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■6-6


 「まさか、この前まで存在すら知らなかった辺境のド田舎村落に、こんな短期間で二度も訪れる事になろうとはね」


 宝泉自然公園東D地区第5駐車場第2列9番目にバンを停車し、苦笑いで呟いた。


 一度目に来たときは、猟友会の集会所を出た後に仁と美咲をここまで送り届けた。

 その際、なぜか仁から此処の駐車場の第二列の8番目と9番目強く推され、特に他を選ぶ理由も見当たらないのでそれに従った。この前は8番目に停めたので今日は9番目にした。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「そういや、お前らサバゲ―のトップランカーって言ってたもんな… 中止になってないんだからそりゃ来るわな… いや来ねぇよ!」


 恵が連れて来た二人の顔を見て、仁は一人で納得して一人で否定していた。

 頭にはトノサマバッタをくっつけて、何を遊んでいるのやら。


「ヴェノメイザー森山さん、こんちゃ!」

「毒盛り兄貴、お久っす!」


 珪佑と薫は仁を結構慕っている。

 きっと世話焼きなところが構ってちゃんな二人にとっては嬉しいんだろう。


「なんで恵さんまで中止だろうって思わなかったんすか? っていうか何でこいつらと交流出来上がってんすか…」


「虫みたいな動く細かい標的を狙うのは腕磨きに良いからまたいつでも呼んでくれって言われて、私もそれは助かるから交流した。イベントはどうせ中止と思ったけど、あれからずっとこっちに居るみーきの様子を直接確かめるにはいい機会と思っただけよ」


「ええっ! 中止なんすか! 優勝チームは賞金100万円なのに!」


 驚嘆の声を上げる珪佑は、本気で驚いているようだからそれに対してこちらが驚かされる。


「中止…じゃない、まだ…」


 歯切れの悪さが甚だしかった。

 主催者は郁人氏らしいが、仁も運営に関わっているのだろうか。


「良かった! 前もって地形とか確認したかったんっすよ!」


「毒盛り兄貴! ランちゃんと美咲姉さんに今すぐ会いたいっすよ俺!」


「まあ、こいつらも腕は確かだし、肥料撒き要因としては」


 誰一人会話が嚙み合ってない状況に巻き込まれてはかなわないので無視し、村の中を見回す。


 相変わらず田園が広がる中に農家がぽつぽつあるだけの何もない所のようだが、

 豊かな稲と、無数のバッタと、ベニヤ板のボックスと、さっきから延々流れてる歌が追加要素か。


 稲とバッタに関してはこの前見た時からあまりに風景を変えすぎて、

 本当に同じ場所に来られているのかと疑わしくさせた。


「で! サバゲ―イベントはいつ始まるんすか?」


 珪佑にそう質問された仁は自分の思考から立ち返ったようにはっとし、

 その後何故か、神妙に冷たい笑みを浮かべた。


「何言ってる、もう始まってるだろ。持ち堪えるか食らい尽くされるかのサバイバルゲームならな…」


 きっと捻くれた比喩だったのだろうが、始まっているという言葉だけを真に受けた珪佑はけたたましい悲鳴を無数のバッタが飛び交う空に響かせていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「宝泉の上空から撒かれ…殺虫剤により……… 群れの過半数…死滅………… 残ったバッタも孤独相に戻り…………… 蝗害は収束…確認……………4ヶ月という異例の速さ…戦いに終止符……………………産卵された卵は…天敵のエントモフトラ属のカビによっ…対策が可能…………………[uər]…………[æ]………………………」


 山の秘奥に電波が届いただけでも奇跡だが、さすがにこれ以上は自身の強運を以てしてもネットニュースを視聴させてはくれなかった。


 すんとも言わずに静かになったスマホを道なき山林に投げ捨て、ふとして一本の小高木を見上げた。


 幹には大した特徴もないが、越冬のため全ての葉を落としきった枝に僅かに残る萼の特徴から種類を見分けた。

 萎みきった果実が五つ割れた萼はみすぼらしいが、温かくなると楕円型の葉をつけて夏には大きな白い花弁の綺麗な花を咲かせる。


 あまりに美しいそれは、平家物語の書き出し間もなくその名が登場するほど。


「まさに『沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす』という事よな」


 最も、本来のサラソウジュは春頃に白い小ぶりな花を密集して咲かせるもので、寒さに非常に弱く日本に気候に適した種ではない。寺院などの聖樹として代用に愛でられるのがこのナツツバキだ。


