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■4 先駆者


 "東京 エクスプランター 蝗害"


 これらのキーワードでインターネット検索をかけた結果、蝗害の発生を危惧したコラム記事の最も古いものは一年前の九月頃にまで遡った。


 思い返してみれば、部屋のベランダで伸び散らかしたヘデラの撤去を藍に頼まれた日の出来事が頭に浮かんだ。

 麻薬植物や毒草が市街地に現れ始めたあの頃、確か夏休みも終わっているが地元に帰らないのかと話をしていたはずだ。


 まだエクスプランターという言葉も無い頃だったが、掲載から半年過ぎた頃にエクスプランターとの関連性を問うようなコメントが投稿されており、そちらに引っ掛かったようだ。


 このまま植物の異常発生が続けばどうなるかという予想をする中で、

 柑橘類・サツマイモ・菜物野菜・穀物などが害虫に食い荒らされて食糧危機に陥るやもと述べていた。特に穀物を食害するのは驚異の繁殖力を持つイナゴ科のバッタにつき蝗害の危機には目を見張らねばならない、との事だ。


 せっかく先見の明を働かせて呼びかけていてくれたのに、何の対策も打てないまま河川敷以外の場所でトノサマバッタが目撃されるまでのところに来た。


 東京での()()()()()()()状態で、エクスプランター発生から一年後の山間部に発生した。

 それ故に、群生相にまだなっていない姿であっても藍は蝗害が確実に訪れるように言ったのだ。


 その猶予は、仁の見立てではあと二年ほど。


 蝗害の発生にも複数の条件がある。

 一斉に羽化する時期こそ分水嶺というもので、産卵しやすい地質である事も重要だ。

 高温多湿な気候が好まれるが、過去の歴史の中には酷い旱魃を受けて干上がった川底の水草が露出したところを貴重な餌場とし、バッタがそこに集中した結果から群生相に転移した例だってある。


 いわばバッタにとっての食糧危機が、人類にも食糧危機を招くと言えよう。


「俺、つい三日前ぐらいにあの土砂降りの中で兄貴の店に行ったんだけどランちゃんには会えなくて、ひどく寂しい気持ちで家に帰ったんだ! まさか今日に会えるだなんて運命だろこれ絶対!」


「バカ言え、お前は今もすれ違ったままだ。今日のこれは俺との運命の演出に決まってんだろ!」


 今からでも何か打てる手はないかとあまり無い頭を捻ってみるのだが、帰りの車内の騒がしさときたらとても集中できなかった。


 帰りは郁人氏の舎弟を二名ほど拾って同乗するとは言われていたが、こんなにやかましいとは聞いていない。どう考えてもこれは事前に通告しておくべき事柄だ。


 おかげで寝る事もままならず、タブレットで調べものをして過ごしたこの破目だ。


「君たち、ランちゃんに少しでも妙な事をしようものなら、仁君に毒虫とか毒草とかけしかけられるよ。一見大人しい好青年かと思いきや、とんだダークホースだったよ彼は」


 運転席の方から野次られたが、真摯に対応する気になれず肩を竦めて見せた。


「この気怠げな雰囲気、まさにヴェノメイザーのそれだわ」


「聞いたことねえ名称だな。何かのゲームの職業とか?」


「いや、これは俺独自の呼び方。毒使いってあんまかっこいい呼び方ないから」


「マジかよ、ありそうで無かったな! さてはIBソリューションもお前が先駆けだろ! まさか…エクスプランターもなのか…?」


 仁が何もせずとも勝手に盛り上がれる舎弟の二人にはある種の畏怖をも覚えた。


 藍はいつもの無言を決め込み、こちらで一番の話上手の藤沢先輩すらも終始苦笑いだ。


 後部座席側の雰囲気の不芳さを感じ取ってか、「あんまりうるさいと途中で下ろすよ」と郁人氏が注意するのだが。


「兄貴すいやせん! 薬中のヤバイ奴がうろついてる夜道に放り出されるなんて嫌だ!」

「お前のテンションなら薬仲間に思われて案外大丈夫かもな! 俺もギリセー…それってアウトじゃね?」


 といった有様で。

 

「ちょっとばかりよく喋るだけで、決して悪い子らじゃないのは理解してくれると有難い…」


 郁人氏の半泣き脅しで、仕方なく目を瞑る事にした。


「親の口から生まれて来たのであろう。如何様な出自であろうと我はそうそう色眼鏡を持たぬ。むしろ興味が湧くな。哺乳生物はおよそ胎生であるのが通常だが、カモノハシは例外の卵生だ。両生類には口の中で卵を孵化させるカエルもかつては存在し、イブクロコモリガエルという名称なのだが、惜しいことにこの種は絶滅してしまっている。またマムシは口から子供を産むといった間違った噂が広まっているが、あれは列記とした胎卵生であり、胎内と食道に繋がるような経路もない」


 とうとう藍が壊れた。

 なるほど、こうなるのか。

 そういえば繁華会の会合で多大なストレスを受けたときも饒舌さを増していたのを思い出した。





 どうも、筆者です。

 ヴェノメイザーという名称、"毒(venom)"と"他人を犠牲にする人(victimizer)"で意味も通じる楽しい掛け合わせになっており、なんで今作は異世界ファンタジーでないのかと悔やまれるぐらいには良い出来です。

 お気に召しましたらどうぞ皆さん活用なさってください。先駆けはこのブンチョチョで御座います。


 新章のタイトル"先駆者"に絡めたネタ回でいきなりページを消費してますが、一応この物語はこの章を含めてあと三章ぐらいで完結の予定です。長引いたとしても四章以内かなと思ってる。


 実は早く書き終わってしまいたい。書くことはそれなりに楽しんでおりますが、執筆活動は生活リズムが狂いまくるのです。もっと晩年の趣味にしたらいいものを、つい書きたくなってしまったがために不摂生に祟られています。


 あと30~40ページ、6万~8万文字。

 端折らず、走らずに書き上げられるよう頑張ります!

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