■2-2
「私は進化生物学の講師だけど、エクスプランターの発生以降は特に植物の進化に理解を深めているんだよ」
藍の自己紹介を受けた柏木氏が突然そんな事を言い出した。
「講義でも植物細胞はすごいってよく言ってたっすね」
彼の経歴は当セミナーのホームページで講師の紹介欄を読み込んで知るところなので不要な情報だったが、他の参加者のように普通は誰もそんなところを見ないのでそのように振舞った。
「藍ちゃんはとっても可愛らしくて、まるで木の妖精のようじゃないか。いやあ、この歳じゃなきゃ是非お近づきになりたい」
不味い事をしてしまったような気がした。
分を弁えてこの歳じゃなきゃと言い置いていたが、こちらは今後も親交を図る気で接触している。
会う機会を重ねれば、人はなにがしか縁があると勝手に受け止め行くもの。
そうなったときに年の差という垣根はどれほど保たれるだろうか。
今年で19になる娘と28歳の講師。
令和4年の法改正により成人の年齢が20歳から18歳に引き下げられたので犯罪にはならず、こうした年齢差の交際が実際あるとしても仁個人には現実的とは思えない。
アプローチを受けて藍が気持ちを奪われる心配はしてない。
植物の気持ちなどわかったものではないが、そこは何となく大丈夫だと思う。
例えば、報われない気持ちに思い詰めでもして髪の一本でも入手されたなら。
水分の供給を失った藍の髪は茶色く変色して針のように硬化し、非常に折れやすく無数に散らばる。
仁も何度肌を刺されたかわからない。しかも傷の治りを阻害する微弱な毒性まである。運動能力に欠く植物が何かしら毒性を持つことは生存戦略として好まれるのだ。
ゴミと見間違えてさっさと捨ててくれればいいが、思い入れのある品ならそうはなるまい。
彼はすぐにそれが通常の動物性組織でない事に気づいてしまう事だろう。
とまあ、もしもそれほどまでの変態野郎だったらという話をこれ以上広げても仕方ない。
互いの距離間には仁が目を見張れば良いのだ。守ると決めた以上、自分の縄張りの雌にちょっかいを出す雄を牽制する動物本能をも駆使しよう。
なんら笑いどころではなく、注意力の足りない仁でも本能で無意識化にも働かせられる優れた危機センサーと捉えれば大いに活用すべき能力だ。
「妖精などと安い口説き文句では引かれる髪もないな」
藍もそう言うので安心できそうだ。
仁が想像した事態が触発されかねないので髪での表現は止めて欲しかったが。
「女神であろうが。良い目の付け所をしておると買っていたのに、どうしてそこで曇るのだ」
「コイツ…自分で言うとか正気か」
おそらく正気のまま言っているのが恐ろしい。
大いなる奇跡の存在、自己を神格化して捉える事があっても致し方ない。
「日本では木花咲耶姫っていう桜を咲かせる女神様が居てね、かぐや姫のお話の元にもなっているんだ。エクスプランターの影響で今その名が国外にも知れ渡りつつある。残念ながら僕が主として崇める女神様はそれなんだよ」
残念ながら、それもこれだ。
藍なら桜の開花を操作する事もおそらく可能だろう。
樹木や草花の生長を助け人々に豊穣を齎すとされる古今東西に語り継がれた植物を司る神々の御業は、藍にも真似事が出来てしまうのだ。
エピソードタイトルの番号振りを間違えていたので直すついでに
講師の年齢を編集しました。
40手前→28歳。
結婚してるだろって思ったので。
あと19歳に手出ししても犯罪じゃなかったので直してます。




