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「数を数えるだけの無能」と追放された【計量士】、実は世界のすべてを測れました  作者: 青雨あき


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第十八話 街ぐるみの、回数券

 反撃の狼煙は、思わぬ方角から上がった。


「よお、計量屋。景気が悪いんだってな」


 ギルドの戸口に立ったのは、山猫の爪のリーダー、ザラだった。三十絡みの俊敏な女戦士で、短い黒髪に、左の頬に古い獣の爪痕が三筋。二年前、風哭きの穴でテオの初仕事に付き合ってくれた、迷宮計測士の最初の理解者だ。


「聞いたぜ。商会の安売りにやられてるって。……で、うちのパーティで相談したんだがな。これ、買わせろ」


 ザラが机に叩きつけたのは、銀貨の包み――と、彼女が手ずから書いたらしい下手くそな図面だった。


 『けいそくかいすうけん(十回分)』と書いてある。


「回数券だ。迷宮計測の同行依頼、十回分を前払いで買う。一回銀貨二枚のところ、十回まとめて銀貨十八枚。一割引きだ。どうせうちは年中頼むんだ、先に払っても損はねえ。それでお前らは、今月の金が入る。……どうだ、この算盤」



「……ザラ。あんた、天才か」



「おう。剣以外でも褒められたのは初めてだ」


 前払いの回数券。依頼する側は割引を得て、こちらは今の運転資金を得る。


 金の流れの時間を、前へずらすだけの単純な仕掛け――だが、単純なものほど強い。


 俺は即日、券の様式を整えた。偽造防止に、例の校正証明書と同じ透かしと、職人の焼き印。券の裏には、使用のたびに担当計測士が署名する欄。金と一緒に、責任の記録も動く設計だ。ヴェラが試しに複製を試み、「私の魔力でも三日かかります。割に合いません」と太鼓判らしきものを捺した。


 そして、この仕組みは迷宮計測に留まらなかった。


 噂を聞いた市場の商人たちが、次々にギルドへ現れたのだ。


 先陣は、あの偽錘を掴まされた乾物屋の主人だった。「秤の年間点検、五年分前払いだ」と銀貨二十枚を積み、俺が「五年は長すぎます、店が心配なら三年で」と押し返すと、「うるせえ、五年だ。五年後もあんたらに居てもらわにゃ、こっちが困るんだよ」と怒られた。妙な怒られ方だった。


 パン屋のおかみ連は「うちの通りの店、十二軒まとめて点検の回数券を買うよ」と束になって来て、ついでに囲炉裏端で井戸端会議を始め、テオの縁談の心配までして帰った。余計なお世話である。テオは真っ赤になっていたが。


 夕方、ミアが売上を数えながら、しみじみと言った。


「みんな、覚えてたんだね。偽錘のとき、うちがタダで交換したこと」


 おかみ連の一人が、帰り際に言い残していた言葉が、耳に残っている。「あんたらは、あたしらが騙されたとき、タダで助けてくれた。今度はあたしらが、前払いで助ける番さ。商会の無料? ふん。無料ほど高いもんはないって、市場のもんは知ってるんだよ」


 ――信用は、こういうときに貯まる。ミアの言った通りだった。そして貯まった信用は、こういうときに、利子をつけて戻ってくる。


 月が替わる頃、回数券の売上は金貨七枚を超え、給料は借入に手を付けず全額払えた。借用書の返済も、第一回目の配当付きで始められた。テオの年利一割は、満額である。




 そして、北からも風が吹いた。テッサのドガから、二通目の文。


『師匠殿。動いた。三日前、東の第二坑道で、俺の計測が崩落の兆候を出した。亀裂の進み、一日に指二本分。手順書の言う危険域だ。山主は商会の口車で渋ったが、俺は坑夫たちに直に言った。「明日は入るな。儂の判子に懸けて言う」と。夜半、坑道は落ちた。中に、人はいなかった。……翌朝から、うちの支部の前に行列ができている。商会の無料の幟は、今日、二本に減った』


 読み終えたテオが、はなをすすった。ミアが囲炉裏に向かって拳を突き上げた。


「支部長、初仕事! 死人、ゼロ!」



「ああ。――全員、聞いてくれ。潮目が変わった。ここからは、守りじゃない。攻めの算段をする」

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