第9話:合法娯楽 精神暴力①
「はっ……はっ……」
荒い呼吸音を発するロードは、草原に仰向けに寝転がっている。
――今日の勇者業務、終了から5分が経過。
他の勇者の大多数は、既に退勤している。
2本のデーモンエナジーを飲んだロードは、その日の業務を乗り切った。
明らかにロードだけ周りの何十倍もの労働負荷であったが、ロードは何とか乗り切ったのだ。
労働している間、ずっと緊張状態だった身体が、くたっ、と 脱力している。
……もう、帰宅する気力もない……
こんな過重労働が、明日も俺を待っている。
明日は過労日。そしてまた明後日も……
もうダメだ。
もう俺は、労働不可能戦えない――
「ロード君、大抜擢されたね!おめでとう」
底抜けに明るい声が聞こえる。
ロードは、ぼんやりとした意識で、そちらを見る。
サラが立っている。
いつも通り、目にクマができ、セミロングの茶髪はボサボサのままだ。
――なのに、笑顔を絶やさない。
「あ……ハイ……すいません。寝転がってしまって……」
鉛の様に重い体をなんとか起こし、立ちあがるロード。
「最初はキツイけど、作業内容を覚えれば、作業リズムに慣れれば メッチャ楽だよ!」
……いや、それは無い。
作業を覚えて 慣れたとしても、身体を動かしっぱなし、思考を回しっぱなし……で、8時間以上働き続けることに変わりはない。
明らかに、労働負荷が高い……否、高すぎる。
「……えっと……それは……」
言葉に詰まるロードの身体を、サラが、ぽんぽん、と叩く。
「大丈夫だよ!」
サラが、ボディタッチを何回もしてくる。
そして、少し前かがみの姿勢を取り、ロードの目を見据え、言った。
「ロード君は、強いね。逞しいね。
今まで見てきた男の中で、一番……カッコいいかも」
ロードは、自分よりも少し背が低いサラの、形の良い……おっぱい に目が言った。
――永遠のロマン。最強のパワースポット。世界中の男たちが人生を賭して追い求める理想郷シャングリラ。
………………――――――
ロードの心に、身体に、枯渇していたエネルギーが湧き上がっていく。
そうだ。
俺は、初日を乗り切ったじゃないか。
明日以降は、今日と同じ仕事を繰り返すだけだ。どんどん慣れていく。どんどん楽になる。
ここで辞めたら……今までの努力がムダになる。
ムダには、しない。
俺は――――労働可能戦える!
”……のでは、あるのだが……。
実際問題、今の状況はなんとか打開せねば”
――次の日。
ロードは改善を求めるため、普段よりも早く出社していた。
そして、部隊長専用のテントに赴き、異議を唱えている。
「部隊長、僕の業務量が明らかに負荷が高すぎます」
「そんなことはない。他の人たちは比じゃないくらいキツイ」
部隊長は、詳細を聞こうともしない。
「楽な仕事なんて無い」
「いえ、相対的に楽な仕事はいくらでもあります」
「言い訳するな!
”でも・だって・どうせ・ですが” という4D言葉は、自己成長を止めるんだぞ!」
部隊長は、熟考するでもなく、ロードの質問に即座に返答をし続ける。
自分の作業量が多すぎる事に、意義を唱えるロード。
「だが、他の勇者たちは、仕事をしっかりこなしている。
お前は、文句を言うより、どうすれば仕事をできるようになるか、を考えろ。
それが、成長につながる」
心身が限界であることに、意義を唱えるロード。
「でも、辛いのはみんな一緒だよ。
君は、いつも汗びっしょりで頑張ってるから、ミスしても大目に見てたんだよ?
色々やらかして、周りに物ッッ凄い迷惑かけたけど、俺がフォローしたから!
……すぐ慣れる。落ち着いて仕事をすればいいよ」
他の非正規雇用勇者と時給が同じなのに、労働負荷が高すぎて不公平であることに、意義を唱えるロード。
「安心していい。
お前の頑張りは、しっかり見ている。評価している。
信頼してない相手に、重要な仕事は任せないよ」
言い知れない脱力感に襲われるロード。
”……………宇宙人か!?コイツは。
話が全く通じねえ。話が1ミクロンも嚙み合わねえ。
ワンチャン、宇宙人の方が……話が通じるんじゃねーか?”
論点をズラしまくる相手と話すのは、とんでもなく疲れる。
論点ズラし を指摘して、ズラされた論点を適切な位置に戻す……というプロセスには、多大な思考力を消費する。
キャッチボールで、毎回とんでもない方向に投げられるボールを、その都度 走って取りに行くようなものだ。
本来なら、論点ズラしを指摘して周りの人間に相談(つーか相手を孤立させるための根回し。自己防衛だ)すれば、相手への反撃になる。
しかし、周りの人間は、俺がアホみたいに辛い労働をさせられることで、楽をしている。
陰口のネタで会話を持たせている。
俺は、スケープゴート認定されてしまった。
したがって、俺が 部隊長の論点ズラしを指摘しても誰も耳を傾けないだろう。
そもそも、相手は部隊長であり、上司だ。
角が立たない言い方をしないと、「ロードは無礼な奴だ!異常者だ!」と、さらに俺を悪者にする材料として使われるだろう。
――不意に、部隊長は、渾身の笑顔を浮かべた。
「こんな風に本心を打ち明けられる場所、今までなかったやろ」
「…………………………………………」
ロードは、言い知れない脱力感と、底知れない気持ち悪さを、感じていた。




