第三十話 最終種目・持ち込み勝負
最終日。王都中央広場に設えられた舞台の前に、「持ち込み」の列が朝から伸びていた。
規定は明快。観客が持ち込む「何でも」を、両チームが交互に、あるいは同時に計測し、品目ごとの精度点の合計で競う。
樽職人が「この樽の正確な容積」を持ち込めばミアの独壇場となり(「うちの升より正確だ」と職人が唸った)、貴婦人が持ち込んだ金の首飾りの純度は、水没法の比重測定で両者一歩も譲らず、鍛冶屋の「熱した鉄の温度」ではヴェラの術式とセシルの色見表が名勝負を演じた。
途中には、こんな品もあった。若い母親が、抱いた赤ん坊ごと進み出たのだ。
「この子の、目方を。……取り上げてくれた産婆さんが遠くに越してしまって、この子が育ってるのか、ずっと不安で」
泣いて暴れる赤ん坊に、セシルの計算板は無力だった。ミアは母親ごと秤に乗せ、それから赤ん坊をあやして預かり、母親だけの目方を量って、引き算した。
「六千二百グラム! 生まれが三千なら、倍! 立派に育ってるよ、おっかさん!」
――風袋引き、というやつである。母親は泣き笑いで頭を下げ、赤ん坊はミアのおさげを握って離さず、進行が三分止まった。
点は競り合い、日が傾いても、両者の差は紙一枚。
そして、列の最後に――その子は、立っていた。
十歳くらいの女の子だった。継ぎの当たった服、固く握った小さな包み。舞台の熱気に気圧されながら、それでも一歩ずつ進み出て、消え入りそうな声で言った。
「……あのう。お薬、なんです。お医者さまが、お母さんに。一回分ずつ、まちがえないで飲ませなさいって。十四回分。でも、あたしが量ると、手がふるえて、毎回ちがくなっちゃうの。おねがいします。……正しく、分けてください」
広場が、静まった。包みの中身は、解熱と強心の合剤の粉薬。分量を誤れば、効かないか――効きすぎる。競技の点数を載せていい皿では、ない。
先に動いたのは、エリオットだった。彼は進行役を制し、審判長に向かって、まっすぐに言った。
「審判長。本品目を、競技から除外願いたい。競い合いながら量ってよい品ではない。……その上で」
彼は、こちらの陣地を振り向いた。銀縁の奥の目が、初めて、敵の目ではなかった。
「計量ギルドに申し入れる。――突き合わせの、共同計測を。私の天秤と、そちらの手順。二組が独立に量り、照合して、一致した分包だけを、この子に渡す。……貴様らの言う『二人測り』を、やらせてもらいたい」
「――受けます」
舞台の上で、静かな共同作業が始まった。エリオットの天秤が総量を量り、ミアの手が分包を刻み、テオの手順が各包を検分し、ヴェラが湿気を避ける封を施す。
二組の計測は独立に進み、最後に突合され、十四包すべてが、一致した。テオは即席で「お薬の量り方」の絵図を描き、匙のすり切り方まで描き添えて、包みと一緒に少女へ渡した。
「はい、十四回分。ぜんぶ、二回ずつ確かめたから、大丈夫。……お母さんに、お大事にって」
「……っ、ありがとう、ございました!」
深々と頭を下げて駆けていく小さな背中を、広場中が、拍手で見送った。
――採点の結果、競技分の合計は、樽と純度の積み上げで、計量ギルドがごく僅かに上回った。総合成績、二勝一敗。優勝、計量ギルド。賭け屋の四倍が当たった一角(エリオットの銀貨二枚を含む)が沸く中、審判長の総裁は、講評でこう締めくくった。
「優勝は計量ギルド。健闘は王立測量院。……だが諸君。本日この会場で、最も正確だった計測は――勝敗の外で行われた、あの十四包であることを、審判長として記録に残す」
俺は壇上に呼ばれ、優勝賞金・金貨五十枚の使い道を、その場で宣言した。
「全額、王都に『公共計量所』を建てる基金にします。誰でも、いつでも、無料で、正しく量れる場所を。……本日の最後の依頼人のような人が、二度と、震える手で一人で量らなくて済むように」




