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「数を数えるだけの無能」と追放された【計量士】、実は世界のすべてを測れました  作者: 青雨あき


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第二十話 果たし状は、公開で

 俺が果たし状を叩きつけたのは、王都・商業ギルド連合会の月例会――王国中の大商人が顔を揃える、その公開の議場だった。


 石造りの議場には、百を超える商家の紋章旗が下がっている。穀物商、織物商、両替商、海運の顔役。


 末席には、審査から戻ったばかりのフォルグ審査官の姿もあった。俺は発言権を持たない来賓だが、グレンダが冒険者ギルド連盟の枠で発言の場をもぎ取ってくれた。


 「言いたいことは公開の場で言いな。密室は、狸の巣だからね」――その通りにする。


「グラム商会頭取、バルサック殿に、計量ギルドから公式に申し入れる。――公開計量対決を」


 議場が、どよめいた。壇上のバルサックは、丸い腹の上で指を組み、油の笑みを崩さない。


「ほう。……対決、とは穏やかではありませんな。当商会が、貴殿に何か?」


「この半年、市場に出回った偽の公認錘。四十三個の回収品の金属配合は、御商会の卸す地金と小数点以下まで一致した。テッサでの無料校正の中身、王都での四分の一のダンピング。……ですが今日は、その申し開きを求めに来たのではありません。もっと単純な話をしに来ました」


 俺は、議場を見渡した。王国の商いを回す、何百という商人の目。


「市場は、信用された秤で回る。あなたの言葉です、バルサック殿。ならば白黒は、法廷ではなく、市場の目の前でつけるべきだ。――王都中央広場で、御商会の秤と、うちの秤。どちらが信用に値するか、三番勝負で量り比べましょう。観客は王都の民、全員。負けた側は、王国の度量衡の商いから撤退する。公証人立ち会いの、証文付きで」


「これはこれは。……随分と、大きな賭けですなあ。よろしいのですかな? 二年の若いギルドの看板と、二百年の当商会の看板。天秤に載せる目方が、釣り合っておらんように思いますが」


「釣り合いますよ。看板の重さは、年数では量らない。今から量るんです、広場で」


 バルサックの目が、初めて笑みの形のまま、細く尖った。長い沈黙。議場中の商人が固唾を呑む中、頭取はゆっくりと立ち上がり、芝居がかった仕草で両手を広げた。


「――面白い! 受けましょうとも。二百年の看板に懸けて。ただし、こちらからも条件を。対決の運営一切――会場の設営、審判の選定、勝負の細目――は、主催者たる当商会にお任せいただく。挑まれた側の、ささやかな権利として。よろしいかな?」


 会場設営も、審判も、細目も、全部向こう。つまり、盤の上から下まで、細工し放題ということだ。議場の商人たちが、あからさまに顔を見合わせる。誰の目にも罠と分かる条件。



「結構です。すべて、お任せします」



「し、師匠!?」隣のミアが袖を引いた。俺は構わず続けた。


「ただし一点だけ、こちらの条件を。勝負の一部始終を、両者の帳簿と記録に残し、終了後に全て公開すること。細工も、公正も、あとから誰でも検算できるように。――記録さえ残るなら、盤がどれだけ歪んでいても構いません。歪みごと測るのが、俺の商売なので」


 バルサックの笑みが、ほんの一瞬、凍った。それから彼は「……若いの、良い度胸だ」と低く笑い、証文に、指輪だらけの手で署名した。




 対決は一月後。王都中央広場。日取りが公示されると、王都は祭りの前のようにざわめき始めた。賭け屋が早速、倍率を貼り出したという。二百年の商会が本命、二年のギルドは大穴。倍率、七倍。


「なんか悔しい! 師匠、あたしたち大穴だって!」


「上等だ。大穴が当たったときほど、客席は沸く」


 帰りの馬車で、ミアが唸った。


「でもさ、師匠ぉ……全部任せるって、正気? 審判買収、錘のすり替え、サクラの動員、なんでもやってくるよ、あの狸」


「やってくるだろうな。だから、いいんだ」


 俺は、窓の外を流れる王都の灯りを見ながら、指を折った。


「考えてみろ。向こうが細工をすればするほど、当日の広場には『不正の現物』が並ぶことになる。審判が買収されていれば、買収された判定が記録に残る。錘がすり替えられていれば、すり替えられた錘が卓に載る。……で、俺たちは対決の条件で、全記録の公開を証文に入れた。つまりあの広場は、向こうにとっては舞台だが、こっちにとっては――王都中の目玉の前でやる、公開監査だ。細工の一個一個が、証拠品として向こうから歩いてきてくれる」


「……あ。だから『歪みごと測る』って」


「そういうことだ。ただし、条件がある。細工を暴くには、こっちの計測が、一点の曇りもなく正しくないといけない。疑われる余地が塵ひとつあれば、水掛け論に持ち込まれる。――ミア。一月で、仕上げるぞ。俺たちの錘と、手順と、お前の、その舌と目をな。それとテオ、ヴェラに伝えてくれ。当日の記録係は魔導記録術式込みで頼むと。ザラには観客席の……いや、これは会ってから話す」


「師匠、なんか楽しそうだね?」


「ん? ……ああ。考えてみれば、俺の人生で初めての、『測ってくれ』と世界中に頼まれる仕事だからな」


 一月後の広場で待っているのが、想定を三枚も上回る狸の細工だとは、このときの俺は、まだ知らない。だが知っていたとしても、答えは同じだったろう。



 歪みごと、測ればいい。

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