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桜舞い散る頃に…  作者: 彩莉
25/30

幼子

終盤若干グロいです。

‪そう言われ、夕飯を食べに香織と霰は居間へ向かう。‬

‪社神と鈴が台所に立っていた。‬


‪「これくらいでええの?」‬

‪味噌を箸でくるくると溶かしながら、鈴に聞く。‬

‪「うん!あとは炊飯器の中のご飯をよそって持っていって〜!」‬

‪鈴は頷き、お椀を渡す。‬

‪社神はお椀をもち、ご飯をよそい、台所から居間へとやってくる。‬


‪「お目覚めですか?おはようございます」‬

‪社神は微笑み、みんなが座る席にご飯と味噌汁を置いていく。‬

‪「俺も手伝うよ」‬

‪香織は霰の腕を掴む。霰はふと香織の方を見る。‬

‪「座ってていいの、まだ背中痛むんでしょう」‬


‪鬼人に手を振り払われたときの傷だ。打撲しているのもあって、あまり快い状態ではなかった。‬

‪香織は横に座り、霰の方をじっと見る。‬


‪「ほんと、危なっかしいんだから。無茶、しないでね」‬

‪「……香織もな」‬

‪霰は少し照れて、目線を逸らした。‬


‪「天真!どうしてここに」‬

‪霰は少し驚く。‬

‪「蛟と完全分離したんだって」‬

‪香織は天真の件にはあまり詳しくなかった。対峙したときに、香織はいなかったわけで。蛟に首を絞められたときの痣が、青くてかてかと残っていた。‬


‪天真はこちらに向かってくる。そして、深く頭を下げた。‬

‪「本当に、すまなかった」‬

‪その声は、かつての禍々しい気など纏っていなく、一人の青年同然だった。‬


‪「俺はいいよ、大丈夫だ。でも……」‬

‪霰は圭の方へ視線をやる。圭は神崎と何やら話していた。‬


‪「圭には謝ったんだ。圭太にもな」‬

‪そうか、と言いかけて止まる。‬

‪「圭太?どうして?」‬

‪天真は少し微笑んで、口を開く。‬

‪「圭太は、圭の身体に少しだけ乗り移ってたんだ。そっくりだな」‬

‪圭を見ながら、懐かしいとでも言いたげな表情をする。今の天真に以前のような歪な気配はなかった。‬


‪「へえ。蛟が?」‬

‪神崎は目を少し見開き、結んである三つ編みをくるくると遊ばせながら、圭の方を見る。‬

‪「うん、あいつももしかするとさあ」‬

‪人間だったんじゃないか、そう言いかけて圭ははっとした。‬

‪蛟は自分のことを妖だと思っている。なのに圭太追い詰められ、炎に焼かれたとき、混乱し、頭を抱えていた。‬


‪もし人間だったら?‬

‪圭太や鈴羽、天真や社神を追い詰め、今もなおオレたちを苦しめる奴が、妖ではなく、人なのだと言うのなら。‬


‪オレは、蛟を倒さないといけない。人を死に追いやり、殺し、かつての兄の身体を乗っ取り、酒呑童子の大義のもと好き勝手した奴を。生かしてはおけない。‬

‪だが、人なら?‬

‪蛟が人であるなら、オレがやろうとしていることは、人殺しではないか?‬


‪そんなことは許されるのか?‬

‪いや、きっと誰もに許されたとしても、オレはオレを許すことができない。甘いのはわかっている。殺らないと殺られる。そんな状況下に置かれているにも関わらず、オレは……。‬



