そして最大の柱――「予約測量」。


「遠征で作る深層測量図。あれの『閲覧予約券』を、今から売る」


「予約券……?」ミアが首を傾げる。


「回数券と、同じ発想だ。深層の測量図が完成したら、真っ先に閲覧できる権利。鉱業ギルド、建築ギルド、地質学者、冒険者クラン――深層の正確な地図を、喉から手が出るほど欲しがっている連中は、山ほどいる。その連中に、完成前に、権利を売る。……未来の成果を、今の資金に換えるんだ」


 予約券は、飛ぶように売れた。深度九十九層より下の正確な地図など、人類が一度も手にしたことがない。その「世界初」に、王国中の知と欲が、金貨を積んだ。


 中でも、忘れられない客が一人いた。腰の曲がった、老いた地質学者だった。彼は震える手で、なけなしの銀貨を数え、いちばん安い一般閲覧券を、一枚だけ買った。


「わしはな、若い頃から、この星の底に何があるか、それだけを知りたくて、生きてきた。……もう、自分で降りる足腰はない。だが、あんたらの持ち帰る地図を、この目で見られるなら。……死ぬ前に、世界の底を、覗ける」


 俺は、その銀貨を、受け取らなかった。代わりに、券に「特別顧問」と書き加えて、返した。


「先生。あんたの三十年の地質記録、遠征前に読ませてください。それが、いちばん高い出資です。……銀貨より、ずっと重い」


 老学者は、皺だらけの顔をくしゃくしゃにして、翌日、荷車いっぱいの記録を届けてくれた。金では買えない出資、というものが、ある。


 三月後、遠征基金の帳簿は、目標の金貨三百枚を、四十枚超過して締まった。


「超過分の四十枚は」俺は帳簿を閉じて言った。「遭難時の、緊急救援基金として別枠にする。……深度百層だ。全員、生きて帰る算段を、金でも組んでおく」


 人。技。金。三本の柱が、揃った。


 出発は、二月後の、雪解けと定めた。

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