第12話:極限搾取②
――繁忙期突入から、2週間ほど経過した。
毎日毎日、極限まで心身を酷使している。
朝は、身体が ”もっと休ませろ!” と大声で訴えているのを感じるが、それを捻じ伏せて起床・出勤。
昼休みに1本、その後の10分休憩に1本、計2本のデーモンエナジーを身体にぶち込む。
強烈に甘い炭酸水が、疲れ切った体に行きわたっていく。
みるみる力が湧いてきて、ガンガン仕事をこなす。
……近頃は、仕事中はもちろん休日でも、デーモンエナジーなしでは生活できなくなっている。
一回、昼休みに食堂に向かうとき、粘着勇者が歩行速度を合わせて話しかけてきた事もあった。
「ロード君って、仕事が大変そうだよね!尊敬する!!」
粘着勇者は居場所が無いようで、優しい言葉で媚びてくる。
「さあ、わからない」
……と、投げやりな態度を取ったら、粘着勇者は歩行速度が遅くなり、そのまま後方へフェードアウトしていった。
――繁忙期終盤。
木曜日の夜勤・作業終了時刻。
「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ」
作業終了と同時にゾロゾロと去っていく短期バイト勇者たち……を横目に、ロードは立ち尽くしている。
そして、地面に崩れ落ちるように、どかっ、と音を立てて座った。
だが、座る事さえも辛く……結局、仰向けになった。
青空が、やけに綺麗に見える。
……身体が重い。思考が鈍い。
通常なら、身体を動かした後は達成感があるものだが、全くない。
あるのは、ただただ、疲労感と倦怠感のみだ。
……そして明日、土曜日は……休日出勤の日だ。
死んだように横たわるロードの姿を見て、駆け寄ってくるサラの姿が見える。
「おつかれ!仕事が辛いほど達成感があるよね!」
「……サラさん、俺、もう……この仕事を続けることが……」
先輩に対し、いや先輩でなかったとしても、横たわったまま会話するのは失礼……と、考えられないほど疲弊しているロード。
「……え……せっかく仕事覚えたのに?」
「もう、心身が限界です……。
作業終了しても、20分くらい休憩して回復しなきゃ、帰宅することもできないくらい消耗するんです」
「辞めちゃダメだよ!……辞めないで」
サラは、必死でロードを引き留めようとする。
「とりあえず……明日は休みます」
「絶対ダメ!疲れてるのは、みんな同じだよ!一緒にがんばろう!!」
「……疲れの度合いが、違います」
「……この職場は、根性がある人しか生き残れない!
ロード君は、根性がある!途中で逃げるような弱い男じゃない!!」
サラは、泣きそうな顔をしながら、ロードを見つめる。
「……俺は もう、限界です」
――ロードは、重い身体に鞭打ちながら、帰路につく。
爽やかな朝日に照らされた青空が視界に入るのが、なぜか辛い。
――ブラック企業で働いていると、1人で過ごしていると、自己犠牲精神という弱さを見せると……。
人間の本質を理解したような錯覚に陥る。
人間の本質は悪……だと。
――以前、考えたことがある。
”優しさ” という概念に対する、俺なりの解釈
それは――
強者の娯楽であり、弱者の生存戦略だ。
仮初の優しさは、生き抜くための強さ。
本当の優しさは、自己犠牲という弱さ。
ブラック企業の人間は――いや、ほぼすべての人間は――仮初の優しさ、つまり生き抜くための強さを持っている。
内心好きでもない相手だろうと、内心殺したいヤツだろうと、それを行動に反映させたら不利益が生じる。
……だから行動に反映させない。つまり、優しくするのだ。
粘着勇者は、生き抜くための仮初の優しさの扱い方が極度に下手なだけで、戦術の方向性としては間違ってはいない。
そして俺は、両方の優しさを持っている……と思っている。
だが……俺はもう、限界が近い。
身体も、思考力も、優しさも。
――次の日、金曜日。
美しい夜空が広がる。
ゴールドに輝く月。
シルバーに輝く月。
そして、散りばめられた無数の星々。
美しく輝く2つの月に照らされて、颯爽と姿を現したその男――ロード。
面構えが違う。
”もう、何があっても挫けない。逃げない”
そんな決意が、表情から見て取れる。
「ロード君……!!」
サラは、満面の笑みで駆け寄る。
「……信じてた……必ず、来てくれるって……!!」
ロードは、右手にぶら下げたレジ袋の中に控える4本のデーモンエナジーに、誓った。
”護りたい。この人を”
ロードは、全身全霊で働く。
持てる力のすべてを総動員する。
勇者という最底辺の職業に、なんとか意義を見出すべく、懸命に働く。
身体が重く、思考が遅くなってきたら、デーモンエナジーをぶち込む。
全身が、生き生きと動き出す感覚を覚える。
”俺は……「限界」という言葉で、自分の可能性を抑えつけてたんだな”
大量で煩雑な作業をこなす順番を瞬時に脳内でシミュレーションし、導き出された最適解を実行する。
質問されて思考がぶった切られても、根性ゴリ押しで乗り切る。
ガンガン仕事をこなしていくロードの姿は、逞しさに溢れている。
軋む筋肉。飛び散る汗。オーバーヒートする脳。
心身が悲鳴を上げたら――デーモンエナジーに手を伸ばす。
”今なら行ける。限界の その先へ――”
――作業終了時刻。
仕事を見事にやり切ったロードの顔は、達成感に満ちている。
ロードは――限界を超えたのだ。
そして……
限界を超えた反動で、身体を壊した。




