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■6-3


 蝗害発生から一か月。


 バッタの大群が一時、柏崎千葉構造線平野部の破滅ラインのに迫るという事態があった。


 もし今もそのあたりの住民や生態が依然と変わらぬように暮らしていたのなら、政府は殺虫剤の大量撒布を躊躇った事だろう。


 仁らの前もった行動で予めどうしようもないほど荒廃させられていたのが功を奏し、国の思い切った対応を促す事ができた。


 まだ残っている住民に避難を呼びかけ、ヘリで上空から殺虫剤を撒いて東北部への進行を防ぐ事が迅速に叶えられたのだった。


 そういうこともあるだろうと予期してはいたが、さほど期待はしていなかった。


 近隣住民に地獄を見てもらった甲斐があったようなら朗報だが、悲報もある。


 関東平野の太平洋側ほとんどに蝗害が広がった事だ。

 一か月程度では世代交代もないが、群生相が発生した事で各所にいた孤独相の個体も加わり一気に規模が多くなった。


 東京は植物天国からバッタ天国に乗り換えた。

 埼玉もほぼほぼ吞まれていおり、神奈川県の平野部も恐ろしい早さで浸食されていってる最中。

 千葉だけが東京に接する僅かな辺の被害で済んでいる。

 そして宝泉にも既にバッタは到達している。


 そんな状況になってきたので、仁たちは作戦を少し変えた。


 "豊穣"の放送を定期的に行って豊穣帯の規模を維持をしながら、他の地域の餌となる植物が食い尽くされるのを()()ことにしたのだ。


 辺りの餌が無くなれば必ずこちらに集まる。

 集まりきったら、宝泉から八王子まで敷いていた豊穣帯を徐々に短くしながら宝泉まで導く作戦だ。


 南端の方は勝手に食らい尽くして短くしてくれるので、宝泉から往復する距離を徐々に短くしていくだけの事。


 イネ科植物だけを活性させるおかげで、余計なものから早い事食い倒されていくのは重畳だ。

 根元から倒れて枯れたような草花は水分が抜けて硬くなるのでいかに蝗害と言えど餌食にはしなかった。


 一か月で一年分ぐらいに生長を助ける効果があるので、()()()()()()()()()()()どれほどバッタが集まろうとその食害力に負けないだけの成長力を保てる見込みがあった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 蝗害発生から一か月と二週間。


 仁が手の中でくゆらせたススキは、常に(のぎ)頭を下の方に垂れていた。


 丁度今頃の時期に栄える種のはずだが、どうにも茎にコシがない。


 ぽとりと手放し、足元にだらしなく落ちたところのすぐ側に茶色いトノサマバッタが飛び込んできた。

 落ちたススキには見向きもせず、すぐに飛び去っていったが。


「窒素問題っすね。窒素は主に葉部分の育成に関わるんすけど、光合成の要である葉が頼りないんじゃ株の全てが弱ってしまうっす。普通の畑でも地力の回復期間を設ける必要があるのは年に一回程度っすが、おそらく"豊穣"の効果が利きすぎて恐ろしい勢いで土壌の栄養素を吸い上げ、枯渇してきたものと」


 一度は関東平野のほとんどに広がったバッタだが、

 やはり発生した場所の飯が一番美味いのだとでも云うかのように、今再び東京と埼玉に集まってきている。


 流石の蝗害といえどエクスプランターに遭った東京はそうそう食い尽くせず。

 出来れば早いこと食い尽くして埼玉に移って欲しいところ。

 冬場に一気に数を減らせる勝負の時期が近いのだ。

 いっそ東京に"破滅"を使おうかとも考えたほどだ。


 埼玉のイネ科植物が弱ってきているので負担を担ってくれてる分は有難く思えなくもないが、東京が持たせてくれてる間に窒素問題が解決できる策があるのならという話だった。


「国が豊穣帯の役割に気付いてくれたらいいのにね! そしたら上空から肥料を撒いてさ」


 元気づけるように明るく言ってくれる藤沢先輩だが。


「気づいたとしてもこればかりは期待できないっす。埼玉で起こってるイネ科版エクスプランターが、いつまで続くという確証が向こうにはないんすよ」


「あ、そっか。片手で数え切れるほどの少人数でこれを維持してて、私たちが頑張れる限りには大丈夫だなんてまさか思わないから…」


「ランちゃんのお義祖父さんは良い年だからあまり無茶な事を頼みたくはないけど、車の運転ぐらいはきっとしてくれる。"栄華"と"豊穣"を両方使用して、餌になる種類を増やしておくのはどうだろう? 中には乏しい栄養でも逞しくなれるような雑草だってきっとあるはず」


 郁人氏が考え抜いて提案してくれたが、仁はすかさず首を横に振る。


「決着段階の宝泉ならまだしも、今此処いらでそれをやるのは微妙っす。他の雑草に土地の栄養をくれてやるぐらいなら、食い倒された時に無数の種をぶちまけるイネ科植物に優先して与えたい。さすがに"豊穣"といえどもそれをすぐに芽吹かせるような力はないと思いますが、もしバッタとの闘いが長引けば第二世代に託す事になりますから」


 話している間も顔周りを掠めていくバッタに怯み、腕を盾にして不格好に振るった。


「確か、バッタの方を減らす作戦も駄目なんだよね・・・ ちまちま仕留めてもキリがないのは当然だけど、毒草なんかを食べて体に毒素を溜めているから食糧にもならないって」


 食事で体内に取り込んだ成分が排出されずに溜まり続ける事を生物濃縮という。

 今東京で旺盛な食い意地を発揮しているバッタなど、下手をすればほんの数匹で人を殺す威力すらありそうだ。


「結局、地力が持ってくれる事に賭けて待ち続けるしかないんっす…」


 祈祷でもしてみようかと考えが浮かんだ矢先、

 そういえば藍はよく祈っていたなとふと思った。


 自身こそ神のような存在であり、

 星々の寵愛すら受けているのに、

 どうしてそんな風に振舞うのかわからなかった。


 祈る事情は知っているが、何に祈るのかは知らない。

 まさか自分自身ではあるまいが、あれが他の神仏を崇拝している風もなかった。

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