幕間1 お祭り回のすこし前(アステルとミーロ)
「コートを見繕ってほしい?」
「そう、トゥリフェローティタの。サイズはこれね」
執務室でソファーに座り向かい合いながら、アステルはミーロにメモを渡す。
ミーロはメモに目を落としたあと、呆れ顔でアステルを見た。
「父様、ご自分で買いに行けば良いではないですか」
「ええっ!?」
アステルは、断られるとは思っていなかったようだ。汗ばみながら焦っている。
「買いに行くなんて無理だよ。どこに買いに行けば良いかもわからないのに……」
「父様、今は、百貨店なんてのもあるんですよ」
「ひゃ、ひゃっかてん? なにそれ……」
「大きな建物に、いろいろなお店を集めているんです。服から食べもの、お人形まで。そこに行けば良いですよ。連れて行ってあげますから。
父様がトゥリフェローティタに着せたいコートを、そこで選べば良いではないですか」
アステルの顔に(なにそれしらない! こわい!)と書いてある。
アステルはおどおどと、ミーロに言った。
「でもミーロは、今でもたまに、城に服飾の商人を呼んでいるじゃない。だから……」
「じゃあせめて、それに同席してください」
「な、なんで……」
アステルの狼狽っぷりに、ミーロはため息をつく。
「父様は、物持ちが良すぎます。いったい何百年前の服をお召しになっているんですか」
「保存魔術と再生魔術で、古くならないもの……ぼくは、お気に入りの服を着て、お気に入りのものに囲まれて暮らしていたいんだよ」
「その黒いローブでタフィのお祭りに行くおつもりですか? 魔王だって一瞬でバレますよ」
「うぐっ」
アステルとしては、タフィ教徒だらけのタフィの町で魔王とバレることは、絶対に避けたい。
「質の良いものを魔術で手入れなさって、長く使われていること自体は、良いと思います。
でもそこに少しずつ、新しいお気に入りを足されてはどうですか? 父様、ほんとうに時代についていけていませんよ」
「……城から出たくないんだよ」
「母様のまわりの品などは、新しいものを使っていらっしゃるのですから、ご自分の周りのものも少し気にかけてくださいよ」
ミーロはアステルが、シンシアのガラスの箱や回し車を特注したことを知っている。
アステル付きの魔物を介してのことだが、たくさん注文をつけたと知っている。
「……デートに行かれるのでしょう?」
「デートなんかじゃないよ、友達と遊びに行くだけ……」
ミーロは立ち上がると、アステルを追い込むようにソファーに手をつき、顔を近づける。
「ボクはね、父様。デートだと思えって言ってるんですよ」
「今の話の流れで、きみに迫られる意味がわからないんだけど!?」
「父様にとっては見飽きたタフィ祭りでも、トゥリフェローティタにとっては、はじめてのタフィ祭りなんですよ」
ミーロはアステルに迫るのをやめる。
「いくら美男子がとなりにいても、黒いローブじゃ、ねえ?」
「トゥリは流行には興味ないと思うよ」
(興味があるのは殺戮とか拷問だし……)
「興味があるように育ててくださいよ……」
アステルは首を傾げる。
「じゃあ、きみも協力してよ」
「あれあれ? 良いんですか? ボクが関わって。ボクのような歩くワイセツは、教育衛生上よろしくないから、父様はボクを忙しくさせているのかと思っていましたけど」
「え? きみの仕事とすれ違っているのは、たまたまだよ」
「へえ そう ふーん……」
ミーロは信じられないようだ。
「とにかく、商人を呼びますから、父様もご同席くださいね」
「わ、わかったよ……」
「ちゃんと父様に選んでもらったほうが、トゥリフェローティタも嬉しいはずですよ」
ミーロは父様をたくさん着せ替えして、楽しんだ。ミーロはレベルが1あがった。
アステルもレベルが1あがった。
結局、アステルは「流行に疎いから……」とミーロにかなり意見を求めた。決めたのは色くらいだ。
なので、トゥリのコートもアステルのコートも、ミーロが見立てたことを、トゥリフェローティタはまだ知らない。
ミーロの存在を知らない。
知るのは、これからだ。




