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■6-2


 郁人氏を宝泉に出迎えた日から始めた破滅ライン作成は5日で完了し、次いで豊穣帯を敷く作業をしている所の4日目の朝だった。


 ニュース番組で、埼玉県あさひ山展望公園にて群生相になったトノサマバッタの集団が観測された事を知る。


 1立法メートルにつき平均10匹ほどというのは相変異も納得の密度だった。

 とはいえこんなものはまだまだ初期段階だ。


 東アフリカの例ではその範囲に数千匹~万に到るだけの群れが押しかけたというのだから。


 これを確認したからには、仁たちは再び柏崎千葉構造線に行って破滅ラインの範囲を拡大せねばならないが、今度は平野部の100kmばかりの距離で施せば良い。


 越後山脈から山林続きの切れ端にある群馬県太田市から、

 房総半島の西側の付け根になる千葉県千葉市まで。


 今度は4km幅と言わず、せめて10km幅は区切りたい。車道がある事が前提なので合間合間に草場は残るだろうが。

 このあたりの破滅ラインを今のうちに太くしておけば東北地方に向かう事を阻止できる。


 茨木県の下辺部。栃木県の下辺部。埼玉県の上辺部。

 これらの地域が"破滅"の威力をもろに食らうが致し方なし。


 関東平野の東北部からから東北地方に向けて流れ出るような事態になれば、対策を打ってない東日本全域は死刑宣告がなされるのと同義だ。


 孤独相の時に調べた限りでも東京八王子付近に集中するような分布だったからフォッサマグナ内で区切ろうと決めたのだ。まさにあさひ山は八王子の数km真北にあった。


 一日に150km移動するとされる蝗害も、初期段階ならばそこまでの速度はない。

 この期間に行先を制限しておく事が重要であり、まだ宝泉で待ち構える段階ではなかった。


 群生相となったからには敷いて来た豊穣帯はその真価を為さないが、

 八王子に目星を付けていたのが利いて、埼玉の真ん中あたりにほとんど縦に敷いてある。

 "豊穣"の効果を受けて圧倒的に栄養価が高いはずなのでこちらの餌場に引き付けておく効果ぐらいは見込めるといいが。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 移動距離事体は短いので拡大作業の所要日数は2日だった。

 本当はももう少し早く済むはずだったが、二度警察に車を止められた。


 一度目はウインドウ越しの注意だけだったが、二度目は車を降ろされてあれこれ質問された。


 爆音を流してハイテンションになるちょっと頭のいかれた感じの若者を装ったら深入りされずに済んだけれど、さすがに以降は慎重に行動したのだった。


 もう一生分聞いたと思われた"破滅"を再来世分まで前借りした。


 "破滅"の効果が表れるのも2~3日かかるので今はまだ大丈夫だが、じきに三つの県が地獄を見るはずだ。


 現状ではバッタの群れよりも仁たちの方が遥かに悪業が深かった。


 2日経ったが、バッタの群れはまだ大きく動いていない。


 というのも、あさひ山展望公園自体よく管理された人口草原であり、更に上部には四つものゴルフコースが並んでいるからだ。下から武蔵丘、新武蔵丘、鶴ヶ島、高麗川とある。

 バッタにとって住み良い環境が整っているので、暫くはここらに留まると思われた。


 これが孤独相だったなら、草原は餌が乏しくて豊穣帯に集まってくれたはずだが、今は芝だろうが花壇だろうがお構いなしに食い荒らす群生相だ。


 こうした場所で糧を得て一気に勢力を増した後が怖い。


 西には秩父の野山があるためそれに沿って北に向かってくれれば大いに結構だが、南や東の広がりは仁たちには全く対処できない。


 一応、東京がエクスプランターに陥っている最中で八王子近隣のトノサマバッタの急増は夏頃から言われていたので、実際に発生したのは埼玉だったと言えども周辺住民としてそれなりの心構えはできているはず。


 大いに健闘してくれる事を祈るばかりだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 一週間後、埼玉県北部にて。


 雲一つない晴れやかな空に、無数の黒点。


 もうじき正午になるが、立ち去りそびれた夜が今頃慌てて撤退しているかのようだ。


「見て見て森山君! 地獄絵図だよ! 多くの著名な画家がこの題目で作品を残しているけども、多くの人が思い浮かぶのは鮮烈な業火が印象深い『六道絵』だよねやっぱ!」


「そこで芸術トークに花が咲く先輩、大概まともじゃないっすからね!?」


 河川沿いの小高くなった歩道におぞましいほどのバッタの群れが飛び交う中、二人は謎にはしゃいでいた。


 秋も終わりかけていてすっかり肌寒い。

 長袖の外套を着こんではいるが、それでもバッタは度々素肌に激突してくる。


 即ち、主に手元と首から上に当たるのだ。

 こちらの顔面めがけみるみる拡大されるバッタの姿ときたら、そうもまっしぐらに飛び込んできてくれると嬉しさのあまり思わず叩き落したくなる。


「うううっぜぇ! この上なく! 俺の中でうざい生き物ランキングは三位がハエで二位が蚊、一位はヒトだったのに、今日からバッタがトップだわ…」


「ランちゃんの事情はわかるけど、仁君は何でそんなヒトが嫌いなんだい?」


 バッタの激突から目を保護するための伊達メガネを押し上げながら郁人氏が訊ねた。

 トノサマバッタは結構大きいので当たられる度にずれ、その度にいちいち直していた。


「別に嫌いじゃないっすよ。ただ本当にウザい奴のそのウザさはとことん常軌を逸してる。その印象がうまく消去できなくて、時に善良で無関係な人までそう映るっす。そんなヒトが長年鎮座してきた王座を容易く奪って行ったバッタどもときたら、伝わりますかこのウザさ!」


「ああ、今まさに実感してるところだよ」


 またもバッタに眼鏡をずらされて片方の弦を耳から外れされた郁人氏は、もはや直す気にもならない様子で呆気に暮れていた。



 あのですね?

 群馬県太田市さん、なんでそんな絶妙に良いところにあるんですか!?


 いや、調べてなかったのが悪いんだけど…

 群馬県って丁度の東京の北のあたりよなあ、とは思ってたけど…


 本当に宝泉なんてテッキトーに考えた地名だったのに、

 いっそ明確に群馬県という事に…あかんか。


 一応言っとこ、この物語はフィクションです。

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