‪「圭君?大丈夫?顔色悪いで」‬

‪目の前の神崎は、いつの間にか髪をいじるのをやめ、圭の肩に手を置き、軽くポンポン、と叩く。‬

‪「わ、わりい」‬


‪どうせ一人で考えたってだめだ。そう考えた圭は、思いきって神崎に訪ねた。‬


‪「一夜、もしお前の仲間を殺したやつが人間なら、仲間の敵をとるために、そいつを殺せるか?」‬


‪神崎は何故そんなことを問うのか、という野暮な質問などはせず、少し悩み、やがて口を開いた。‬


‪「うん、俺はそうするよ」‬

‪圭は、神崎の答えを聞いて、意外だと感じた。‬

‪聞いておいてなんだが、圭にとって神崎は平和を尊ぶ人物で、殺生などは断じて是としない、そんなイメージがどこかにあったのだ。‬


‪「そっか、答えてくれてありがとな」‬

‪「うん、俺は……過去にそうしてきたことが、何度もあったから」‬


‪神崎は死んで、生まれては死んで、その繰り返しの間の記憶が残っている、そんな特殊な転生を繰り返していた。‬


‪背中を打ち破った、シダに空けられた風穴の傷は、十回生まれ変わった今でも残っている。恐らくこれは、あの日を忘れないため。あの惨劇を戒めるかのように、痛々しい傷は今もなお、『生き続けている』のである。‬


