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「数を数えるだけの無能」と追放された【計量士】、実は世界のすべてを測れました  作者: 青雨あき


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第二十三話 断面の証明

 布包みから現れたのは、見慣れた形の五百グラム錘だった。鈍い銀色、側面には「計量ギルド公認」の刻印。バルサックは、それを検分台に、ことりと置いた。


「三番勝負は簡潔にの。この錘は、市中で買い上げた貴ギルドの公認錘。これが表示通り五百グラムであるか、貴殿ら自身の手で量っていただく。正しければ貴殿らの勝ち。狂っておれば――貴殿らの看板ごと、狂っておったということよ」


 なるほど、仕上げの一手はこれか。


 狂いを仕込んだ偽錘を「うちの製品」として出し、衆前で狂いを暴かせる。量れば負け、量るのを拒んでも負け。どちらに転んでも、看板に泥が付く算段だ。


 俺のスキルは、置かれた瞬間に全部を視ていた。実重量四百八十九グラム。


 内部に密度の違う異物――鉛、三十七グラム。外殻の合金は、正規品と別物。


 さて。答えを知っている勝負ほど、慎重にやる。証明は、目に見える順番で積む。


「ミア。まず、外見の検分から」


「ん」


 ミアは錘を持ち上げ、掌で転がし、底を覗いて――一秒で、鼻を鳴らした。


「師匠、皆さん、よーく見て。うちの錘はね、仕上げの削り目が渦巻きなの。職人の親方たちの、引き算の癖。これは削り目が放射。うちの工房の手が、入ってない」


「儂の目にも、うちの渦じゃねえな」親方が壇に上がり、断言する。「第一、儂ら、こんな腰の抜けた面取りはせん」


「続いて、水没法。体積を量ります」


 目盛り付きの水槽に錘を沈める。押しのけた水の量から体積を割り出し、表示重量五百グラムと突き合わせれば、比重が出る。ミアが読みを叫び、テオが黒板に計算を書き付けた。


「比重が、正規の合金と合いません! この錘、中に比重の違う何かが入ってます!」


「では実測を。――四百八十九グラム。表示より十一グラム軽い。外側の合金を軽く作り、中に重い芯を入れて帳尻を合わせようとして、合わせ損ねた数字です。中身は鉛。目方にして、おおよそ三十七グラム」


 俺は、広場を見渡した。四千の目が、検分台の一点に集まっている。


「――観客の皆さん。今からこの錘を、目の前で、切って見せます」


 親方が進み出た。鏨が据えられ、鎚が振り上げられ――カン、と乾いた音が一つ。


 真っ二つになった錘の断面から、鈍色の芯が、ごろりと転がり出た。



 鉛だった。



 一拍の静寂ののち、広場が、割れた。歓声と、怒声と、指笛。「偽物だ!」「中身が入ってやがった!」「切ったぞ、ほんとに切った!」――記録水晶が、その全部を封じていく。


 俺は、転がった鉛芯を摘み上げ、審判席とフォルグ審査官に向けて掲げた。


「検分をお願いします。第一に、この錘は我々の工房の製品ではない。削り目、面取り、比重、すべてが工程記録と不一致です。第二に、外殻の金属配合――これは商務府に届け出のある、ある商会の地金と一致するはずです。以前、市中に出回った偽錘四十三個と、同じ配合です。第三に」


 俺は、バルサックを見た。


「この偽錘を『市中で買い上げた』とのことですが、本日の勝負の準備品の調達記録は、証文により全て開示対象です。この錘を、いつ、どこで、誰から買ったのか。記録をご提示願いたい。……ないのなら、この錘は市中からではなく、あなたの懐から来たことになる」


 沈黙。審判席の一人――商会が選んだ名士だ――が、耐えかねたように口走った。


「じゅ、準備品の管理は、すべて商会側が……あっ」


 言ってから、青くなっても遅い。広場中が、聞いていた。記録水晶も、聞いていた。


 バルサックは、長いこと動かなかった。それから、ゆっくりと扇子を開き、閉じ、また開き――やがて、腹の底から息を吐いて、櫓の中央へ歩み出た。


「……三番勝負、ならびに本対決。グラム商会の、負けじゃ。証文に従い、王国の度量衡の商いより撤退する。ここに、署名する」


 どよめきの中、狸は署名を済ませ、最後に俺の前に立った。油の笑みは、もう剥がれていた。剥がれた下にあったのは、存外、ただの疲れた老商人の顔だった。


「若いの。二百年、ワシの家は『信用は作るものではなく、買うものだ』と教えてきた。……今日、初めて、売り物でない信用に量り負けたわ。――精進せい。貴様の秤が狂う日を、隠居先で楽しみにしておる」


「ええ。狂ったら、誰でも検算できるように、手順は公開してあります。……あんたでも、ね」


 狸は一度だけ、ふ、と笑い、広場の人波に消えた。




 その日、賭け屋の大穴・七倍を的中させたのは百二十三人。


 うち一人はザラで、彼女は配当の銀貨をその夜、山猫の爪とギルドの合同祝勝会に全部注ぎ込んだ。


「勝つと思ってたんじゃない。勝たせる気だったんだ。それは賭けじゃなくて、投資って言うんだろ?」


 ――まったく、うちの周りは、商売の分かる連中ばかりだ。

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