↑おまけのルアンとアステル
アステルは私室のベッドの上に、ルアンを枕に寝そべっている。部屋には、簡易的な結界が張られている。
アステルがくるん、と寝返りを打つと、狼の優しい紺色の瞳と目が合った。
「トゥリに金輪際、ぼくの魔力を与えるな って言われたよ……どう思う?
ルアン、ぼくたちがおかしいんだと思う?」
ルアンは、(さあ? わかりません)という顔をしている。
アステルはさっきまで、ルアンに魔力を分け与えていた。ふたりとも、うとうと、ひだまりのなかで一緒にお昼寝しているような心地で過ごしていた。
そのあとそのまま、ベッドの上でふたり、だらだらと過ごしている。
「ぼくとルアンにとっては、こんなの健康法の一種なのにねえ。長生きの秘訣だよ。特にきみにとっては……」
ルアンは体内の魔力が枯渇すると死んでしまう魔物だ。かつ、人間から魔物に転化する際にアステルの魔力を使用した。そうした事情があり、アステルはその膨大な魔力の一部をルアンに与え続けてきた。
「ルアンはぼくの魔力をもらうの、好きだもんね……トゥリと違って……」
ルアンとしては、好きも嫌いもなかった。
アステルが魔力をくれるというなら、ルアンはただ、もらい受けるだけだ。
アステルはぎゅう、とルアンのもふもふの体をハグする。汗をかいている。べたべた。
「今日、暑いね……ルアン、ぼくも服を脱ぎたいよ」
やめなさい、とルアンは尻尾でアステルをはたく。
「別にいいじゃん、きみなんていつも全裸なのに。ずるい」
ルアンは、アステルより暑そうだ。
アステルにひっつかれているせいで、紺色の毛に熱がこもっている。
アステルは裸にこそなっていないが、白いシャツの前がはだけている。(だらしない、)と、ルアンは直そうとして何回か口にくわえてひっぱったのだが、アステルに抵抗されて直せずにいる。
「きみが思っていることを当ててみようか。
それより室温を魔術で調整してくれ、だよ」
ルアンは(アステルの魔術を)期待する表情をする。舌をだす。
しかしアステルは室温を調整しようとせず、ごろごろを続けた。
「ぼくが裸になってきみとベッドでゴロゴロしていても、たぶん、誰もなんとも思わないよ。
ぼくたち、暑いんだな……って思うくらい」
「だけど、魔力を分け与えているのは、知られたら……いやらしい、とてもえっちだ、って思われることなんだって」
アステルはルアンの背に手を当てて、魔力を流す。
「こんなことの、どこがえっちなの?」
アステルは魔力を流すのをやめて、またルアンに抱きつく。もふもふもふもふ。
「ぼくたち、途中から魔物になった人間だから、純然たる魔物たちの、魔力が混ざりあうことへの恐怖心とか、いやらしいと感じる感覚がわからないんだ」
もふもふもふもふ。
「トゥリもそうなのに、彼は周りの目が気になるんだね……」
アステルは上半身を起こす。魔術でルアンのお皿を出して、水を入れて床に置く。ルアンはとび降りるとそれを飲む。アステルもグラスを呼び寄せて、魔術で水を入れて飲む。
ルアンが水を飲んだあとに振り返ると、アステルは白い襟付きのシャツを脱ぎ、たたんでいる。上半身裸になり、ゆったりとしたズボンだけの姿になっている。
批難がましく見たルアンにひと言。
「暑いんだもの」
ルアンは、アステルが室温を調整しないのは暑さを楽しんでいるからだということは、わかっている。四季を感じることもアステルが(心を壊し切らずに)健康に生きるコツだからだ。
だがルアンは、脱ぐくらいなら調整してほしい。こうやってふたりでごろごろしていると、アステルはひっついてくるに決まっているのだから、ルアン的には暑すぎるのだ。
ルアンはアステルの白いシャツをくわえ、彼に投げつける。と、シャツは魔術でどこかに消えてしまう。
ルアンは辟易し、ベッドの上に座るがそっぽを向く。
「怒らないで、ルアン」
もふもふ。べたべた。
ルアンは「ばう」とアステルを噛む真似をする。アステルはまるで意に介さず、話を続けた。
「ねえ、でもトゥリがまた同じような体調の崩し方をしたら――ぼく、魔力を分け与えると思うよ。きっと、トゥリに黙って、彼が寝ているときに……それって、大丈夫だと思う?」
ルアンは(ダメでは?)という顔をしている。
「彼を魔術で昏倒させてでも、ぼくはトゥリに魔力を分け与えると思うよ。彼は聡いからバレるだろうし、彼が怒ったらぼくは痛い思いをするかもしれない。けれど、トゥリが寿命を縮めるなんてぼくは許せない」
ルアンは、アステルの青い瞳をじっと見つめる。
「約束をしてくれたのだから、ぼくより先に死ぬようなこと、許さないんだ」
ルアンは、トゥリがアステルに何を約束したのかは知らない。まあきっと、長生きするとかその類いのことだろう、と思っている。
「きみもだよ、ルアン。許さないからね」
アステルはルアンの頬を両手ではさみ、至近距離で、やさしい紺色の瞳をじっと見つめる。
「だからきみがなんといおうと、ぼくはきみを抱きしめるし、魔力もあげるんだ」
ルアンは、わかっている。
わかってはいるが、さっきからずーっと同じことを思っている。威厳も何もない少年のような姿を見せるのが、子供じみたわがまま言うのが、ルアンの前だけとはわかっていても。
有無を言わさず魔力を与えてくることも、暑いなか抱きついてもふもふしてくることも、ルアンは一向にかまわないけれども。
(服は着てください)
おひるねで上半身裸なのは、魔王のプライベートの姿としては、やりすぎな気がするのだ。
ルアンは、言うことを聞かないアステルの金の髪を鼻先でぐしゃぐしゃにする。
アステルは逆に、喜んで笑った。




