第二十二話 公開計量対決・前編
当日の王都中央広場は、収穫祭より人が出た。
目算で四千人。屋台が出て、賭け札が舞い、子どもらが「けいりょうしさーん」と手を振ってくる。中央の櫓の上に検分台が二つ、審判席に王都の名士が三人――人選はすべて商会側だ。
商務府からはフォルグ審査官が立会人として着席し、几帳面に切り揃えた爪で、開始の書類を検めている。ヴェラの記録水晶が、櫓の四隅で静かに光り始めた。
「――これより、グラム商会・計量ギルド両者立会いの公開計量対決を執り行う! 勝負は三番! 細目は主催者たるグラム商会の定めるところによる!」
一番勝負「基準の検分」。
両者の秤に同じ分銅を載せ、正しく量れるかを競う――と聞けば公平だが、細工は基準そのものに仕込まれていた。
商会が用意した基準分銅は、「王家宝物庫より拝借した、百年前の公式分銅」。錆と由緒をまとった、文句のつけようのない権威の塊である。
結果。商会の秤は、公式分銅一キログラムを「一キログラム」と表示した。うちの秤は――「一キログラムと、二十一グラム」。
「おおっと、これは! 計量ギルドの秤が、王家の分銅を量り損ねたぁ!」
商会側の進行役が煽り、観客がどよめく。審判席が渋い顔でこちらを見る。
ミアが横で「師匠、あれ」と囁いた。「うん。視えてる」――俺のスキルは最初から答えを出している。あの公式分銅、百年の保管で錆と摩耗を重ね、実重量一キロ二十一グラム。
狂っているのは、うちの秤ではない。基準のほうだ。そして商会は、狂った基準に自社の秤を合わせてきた。
だが、スキルの断言は証明にならない。証明は、誰の目にも見える手順でやる。
「審判団に申し上げる。基準そのものの検算を、この場で行いたい。――使うのは、水です」
俺は、王家公認の検定升(一リットル升。市場の酒屋が毎日使う、誰もが知る升だ)と、汲みたての水甕を櫓に上げさせた。
「皆さん、ご存知の通り、水一リットルの重さは一キログラム。これは人間が決めた約束ではなく、水が決めている事実です。今の水温での補正はごく僅か――学者の先生、後で検算してください。この升で量った水を、両方の秤に載せます」
升に、すりきり一杯の水。まず商会の秤へ。表示、「九百七十九グラム」。観客がざわめく。次にうちの秤へ。表示、「一キログラム」。
「……つまり、こういうことです。うちの秤は、水を正しく量った。商会の秤は、水を二十一グラム軽く量った。なぜか。あの由緒ある公式分銅が、百年分の錆で二十一グラム太っていたから。商会は、太った基準に合わせて秤を仕込んできた。基準が狂えば、正しい秤ほど『狂って』見える。……皆さん、これが、基準を疑うということです」
広場が、揺れた。フォルグ審査官が身を乗り出し、学者の審判が升と水温を検算して青い顔で頷く。一番勝負、判定は紛糾の末「基準不備につき、無効」。だが観客の空気は、もう動いていた。
二番勝負は「持ち込み計量」。
観客が持ち込む品を、両者が量って精度を競う。持ち込みの列には、明らかに手際の良すぎる数人が混ざっていた――ザラが観客席から、指を三本立てて寄越す。サクラ、三名。
一人目のサクラが出したのは、大ぶりの壺だった。持つたびに、とぷん、と中で何かが揺れる。水銀だ。重心が動く液体を仕込んだ壺は、皿の上で釣り合いが定まらず、並の秤読みなら目盛りが暴れて往生する。
「ミア、頼む」
「はいよっ」
ミアは壺を受け取ると、耳元で二度傾け、にっと笑った。
「――おじさん、いい性格してるね、この壺」
彼女は壺を検分台にどんと据え、揺れが収まるのを待って一点測り。壺の向きを変えてもう一点。さらにもう一点。三つの読みの真ん中を取る、手順書第七章「暴れる荷の三点測り」そのままの動きだった。
「四キロ百八十グラム、中身の揺れ込み誤差、上下二十グラム! ……で、正解は?」
サクラ氏が、懐の答え合わせの紙を出し渋る。進行役が咳払いして読み上げた。「……四キロ、二百グラム、である」。誤差、二十グラム。上限ぴったり。観客が沸く。
対する商会の秤読みは、同じ壺に翻弄された。据えて読むたびに目盛りが揺れ、三度読んで三度違う数字を出し、しまいに「この壺は計量に適さぬ!」と突き返した。自分たちで仕込んだ壺に、である。
広場のどこかから、遠慮のない笑い声が上がった。
二番勝負、ギルドの勝ち。審判団も、これは覆せなかった。
櫓の向こうで、バルサックが初めて、扇子をぱちりと閉じた。そして油の笑みのまま、懐から布包みを取り出し、高々と掲げた。
「お見事、お見事。では――最終勝負と参ろうかの。量っていただきたいのは、これ。貴ギルドの、公認標準錘でございますよ」




