第7話:一極集中①
――ロードが、この異世界に就職してから、3ヶ月が経過。
この異世界は、今日から繁忙期に突入する。
そして、繁忙期の間のみ一時的に臨時部隊が設立される。
責任者は部隊長(通常部隊と兼任)、補佐役はサラ、ついでに俺――
――雑魚モンスターの発生数が3倍にハネ上がる繫忙期。
そして、繁忙期のみ、年末年始のみ設けられる、この臨時部隊の業務内容――
繫忙期の一ヶ月間のみ短期雇用される大量の勇者達をまとめて、大量に増加する雑魚モンスターを討伐しまくるのだ。
もちろん、短期雇用のアルバイト勇者達は、これまでに勇者経験がない、つまりモンスター討伐の経験が無い人も多い。
定職につかないフリーターや、冬休み中の学生、また主婦も多い。
――そして、極めつけは……言葉による意思疎通コストが高い勇者たち。
遠く離れた異世界から大量雇用された、言語が違う労働者たちだ。
短期バイト勇者達が、続々と出勤、臨時部隊が配置されているこの場所へやってくる。
フリーターらしき勇者は、草原を眺めている。
冬休みの学生らしき勇者は、複数人で固まってフリートーク。
主婦らしき勇者は、多忙な家事の合間に来たのか、既に疲れているご様子。
言語が違う勇者たちは、半数を占めており……聞きなれない言語が飛び交っている。
そんな中、部隊長とサラは てんてこ舞いだ。
朝礼など無い。時間が惜しいからだ。
「ロード!こっちに来い!仕事を教える」
部隊長が慌ただしくロードに声をかける。
「あそこに 臨時武器庫があるだろ!
短期バイト勇者たちが担当してるポジションに行進してくるモンスター達を見て、基本の5種類以外が出現した場合、対応した武器を短期バイト勇者たちの所に届けろ。
使ったら、回収して臨時武器庫の元の場所に仕舞え。
これ、一覧表な!」
一覧表を見ると、今まで見たことのない種類のモンスターや武器が記載されている。
その数、50種類。
巨大なテントで設営された臨時武器庫の中に入ると、50種類にも及ぶ多様性にあふれた武器が並ぶ。
俺は、その内10種類くらいしか知らない。
「……え、これ、俺が管理するの……」
背後から、部隊長の声が聞こえる
「ロード!こっちに来い!仕事を教える!」
…………!?
聞き間違い……ではないよな?
不可解な面持ちで、急いで部隊長がいる場所に向かう。
「ここで、短期バイト勇者達が、黒魔術に使う5種類の液体を調合する。
ミスが無いように教えてやれ。
材料が足りなくなったら、すべて武器庫にある。
黒魔術でのモンスター討伐はサラが担当するから、随時サラの所に持っていけ!」
…………………………………………!??
教えようにも……”黒魔術に使う5種類の液体” ってのも、今 初めて知ったんだが?
目の前に、調合方法を記した紙も5種類分、貼られてはいるが……
調合した本人に確認させれば よくね?
初見の俺が、確認する意味は!?
んで、黒魔術用の液体の材料も、俺が武器庫から持ってくるの!?
……え?
あれ?
ちょっと待って?
ワケがわからなくなってきた?
言われた内容は、俺がやらなきゃいけないんだよね?
非正規雇用であるハズの俺が、初見の仕事を、大量に?
…………………労働負荷が、高すぎるんじゃないの?
ロードは、脳内から発せられる煩雑な思考に飲み込まれていた。
――モンスター達が、行進を開始した。
…………!?
タイプAのモンスターが、列を成して行進している様子が、ロードの視界に映る。
隣のポジションもタイプA。
その隣のポジションでは、タイプBのモンスターが、列を成して行進している。
あれ?俺の時は初日から5種類のモンスターを討伐したよな……。
アルバイト勇者たちが担当するモンスターは、ポジション毎に1種類に統一されているようだ。
そして、行進速度が明らかに遅い。
対応する ”伝説の剣” を何回も振り下ろす短期バイト勇者。
7発目で1体目を倒した。
余裕を持って、2体目が近づいてくるのを待ち受けている。
――――――――!?
タイプCモンスター達の列の中に、1体 別タイプのモンスターが紛れ込んでいる!
オレンジ色の皮膚と 大きな翼。
西洋竜を思わせる巨体を 2本の足が支える。
力強く伸びた尾には、赤い火がともっている。
……あんなモンスター、見たことがない。
ふと、一覧表に視線を移す。
…………ヤバい!
俺が、あのモンスターに対応する武器 ”消火器” を、武器庫に探しに行って、あのポジションの短期バイト勇者に届けなければいけないんだ!
ダッシュで武器庫へ向かい、急いで武器を探す。
「……はああ?どこに何があるのかわからねえ!整理整頓されてない」
必死で武器庫内を駆けずり回り、30秒後、消火器を見つけた。
それを持ちながら、必死でさっきのポジションへと届ける。
冬休みの大学生らしき勇者は、ロードが見たことのないモンスターが行進してくるのを、腕を組んで作業台に寄りかかりながら待っている。
ギリギリで、間に合った。
「この武器、お願いします!」
「…………」
ジトッとした視線をロードに向ける。
”…………えーと、次に俺がすべきは…………”
「これって、どう使えばいいの?」
”俺が……すべき……”
ロードの思考が、強制中断された。
つーか、先輩勇者であるこっちが敬語使ってんだから、そっちも敬語使えや。
内心イラつきながらも、答える。
「僕も、あのモンスターは初めて見たので、わかりません。
困ったら、”援軍要請アラーム” を鳴らして部隊長に聞いてくださいっ」
「……………………………………」
敬語も使わず、返事もしない、礼も言わない勇者から逃げる様に去るロード。
…………マジかよ!?
短期バイト勇者たちが担当する20箇所近いポジションを見渡したロードの視界に…………
初めてみるモンスターが……5体、映った。
一覧表を見るとそのモンスターと…………対応する武器が記載されていた。
……ヤバい!すぐに武器庫へ……
「あの!確認お願いします!あと勇者達への運搬も!」
ロードの思考が、ぶった切られた。
少しばかりイラついた雰囲気の主婦勇者が、話しかけてきた。
そちらを見ると、黒魔術用の液体が2種類 完成している。
ため息をつきながら、3種類目の調合に取り掛かる主婦勇者。
「あ……ハイ」
確認方法および、どこの勇者に届けるべきを、確認すべく一覧表を……
「コレ、ナンテヨムノデスカ?」
ロードの思考が、ぶった切られた。
背後から……別の作業をしている、違う言語の異世界からの勇者が質問してきた。
その作業方法を記した書類が読めないようだ。
「これは、『スキップしながら、パクチーを刻む”』と読むんですよっっ 」
「スキップ……ドレクライ ハヤイデ ヤルデスカ?」
……グッチャグチャに混乱する意識の中、血眼で書類を読み、指定の速度でスキップを実演するロード
ここには、援軍要請アラームも設置されていない……
――ロードの背筋に、冷たい物が走る。
そして、理解せざるを得なかった。
自分の置かれた状況が、極めて危機的状況だという真実を。




