第6話:生存戦略十人十色②
――作業再開時刻。
モンスター達が、一定間隔を空けて行進してくる。
迅速に、迎撃……。
………………!?
身体が……重い!?
ずしっ、と、全身が重いのだ。
腕も、脚も……そして頭の回転も、明らかに重い。
食事の後は、身体が重くなるのは、日勤でも同じだが……
その度合いが、明らかに強い!
…………何故だ!?
1体目を討伐するため、伝説の剣を振り下ろす。
2体目を討伐するため、巨大なハンマーを振り下ろす。
3体目を討伐する為、魔法の杖のボタンをポチッ。
モンスターを倒せてはいるが、依然として身体が重い。
まるで、全身が鉛の様だ。
辛い。
だが、給料に見合うだけの、最低限の仕事はしなくては!
なにせ、ここは一番楽なポジションなのだから――!!
――10分休憩の時間。
ロードは、仰向けになりながら、2つの月を眺めていた。
もう、身体がまともに動かない……。
……俺は、最低限の仕事すらできないのか。
無力感。
俺は……俺ァッ………………………
突如、ロードの頬に冷たい物が触れた。
「うひゃっ」
「はい!部隊長から君への差し入れ」
サラが、右手に缶を持っている。
「デーモンエナジー!元気出るよ」
この異世界のエナジードリンクらしき飲料を差し出すサラ。
「ロード君は、真面目に仕事してくれるね!部隊長も喜んでたよ!」
部隊長が喜んでいる!?
何故!?
この一番楽なポジションで、最低限の仕事すらできていないのに!?
――じわっと、心の奥が温かくなる感覚が、ロードを包んだ。
そうか。部隊長は俺を単なる労働力として見ているのではない。
俺の人間性を見てくれているのだ。
スペックが低くても、一生懸命に仕事に打ち込む俺の人間性を。
―――――――――――
ロードの心に、炎が灯った。
――2か月が経過。
ロードは、魔法陣が印刷されたカーペットを作業台から取り出し、慌ただしく敷いている。
その魔法陣の中央に立ち、複数の呪物を身に着け、珍妙な踊りを踊る。
踊りながら、呪文詠唱を開始する。
「ルエフガウョリトゴシトルバンガ」
-ゴロゴロ………ドカーン!-
呪文詠唱と共に、天から雷が降り注ぐ。
1発目の攻撃……………まだ、倒せない。
次なる呪文を詠唱。
「ウドウロルナラサハカイタノウドウロ!」
再度、雷が降り注ぐ。
2発目の攻撃――倒せた!
急いで、魔法陣が印刷されたカーペットと呪物を作業台へと しまう。
ロードは、「最低限の仕事は、できるようにならねば!」と全力で まじめに働いていた。
だが――どんどん仕事が増えている。
モンスターの種類も、それを討伐する武器の種類も、2倍くらいに増えた。
”新人だから落としていた作業スピード” は、まだ標準のスピードに達せていないらしく、じわじわ上がり続けている。
加えて、”新人だからさせていなかった作業” という新たな仕事が出現した。
正直、もう限界に近い。
休憩時間に、部隊長に聞いても
「前も言ったけど、新人だから仕事量を減らしてたのを、元に戻しているだけ!君のポジションは一番楽!」
と言われた。
……何かが、おかしい。
……ロードは、釈然としない感覚を覚えながらも、ただただ仕事に没頭した。
帰宅後も、大好きな趣味……アニメやWe Tubeを視聴しても、あまり楽しめない。ただただ疲れる。
ムスコも……調子が悪い。最中に、強烈な眠気が襲ってくる。
風呂に入って、夜食を食べて、寝る。起きて出勤。
そして、ひたすらモンスター討伐に没頭。
気づけば……いや、気づけない内に、自分のプライベート時間は、自分の人生は ”労働ダメージの回復手段” に成り下がっていた。
たまに行われるミーティングでは、ボーッとしてしまう。
何かを質問されても、頭の回転が遅く返答も遅い。
”コイツ、すごくトロい奴だな” といわんばかりの目で見られたような気がする。
――被害妄想だろうか。考える余裕も無い。意識を保っているだけで精いっぱいだ。
……粘着勇者は、先輩グループ達の端っこに座っている。
粘着先を見つけたようだ。
もう、俺には粘着してこないだろう。
一安心……。
――2か月半が経過した。
いつも通り、作業場所にスタンバイしているロード。
あと3分後に、山道からモンスター達が現れて、行進を開始する。
だが……ロードの足取りが怪しい。明らかにフラついている。
「――ロード君!お疲れさま」
サラが現れた。
目にクマができているのは相変わらずだ。
「ロード君、頑張ってるね!これ、私からの差し入れ!デーモンエナジー」
ロードの肩をポン、と叩く。
そして、慌ただしそうに去っていく。
……俺に、気があるのか……?
ロードは、力強く大地を踏みしめて、行進してくるモンスター達を迎え撃つ。
――10分休憩。
ロードは休憩所の椅子に座り、スポーツドリンクを飲んでいる。
粘着勇者は、職場のヒエラルキーに属したようだ。
いつも緊張した面持ちで、先輩達のグループの端っこにちょこんと座っている。
まあ、先輩たちが話している方に顔を向けてはいるが、発言するタイミングがつかめないらしく、会話にはロクに参加できていないようだ。
……グループに属しているのか属していないのか、わかりづらい距離感。
――休憩終了の2分前。
勇者達は、自分の持ち場へと戻っていく。
ロードも、自分の持ち場へと戻る……途中に、前を歩いている先輩勇者が、ポケットから何かを落とした。
ロードはそれを拾い上げる。
……勤務日一覧表が記載されたカードだ。
入社と同時に全勇者に支給されるカードであり、日勤/夜勤・土曜日出勤の有無などが一目で確認できる。
「……あ、あの~」
前を歩いている先輩勇者が、ゆっくりと振り向く。
話しかけんなオーラを発する先輩は、無言でロードに目を合わせた。
こちらの出方を伺うような、疑り深い目をしている。
その態度に内心嫌な思いをしつつも、ロードはやつれた表情を浮かべながらも、愛想を忘れずに笑顔で続ける。
「これ、落としましたよ」
仕事が辛いのは、みんな同じだ。みんなストレスを溜めているんだ。
なら、せめて人間関係におけるストレスは少なくしたい。
自分がされて嫌だったことは、相手にしない……を徹底しよう。
そんなことを思いながら、笑顔を崩さないロード。
先輩勇者は、疑り深い目をしながらも、話しかけんなオーラを放ちながらも、カードを受け取る。
「……ああ、ありがとう……助かったよ」
「ども!」
ロードは、足早に自分の持ち場へと戻っていく。
――そして、この異世界に激震が走る。
というか、毎年この時期には激震が走るのだ。
”繁忙期” に突入する。
よーするに、めっちゃ仕事量が増えて、めっちゃ忙しくなるのだ。
「魔王・雑魚モンスター達が侵攻するのに、繫忙期や閑散期があるの……?」
……という疑問は さておいておこう。
――そして、ロードがいる部署に 通達が出された。
『繁忙期の間、一時的に臨時部隊を設ける。
責任者:貴隊の部隊長を任命する(通常部隊と兼任)
補佐役:サラを任命する』
そして、部隊長とサラの指名により、ロードも臨時部隊に行くことになった。
ロードは、胸が高鳴った。
……動悸と、息切れで。




