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■6-5


 無数のバッタが飛び交う中で、

 町起こしのサバゲ―イベントなど当然中止に決まっている。


 BB弾に当てられたのかバッタに体当たりされたのか、

 判定もろくに出来ない事だろう。


 しかし、イベント中止を明示する事は出来ない。


 それをしてしまえば町内放送で藍の歌を流す事の理由を失うからだ。


 故に、見せかけでも準備をする必要があった。

 ベニヤ板を組んだ四角柱を立てて、プレイヤーが身を隠せるボックスを作る。


 薄いベニヤとはいえバッタの体当たり程度ではさすがに壊れないが、新品の綺麗な板が激突したバッタの体液ですぐに汚れるのは気が萎えた。


 昨日は骨粉の詰まった風船を延々と遠投し続けて利き腕の方が酷い筋肉痛だ。

 正直やりたくないが、なにせ過疎化の進んだ村落。

 若い人手がほとんどない。


 数少ない若者は隣合う市との境界にあるバスターミナルの土産物屋などに働きに行っており、

 村に平時居るのは老年ばかりだ。


「やっぱあのバスターミナル、エクスプランターにかけるべきだと思う。あれがあるせいで国が殺虫剤撒布を躊躇うかもしれない」


「山の上だから大丈夫だってば。ほら、そこステープラー打って」

 立てたベニヤ板を支える藤沢先輩に諫められた。


 あそこを訪れた観光客がすぐ近くの自然公園の方に流れてくれる事を期待し、

 幼少時代の象徴である廃屋を潰して自家用車のための駐車場も設けられたのに、

 結局観光客は隣の市にしか流れず現実はこの有様なのだった。


 自然公園以外に売りの無かった宝泉が悪いんだろうが、

 一応は愛する地元、利にならないターミナルを疎く思うのは仕方がない。


「ほほっ。ランもあの場所をでりゃあ嫌っとったの。仁坊が居らんなった後、ランは暫くずっとあの山の方を眺めとったら。その頃は小っそう停留所があるだけだったで、景色が変わって気に入らんかったんかの」


 差し入れにおにぎりを持ってきてくれた藍の義祖父が、宝泉独自の方言でそんな話を挟んできた。

 村の婆さん連中が握ってくれたであろう山菜煮を混ぜ込んだおにぎりは、如何にも田舎の色合いだが味は申し分なく最高なのだ。

 これが味わえる事に関してだけは、蝗害様様と言えよう。


「え、何その話、聞きたいけどちょっと聞きたくない」

 複雑そうな心境を表情に浮かべる藤沢先輩が居た。


「決めた、俺、ターミナル、潰す」


 おにぎりを貰いに行きかけて急に方向を変える仁の肩を、郁人氏の手が強い力で押さえた。

 筋肉痛のところを刺激され、驚いた猫のようになって飛び上がった。


「殺戮ロボットみたいな口調はいいから、さっさとあれ食べて作業に戻って」


 涙目になって郁人氏を睨みつけながら、ふと思い出した事があってポケットを探る。


「郁人氏、これ受け取ってください」


 握り拳を差し出し、不思議そうな顔で差し出される郁人氏の手の平に、飾り気も何もないUSBを落とした。


「ランの歌で、"夕焼けこやけ"だけはセキュリティがかかってなくてコピーし放題なんです。おそらくエクスプランター相殺効果。蝗害の事が済んだら、俺はランの後を継いでアイツ同様にこれから色々やらかす予定っすが、それがあれば阻止できましょう。もちろん平時は阻止されたくないっすよ? ただ俺はあいつみたいな強運も知力も無いので、どんなとんでもない間違いを犯すかわかりませんから持っていて欲しいんっす」


「これもランちゃんの声だったのか。てっきり宝泉の物と同じかと」


「ええ、通常の植物には何の影響もしないので、好きな時にアイツの声聴けるっすよ」


「本当の理由はそっちか・・・・ 僕はたまに君が憎いよ仁君」


 はっきり聞いちゃいないが、藍の事を思っていたのは様子を見ればきっと誰でも解る。

 よほど本物の恋というものをした事がなかったのだろう。なまじ疑似恋愛だけは熟されているのでプライドが邪魔し、面白いほど不器用だった。


「ほほっ。ランの秘密を知っとる子らがこぉんなに()って、儂は感動しとう」


 しみじみと述べる藍の義祖父は、昔見た優しそうな姿そのままだった。

 一年以上前に仁単独で里帰りした日は顔を合わす事も無かったが、この前再会したら何故か立派な口ひげを生やすようになっていたので驚愕した。

 長らく疎遠の人物を奇抜な変貌ぶりで驚かすのが水藻家の伝統なのかと思った。


ーーーーーーーーーーーーー



 たまに一緒に遊んだだけの仁が親の都合で上京した後の藍は、義両親の残したデータファイルを理解するため、義祖父が心配になるほど勉強に打ち込んでいたそうだ。


 息抜きの時間も歌を歌うかずっと山の方を眺めていて、

 時々仕掛けて来ていたイタズラもしないから義祖父の方が寂しいくらいだったそう。


 その一年後、若干15でデータファイルの記述を全て解読した頃から、地味な振る舞いを止めてあのように派手派手しくなったという。


 植物関連のみならず、人体解剖学や薬剤学的な分野も入れ込まれたあの記述は仁もあまり理解しきれてないのに、なんという吸収速度だろう。


 いずれ自分は都会に行くので今のうちに適応しておくのだと、美味いコーヒーを研究したり口調を変えたりしたそうだ。地の緑髪緑眼を晒して過ごせるようにファッションも追及したそう。


 何を取っても突っ込みどころが尽きなかったので散々ズレている事を指摘したが、藍なりの努力の結晶だったとは。

 それを知っていたら仁もきつい突っ込みは控え…いや変わらないか。


 そんな様子を見ていたから、

 急に仁についていくと言った時も義祖父は一切反対しなかったそうだ。


 さすがに急すぎてとんでもなく困惑させられたとはいうが。

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