‪ー‬


‪「この子が、十回目の転生者か」‬

‪産まれたての一夜がぎゃあぎゃあと泣いていた。‬


‪ー‬


‪「一夜、お前は特別な気がするなあ」‬

‪わしわしと髪を撫で、父は笑った。‬

‪九歳の時、全てを知った。俺はかつての先祖の生まれ変わりだと。それも、十回も転生しているということを。‬

‪一夜として生まれたのに、記憶は幾百年もの間を記憶している。‬

‪それでも一夜の両親は、我が子、普通の息子として一夜を育てていた。そんな二人は短命で一夜が十二歳の時に、この世を去る。‬



‪まっとうな愛を得られてよかった。そう思う反面、やはり少し寂しさを感じられるのであった。‬



‪どうして?‬

‪残されたのは、このだだっ広い神社と、従者一人で。‬

‪かつて家族三人で住んでいた母屋は、虚しいほどからっぽで。‬



‪ー‬


‪からっぽだった母屋にはいま、新たな仲間がいる。‬

‪古から縁のある者、その輩の者、かつては敵であった者。‬

‪不思議と、あたたかく感じる。これが、仲間なんだろう。‬


‪そんな仲間が殺されたなら、かつての先祖の神崎のように……。‬

‪妖だろうが人間だろうが、きっと。‬


‪「とりあえずご飯、冷めたらあかんし食べに行こ」‬

‪「おう!ありがとな」‬


‪「それにしても、七人か。仲間増えたね」‬

‪鈴はにこっと笑い、圭の横に座る。‬

‪「……鬼人」‬


‪霰は先ほどの夢もあって、鬼人のことを心配していた。あのときの鬼人は正常じゃなかった。‬


‪「とりあえず、さ。酒呑童子は敵やろ?」‬

‪神崎は霰に気をつかい、確認する。‬

‪「圭君から聞いたけど、蛟も訳ありみたいや」‬


‪あいつは酒呑童子に連れていかれる前に、人間がどうとか呟いてたんだ。それに、容姿が圭太にどっか似てた。‬

‪圭はそう語り、味噌汁を啜る。‬


‪「そうか。……今さらになるんだけどさ」‬

‪「どうした?」‬

‪霰は自分の家のことを話した。‬

‪父に、香織を何があっても守るようにと命じられていたこと。ある程度武術に心得があること。‬

‪それは香織も、うっすらと知っていたようだった。‬


‪「すっげえな!オレも鈴を護れるように頑張らねえとな」‬

‪ししっと笑い、鈴の肩に腕をまわす。‬

‪「私も社神に教えてもらおっかな!」‬

‪「あら、嬉しいわあ。なんでも聞いて」‬

‪ふふふと笑い、鈴の手を握る。‬


‪「ねえ、早速気になってたこと聞いていい?」‬

‪「ええよお、何ですか?」‬

‪「天真と社神って恋人同士なの?」‬


‪天真はキョトンとし、社神はぼっと顔を赤らめる。‬


‪「幼少の頃はよく約束したな」‬

‪「天真様!?覚えてはったんですか……?」‬

‪社神は先ほどの落ち着きをなくし、顔を真っ赤にして下を向く。‬


‪「ここまで俺のことを慕ってくれていたんだ。俺にとっては最愛の人だな」‬

‪照れもせず告白する天真に、一同はびっくりする。‬

‪「わ、わたくしも……」‬


‪「よかったね社神」‬

‪鈴はにこにこしながら、満足そうにする。‬

‪「そういや二人共年齢止まってるよな?何歳くらいで止まったんだ?」‬

‪圭はなんとなく尋ねる。‬


‪「俺は二十。社神は十八じゃなかったか?」‬

‪「え?思ったより若かった」‬

‪「失礼なこと言うなあ」‬


‪そんなことを話しながら、食事の時は過ぎ、あっという間に夜更けになった。‬


‪「俺、昼はああ言ったけど……お前のこと、親父の命令がなくても護るつもりだから」‬

‪「霰、それってどういう……」‬

‪「おやすみ」‬

‪「う、うん……」‬


‪はぐらかされ、気になりながらも香織は眠りにつく。‬


‪ー‬


‪「うえええええ、うええええん」‬

‪「シダ!××が泣いてるでしょう!」‬

‪「心配すんな!俺もモモもどこにも行かないからな!」‬


‪ー‬


‪「とと、かか」‬


‪知らない間に、涙を流していた。‬

‪とと?かか?シダ?モモ?‬

‪何の話だろう。それよりも昼間は最悪だった。炎で焼かれたのに、傷はほとんどない。だがやけに鼻につくような感情が、離れない。‬


‪愛してほしかった。誰に?‬

‪行かないでほしかった。どこに?‬

‪一人は嫌だった。どうして?‬


‪矛盾する感情は、俺を討ったあの憎むべき人間のようで。‬

‪あれ?そもそも俺はどうして人間を憎んでいるんだ?‬

‪俺はいつからあの湖にいたんだ?‬


‪「起きたか蛟」‬

‪「酒呑童子様」‬

‪「すみません、俺、あいつに」‬

‪酒呑童子は、珍しく蛟の頭を撫でる。容貌こそ子供だが、彼は一番の古株の妖である。‬

‪「おれはお前を捨てないから、気にするな」‬







‪あのとき、おれはシダのことなんて、ただの道具だと思っていたんだ。門を開けさせるだけの道具だと。‬

‪ただ、あのときに。村を去るお前は、笑っていた。‬


‪「とと!かかとリコちゃんと待ってるから!」‬


‪シダを羨ましいと思った。そしてこの子をのたれ死なすのはあまりにも酷なことだった。‬


‪俺が門から出てきたとき、その子は死んでいた。まだ四歳くらいの幼い子が。足には縄の痕。手の爪は剥がされ、見るに堪えないさまだった。‬

‪顔を見ると、片目がなく、抉り出されたようだった。‬

‪拷問を受けたのか。こんな小さな子が。‬

‪これが、人間のすることか。‬



‪かつての自分と重なる幼子の姿に、酒呑童子はいたく哀しみ、そして決めた。‬


‪人間が人間を壊すなら、おれがお前らを壊してやる。‬


‪そしたら、もうこんな小さな子がこんなことをされる日は来なくなる。そう信じて。‬





‪「ユウ」‬


‪かつてシダの息子だった幼子の名前を呼ぶ。‬


‪「お前もこっちにこい」‬


‪「たしか、蛟の席が空いてたな」‬




‪ー‬


‪ユウが目を開ける。‬

‪「あの……」‬

‪「よう蛟、やっと起きたか」‬





‪ー‬



‪「蛟、お前は強い。気にすることなんかないじゃろ」‬


‪「酒呑童子様」‬




‪ー‬


‪「かか!戻るって言ったのに!」‬

‪「大丈夫、きっと戻ってくるよ!」‬

‪「ととは、死んだのかなあ」‬

‪「そんなことない!」‬


‪「リコちゃんは?」‬

‪「あの女子か、お前より先に死んだよ」‬

‪「一人になっちゃった……」‬

‪「何、すぐ向こうで会えるさ!」‬



‪これは、誰の夢?‬

‪香織は目の前の悪夢に疑問を抱く。‬


‪「とと、かか」‬


‪ユウ?‬


‪ユウなの?‬



‪ザ、ザ……ザザ……‬


‪「変な面してんじゃねえよ」‬


‪蛟?どうして蛟が?‬


‪もしかして……。‬

‪蛟はユウの成れの果て……だというの?‬

‪これが事実なら、最悪なシナリオだ。私にとって、最も戦いにくい相手。いや、それどころか……戦うことすら望みたくない。‬


‪モモがあのとき言わんとしていたのはこのことなのかもしれない。‬

‪どちらにしろ、ただの夢には思えなかった。‬



‪「ユウ……」‬




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