表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/14

第10話:合法娯楽 精神暴力②


――次の日・朝礼。


数十人の短期バイト勇者たちは、ぐるっ、と円を描くように集合している。


大きな声で朝礼を進める部隊長の左横にはサラ、右横にロードが立っている。


”部隊長の横って、正規雇用の勇者がいるべきポジションだよな?


……俺、非正規雇用なんだが”




部隊長は、書類を読み上げている。


何やら、雑魚モンスターを討伐する武器の間違いが、多数発生しているらしい。


例えば、タイプAの雑魚モンスターを、対タイプB武器で攻撃してしまう……という、取り間違いが。


短期バイト勇者たちは、基本 同タイプのモンスターを倒し続けて、たまに来る別タイプのモンスターを倒す時だけ、武器を持ち替えるのだが……。


なぜ、それでミスをする人がいる?




――まあ、別言語圏からの労働者であり、この異世界の言語がよくわからない人が間違えてしまうのだろう。


……と思ったが、どうやら同じ言語圏の短期バイト勇者達も間違いが多発しているらしい。


なんでだよ?短期バイト勇者たちは、明らかに労働負荷が軽いだろ。


……と思ったが、その理由は察しがつく。


フリートークをしながら作業している短期バイト勇者達も少なくないからだ。


フリートークをしている時はもちろん、していない時でも脳は深層意識でフリートークのネタを探し続けるので、どうしても意識が散るのだ。


結果、ミスを誘発する原因となる……。




――部隊長が書類の内容を読み上げている時に、ニタニタしながら なにかを話している2人組が目に入った。


部隊長は、2人組に注意をしない。


気づかないのだろうか?気づかないフリをしているのだろうか?




「……あ、あの、部隊長。

その種類のモンスターが出現するのは、元旦じゃなくてクリスマスイヴです……」


サラが、気を遣いながら……部隊長の間違いを、指摘した。指摘せざるを得なかった。


「……え……あ……い、今の説明、一旦忘れてくれ。

再度、説明し直すから」


ニタニタ話す2人組は、明らかに噴き出した様なリアクションを取る。


無礼千万。


他の、短期バイト勇者達の中にも、目配せをしあって首を傾げるなど、小馬鹿にした様な態度を取る者も少数ながら、いる。


場の空気が、明らかに変貌した。


少なくとも、部隊長にとっては極めて好ましくない方向へ――




――部隊長は、ロードを小突いた。手のひらで、はたく様に。


”……え?なに、この人。距離感がおかしい。

まるで、俺がミスの原因であるかのように 誤解されるだろう?”


そんなことを思いながら、反射的に部隊長の顔を見たロード。


……真顔から、極度の緊張が伝わってくる。


”ああ、俺・ロードの報告ミスであるかのように、周りに思わせたいんだな”


ロードは理解した。部隊長の思惑を。


――そして、ブラックな環境は、長い時間をかけて――人間性を腐らせると。




――作業開始時刻から、30分経過。


思考をフル回転させながら、動き続けているロード。


「……休憩って、いつから?」


主婦勇者の質問で、思考がぶった切られた。


「僕も非正規雇用なんで、詳しいことはわかりません。

ですがたぶん、あと15分で休憩になると思います。」


「……………」


返事もしない主婦勇者に内心イラっとしたが、その感情を抑えて作業を続けるロード。


武器庫に行き、武器と 黒魔術用の液体の材料を持ってきて、勇者達に配りに行き、使用された武器は回収して臨時武器庫の元の場所に仕舞う。


そんなことを繰り返していると、もはや時間感覚がわからなくなってくる。


……混濁した意識の中、ロードは懸命に作業を続けていた。




「ねえ!時間になっても休憩に ならないんだけど!!」


主婦勇者が、明らかに怒った態度で、ロードに不満をぶつける。


そして、その横の大学生勇者も、ギロッとロードを睨むような視線を投げかける。


ぐったりしていた表情のロードだが、不快感を少しばかり表情に出しながらも、できる限り冷静に答える。


「……さっきお伝えしたのは、あくまで予定時刻であり、時間が押してるんだと思います。

……僕も、非正規雇用の勇者であり、この職場の都合はわかりま」


ードッ!ー


――大学生勇者が、小型包丁ペティナイフをまな板に突き立てる音が響いた。


全身を躍動感たっぷりにムダに動かし、オーバーなアクションで、包丁の切っ先をまな板に突き立てたのだ。




「………………………………」


その光景を見たロードは、心の奥底から、ふつふつと怒りが湧いてくるのを自覚した。


この人達は……こいつらは……ここで俺の悪口を言い合っていたのだろうか?


明らかに、身に覚えのない敵意を感じる。


短期バイトの2名に、明確に怒りを抱いたロード。


大学生勇者に、視線を合わせて口を開く。


「……………………まず、その包丁を置きましょうか?」


大学生勇者の身体が 少しばかり、びくん、と跳ねる。


そして、無言でゆっくりと小型包丁ペティナイフをまな板の上に置いた。




ロードは怒りを抑えつつ、声を荒げず、冷静に言葉を選ぶ。


「……なぜ、その様な態度を取るのですか?」


「………………………………………………」


ロードの言葉を受けた大学生勇者は、無言になった。


恐らく、思考力を総動員して、マウンティングの可否を判定する演算処理を行っているのだろう。


数秒後、導き出された答えがアウトプットされた。


「休憩にならねーからぁ!」


両目をカッと見開き、露骨に攻撃的な態度をあらわにする。


言葉を続ける。


「嘘つかれた!!」


……対応を間違えたか?極力刺激しない方が良いと思ったが……。


コイツに対しては……怒りを抑えず、声を荒げて、怒りに任せた言動を取るべきだったか?


「…………俺は非正規雇用だと、さっき言っ」


その言葉を遮る様に、主婦らしき勇者がロードの方を見ずに壁を向いたまま、大声で怒鳴る。


「口じゃなくて、手を動かしなよ!」


主婦勇者の罵倒する声が響きわたり、余裕を持ってモンスターを討伐している勇者たちの視線が、一斉にロードに集まる。




……この…………………………糞ババアッッ!!


こっちが暴力を行使しないと安心してるから、そんな口が……


この2人を…………このクズ共を……………!!




…………ダメだ!!


俺が、悪者にされる!


どれだけ不当な精神暴力を受けたとしても、こっちが少しでも物理暴力を行使したら……

経緯など考慮されず、目に見える結果だけで判断されてしまう!


こっちが全面的に悪者になってしまう!!




――ロードの中で、なおも膨れ上がる物理暴力の衝動。




このクズ共の顔に拳をめり込ませたい!その顔を、思いっきり殴り飛ばしたい!


いや…………………殺したいッッ!!!!


………ダメだ!……抑えろ!!


でなくば、俺が悪者に……………


………………………――――――――――


ふうぅぅぅぅぅ。




――暴力の衝動を、自己防衛本能を……理性で抑えつけた。


”……なんだ。この程度の事……気にしなければ、気にならないじゃないか。

気にしすぎなんだな。俺は……”


ロードは、何事もなかったかの様に、作業を再開した。


さっきまでと、同じ様に。


”……………………………”


だが、なんだか、感覚がさっきまでと、違う。


何かが欠落したような感覚が、ロードを包み込む。




――頭が、働かない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