 そんな独り言を呟き、道なき山林を再び進みだした。


 阻むような低木樹は悪いが朽ちてもらってあり、難無く進んだ先に赤い花が咲く一帯が現れる。


 この場所を見つけてからこつこつ作ってきたカーネーション畑だ。

 本来なら4月頃に開花する花だが、かなり無理を言って今頃に早めてもらった。

 カーネーションにも色んな色があるが、全て赤にした。

 赤いカーネーションは純粋な愛や女性の愛という意味を持つ。


 それを遠目に確認したら、そこに入る前に身に着けた物を全て脱ぎ捨てる。

 就職祝いに買ってもらったスニーカーは山歩きで汚れきっても愛着の品だったが、今日ばかりは手放さねばならなかった。


 今から自分は精巧に人の擬態をした姿形を捨て、周辺の景色に同化した樹木になる。

 どうしてそうせねばならないかと言えば、何となく役目を終えたような気がするからだ。


 これまでの種撒き活動の成果で願いが成就し、新たな知性植物がどこかで生まれた、かもしれない。

 或いは声の力を移したUSBを生み出し、それを託せる者を見出した事で疑似的にも達成条件を満たしたのか。


 死にも近いことのはずだが、不思議と怖くはない。

 歩き疲れているせいかもしれないが、何となく眠いような感覚があるだけだった。


 そもそも死ぬわけじゃない。

 自由に動ける代わりにエネルギー消費が激しい形態を止め、条件さえ整えば数千単位の年数をも永らえられる第二形態への移行だ。


 カーネーション畑の中心に膝をつき、祈るように手を組んで目を伏せた。


 祈りを捧げる偶像はない。

 強いて言うならこの星に栄えるあまねく命の源泉とでもいうような場所に、得難い生を受けられた事の感謝を込めて。


 予め自身の声で全身の細胞は活性させてあり、真冬とは思えないほど全身が熱い。

 冷たい地面に触れて徐々に冷めていく感覚に伴って、触れた感覚も失われていった。


 ここにきて少しだけ怖いとも思ったが、やはり眠気が勝ってもう薄目も開けられない。


 そう、眠るだけなのだ。

 巡る輪廻の渦の中で、ほんのひと眠り。


 いつか目覚めたとき、自分がどんな姿形をしているかに恐れはない。

 世界そのものに"祝福"された自分は、きっと何だって望むものになれるから。


 また同じ奇跡的存在でも良いが、それすらも惜しくないと思える場所がある。

 愛しい誰かのその隣というのはどんな心地か知ってみたくて、ずっとままごとをしていたのだ。


 ただのままごとではないような不思議な気持ちが起こる瞬間もあった。

 あれが何だったのかは結局わからないけれど、本当の人間になってみればもっとはっきり掴めるだろうかと思ったりもした。


 それで、何になるのかというと結局いつもの闇ガチャだ。


 虫だろうが魚だろうが貧民だろうが、

 その運命に真っ向から受けて立とう。


 今世そうだったように、

 どうせ次も我は果報者であろう事だけは避けられぬのだから。


 〈完〉



 編集内容その一。

 沙羅双樹の紹介箇所の訂正と、

 蝗害の対策に重要なのにすっかり登場させ忘れたエントモフトラ属のカビを滑り込みで入れ込んでます。


 編集内容その二。

 全く、忘れ物の酷いこと。最終回でこうも締まらないのは情けない…。

 仁が理解できなかった樹木化の理由と、藍が祈る存在とは。

 忘れてた伏線、多分これで概ね回収したはず。

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