第2話:Brave Slave②
時刻は、12時45分。
昼休憩をはさんで、業務が再開される時刻。
新入勇者たちは、作業を覚えるために現場に入っている。
ロードに割り当てられたポジションは、標高100メートルにも満たない、小さな山の麓だ。
横に置かれた作業台には、5種類ほどの武器が納められている。
――ロードは、”それ” を察知した。
山道から――複数の雑魚モンスターたちが現れたのだ!
人間の早歩きくらいのペースで、襲い掛かってくる!
……いや、厳密には、俺の背後に広がるだだっ広い草原……の先にある市街地 ”ナーロッパ市” を目指して侵攻している……というべきだろう。
雑魚モンスターたちは、等間隔を空けて、まったく同じルートで、一定のペースを保って行儀よく行進してくる。
「最初の雑魚モンスターはタイプA!次はタイプC。その次は またタイプA」
サラは、都度指示をくれる。
ロードは、1体目のモンスターの討伐にかかる!
茶色く、ずんぐりむっくりの体型。
胴体に足をくっつけたようなフォルム。
眉間にしわを寄せ、どこか気難しい表情を浮かべている。
ロードは作業台から、対タイプA武器 ”伝説の剣” を取り出す。
そして、モンスターめがけて振り下ろす!
がすっ、と鈍い音がした。
モンスターは、無表情。
「効いてるよ!攻撃を続けて!!」
「あっ、ハイ!」
ロードは、同じように攻撃を繰り返す。
2回目の攻撃。
3回目の攻撃。
4回目の攻撃……。
”ちくしょおおおお!ぜんっぜん、1体目を倒せねえええええええ!!”
ロードは、どんどん近づいてくる2体目のモンスターを視界の端に捉えつつ、焦りまくっている。
そして、7回目の攻撃を繰り出した、その時だった。
-ぴろん♪-
絶妙にムカつく効果音が鳴り響いた。
同時に、1体目のモンスターが、まばゆい光と共に消滅していく。
なんとか、1体目を倒し……2体目がすぐそこに来てる!
間に合わねぇ……。
「ロード君、私が代わるよ!休みながら見てて」
ロードは、ぜえぜえ、と肩で息をしながら、サラに作業場所を譲る。
サラは、2体目のモンスター討伐にかかる。
緑色の甲羅。黄色い肌。温和そうな表情。
「これは対タイプC武器・ハンマーを使うのっ」
作業台から、昭和の漫画のギャグシーンで出てきそうな、”巨大なハンマー” を取り出したサラ。
ハンマーの側面には、”100t” ……ではなく、”業務用” と刻印がある。
それを容赦なく、温和そうな表情をしたモンスターめがけて振り下ろした。
どんっ、と重厚な殴打音が鳴り響く。
モンスターは無表情。
矢継ぎ早に、2回目、3回目の攻撃を繰り出す。
そして、4回目の攻撃を繰り出した、その時だった。
-ぴろん♪-
再度、絶妙にムカつく効果音が鳴り響いた。
同時に、2体目のモンスターが、まばゆい光と共に消滅していく。
スムーズに2体目を倒し……3体目討伐に落ち着いて取り掛かるサラ。
3体目は、ロードが7回の攻撃を要したモンスターと同種だ。
サラは、作業台から、対タイプA武器 ”伝説の剣” を取り出す。
そして、モンスターめがけて振り下ろす。
1回目の攻撃。
2回目の攻撃。
そして、3回目の攻撃を繰り出した。
-ぴろん♪-
再々度、絶妙にムカつく効果音が鳴り響いたが、学ぶことに集中していたので、ムカつく余裕すらなくなっていた。
すかさず、いつの間にか接近してきている4体目の雑魚モンスター討伐に取り掛かるサラ。
「ロード君は、全身に力が入りすぎてるんだよ。だから、武器に威力が乗らないし、スタミナ消耗が激しくなるの」
4体目のモンスターの討伐をしながらアドバイスをする余裕を見せるサラ。
……凄い。
サラさんは、俺よりも筋力は劣るだろう。
なのに、俺よりはるかに軽やかに武器を使いこなしている。
「ロード君は、ムダな動きが多いけど、落ち着いて作業できるようになれば、動きが最適化されていくよ」
サラは、俺よりも俊敏性も劣るだろう。
動きを見ていても、急いでいるわけでもなく、一定のペースで作業を淡々と続けている。
なのに、俺よりも圧倒的に早い。
【勇者】という職業。
雑魚モンスターをひたすら倒し続けるだけのカンタンなお仕事。
雑魚モンスターが消滅するまで、ひたすら斬り、叩き、刺し、撃つ。
それだけ。
誰でも覚えられる、簡単極まりない業務である。
”誰でもできる仕事、スキルや実務経験が無くてもできる仕事” の代表格だ。
……だが、大半の異世界では、要求される作業のスピードが、とんでもなく速い。
人件費を削減するために、より少ない勇者でより多くの仕事を回そうとするため、一人当たりの仕事量が膨大になるのだ。
「ここはメチャクチャ楽なポジションだよ!他のポジションはもっと辛い。
だから、ロード君も頑張ればすぐできるようになるよ!」
早めに仕事をできるようにならねばならない。
給料をもらっている以上、割り当てられた仕事はきっちりこなせるようにならねば。
勇者という、やりがいも無い、スキルも身につかない仕事でも。
――そして、死ぬほどクソつまらん仕事だったとしても。
「そのうち、この仕事も楽しくなってくるよ!!」
「…………………………!?」
「タイムアタックだと思えばいいんだよ。どんどん作業を効率化できるようになれば楽しいよ」
楽しい!?この重労働が!?この単純作業が!?
いや、単純な作業だろうと、複雑な作業だろうと、なんの創造性もない仕事を楽しむ?
それは無理ってもんだ。
「仕事を楽しもう。趣味にしよう!」
……サラさんは、社畜としての完成度……すなわち勇者として完成度が高いようだ。
労働負荷が度を超えて高いと、生活のすべてのベクトルが労働へと向いていく。
休日というプライベート時間すらも、”労働に備えた回復期間” としか考えられなくなる。
趣味を持つ余裕も無く、生きがいを抱く余裕も無いため――それらを勇者としての労働に見出してしまうのだ。
趣味を仕事にできるのは、幸せだが……
仕事を趣味にしてしまうのは、不幸だ。




