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「数を数えるだけの無能」と追放された【計量士】、実は世界のすべてを測れました  作者: 青雨あき


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第三十二話 一級試験

 テオの一級迷宮計測士試験は、雪解けの朝に行われた。


 国家資格「計量士」が制定されて、初めての一級実地試験。会場は、王都近郊のダロン渓谷。


 課題は、指定された未踏の縦穴の深さ・幅・気流・落石の危険度を、単独で総合計測し、安全な降下計画まで立案すること。制限、半日。合格すれば、王国で三人目の一級計測士だ。


 そして試験官の席には――銀縁眼鏡の男が、几帳面に脚を組んで座っていた。


「エリオット・ハウザー。王立測量院筆頭測量官にして、計量ギルド入門三月目。……本試験の試験官を拝命した。私情は挟まん。手順の不備は、小数点以下まで減点する」


「うぐ……よりによって、いちばん厳しい人が……」


 テオがひきつった顔で俺を見た。俺は肩をすくめる。試験官の人選は資格統合会議が決めたことで、俺の口出しできる話ではない。


 それに――エリオットが試験官なら、この試験は絶対に、公正だ。えこひいきも、逆えこひいきも、あの男の几帳面さが許さない。


「テオ」出発前、俺は一言だけ渡した。「大会の裂け谷を思い出せ。あのとき俺の顔を見た癖は、もう直ってる。今日は俺もエリオットも、お前の答えに口を出せない。……お前の声で決めて、お前の理由を書け。それだけだ」


「……はい。行ってきます」


 黒い癖毛を風に散らして、テオは縦穴へ向かった。ひょろりと背の高い、あの緊張しいの少年が、もう振り返らない。腰には、ドガから贈られた聞き棒。緊張すると計測索を握り直す昔の癖は、いつの間にか、聞き棒の椀の部分を親指でなぞる癖に、変わっていた。ドガの「重さは引き受けるもんだ」の言葉ごと、身につけたらしい。


 試験は、静かに、しかし濃密に進んだ。テオは聞き棒で穴底の反響を読み、投下した色砂で気流を測り、壁面の亀裂に手順書の危険度判定を当てていく。エリオットは一歩離れて、一挙手一投足を、羽根ペンで記録し続けた。


 一度だけ、テオの計測索が壁の出っ張りに引っかかり、数値が乱れた。テオは慌てず、その場で「索、障害物により五メートル地点で偏向。補正値を別掲」と声に出し、記録した。


 エリオットの眉が、僅かに動いた。


 半日後。テオが提出した計測書を、エリオットは端から端まで、二度読んだ。そして、宣告した。


「――減点、二箇所。気流測定の色砂投下、規定は三回だが四回投下した。過剰は手順の乱れだ。それと、危険度判定の用語に、俗称が一つ混じった。以上、些細な減点だ。……総合評価。合格。降下計画は、私が見ても、穴がない」


 テオが、その場にへたり込んだ。俺は駆け寄らなかった。代わりに、離れた岩の上から、記録簿に一行書いて、掲げて見せた。


『本日の計測。一級計測士テオ、誕生。誤差――なし』


 テオが、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔で、こっちに向かって、力いっぱい手を振った。十六の少年が、二年で、王国三人目の一級計測士になった。俺が拾ったときは、パン屑ひとつの重さも量れなかった、あの少年が。




 帰り道、エリオットがぽつりと言った。


「……あの補正の判断。索が偏向した瞬間の、あの落ち着き。私が院で十年かけて叩き込む『現場の胆力』を、あいつは二年で持っている。……貴様の育て方は、悔しいが、認める」


「エリオット。お前も、その『胆力』を、これから二年で身につけるんだ。――深度百層の遠征隊に、お前も入れる。異論は?」


 銀縁眼鏡の奥で、目が見開かれ、それから、す、と細くなった。彼は眼鏡を拭くこともせず、まっすぐ前を見て、言った。


「……望むところだ。学統の測量が、どこまで通用するか。世界でいちばん深い場所で、試してやる」

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