少しの暇
いとまです。少し短め。リラックスして読んで下さると嬉しいです。
「コバ!お前今暇か?」
シダは手を振りながら、コバのもとにやってくる。
「ああ、今荷物を積み終えたからな」
「ならよかった、ちょっと着いてきてくれ」
ニコニコ笑うシダに着いていくと、一つの神社にたどり着く。
その神社は、とても綺麗であるのに、人気はなかった。
「ここ、誰も参拝してないみたいでさ」
もったいないだろ?と肩を組みながら視線をコバにむける。
「そうだな、けど、珍しいな。お前が神社に連れてくるなんて」
コバの言葉を聞き、シダは少し下を向く。
「まあ、神の子、だしな……」
白くなってしまった髪をくしゃっと掴み、自嘲気味に笑う。
「自嘲するなよ、恥ずかしいことじゃないだろう」
「コバ、お前はいつから小豆色の髪になったんだ?」
「オレは、生まれつきこの色だったよ」
シダの黒髪はとても綺麗だった。白髪も綺麗なので、羨ましいと、コバは思った。
「そうか。……なんだかもう数年は一緒にいるのに、知らないことだらけだな」
寂しげな表情を見せる。
「知らないこと……か、いつかオレたちが、お互いのことを全部知るときがくるのかもしれないな」
「それは楽しみだ!コバの好きな女とかな」
コバは顔を赤くして、シダを睨みつける。
「オレが好きなのは……ユリだよ」
初恋は、モモだった。煌めく笑顔、綺麗な顔立ち、そして何より、他の存在を尊いとする思想。
なにもかもが、コバの惹かれるところだった。
だが、同時にシダのことも好きだった。友人として。明るく、品行方正で、顔も整っていて、人当たりがいい。
お似合いの二人だった。
そして、こんなオレなんかを好きになってくれるユリのことが、何より大切な存在だ。
「まあ知ってたけどな」
「っ!この野郎!」
コバはシダを軽く小突く。
「またここで、色んな話をしようぜ」
シダは笑い、コバもつられて笑う。
ー
「神崎……」
「これでもう、シダさんは……!」
血が頬を伝う。シダの血だった。
「シダっ!!」
モモが、シダの名を叫ぶ。涙を流しながら。
「お……俺……」
意識はあるのに、口が思うように動かない。たしか、一度こんな気分を味わった気がする。
そう、モモに……絞め殺されたことがあった。
気づいたら、戻れないような気がしていた。それは正しかった。
俺の身体なのに、融通がきかない。何かが、俺の中にいる。
やめろよ。俺をこれ以上壊さないでくれ。俺はこの村を壊したくないんだ。モモを護りたいんだ。
モモは俺をじっと見つめる。見ないでくれ。俺はこんなことをしたくないんだ。それでももう、俺の意識とは関係なく、『何か』が俺を乗っとっていくんだ。
コバ、お前はモモのことが好きだったんだろ?なら、頼むよ。俺の代わりにモモを護ってくれよ。俺はもう駄目だ。お前しかいないんだ。
考えるだけの頭は、身体を止めることができないままだった。
涙を流しながら、笑いながら、シダは村を壊し、倒れた。
ー
「モモ……」
「霰君!」
「霰!起きたか!」
「霰〜!よかった!」
アラレ?誰だ、それは。俺はアラレなんて知らない。
「どうしたの?顔、青ざめてるけど」
紫髪の女が俺の顔をのぞき込む。
「よかったな!お前あれからずっと起きなかったから心配してたんだぞ」
橙色の髪の男が肩を叩く。
「……?」
「よかったわ、そや、香織ちゃんも呼んでくるなあ」
こいつだけはわかる。目の前の男は、俺を殺した神崎だった。
「どうしてあのとき俺を殺した?」
気づけば、神崎の胸ぐらを掴んでいた。
「え?殺……?」
「とぼけるな神崎、お前は俺を刺殺しただろ」
「霰?何言ってるの?」
「お前、鬼人に吹っ飛ばされて気絶してただけだぞ」
アラレ?俺はアラレじゃない。鬼人なんて知らない。お前達も知らない。
「もしかして……」
「ねえ、大きな音がしたけれど……何かあったの?」
「あっ香織!霰が起きたよ!」
襖を開けたのは、モモだった。
「モモ!」
「へ?ほんとだ!霰、おはよう」
「モモ……無事でよかった……」
霰は香織に口づけをする。
「……〜っ!?」
香織は驚いて、霰を突き飛ばそうとするが、力が強く、できなかった。
「モモ……モモ…………」
「私は香織よ?霰、とぼけてるなら……」
「いや、恐らく……霰君は……」
神崎はケホケホッと、咳き込みながら応えようとする。
「シダ君の記憶と混ざってしもうてる」
「じゃあ、今の霰は、シダ……?」
霰はシダ、と呼ばれニッと笑う。
「モモ!会えてよかった」
たしかに、私のことをモモと間違えている。神崎の胸ぐらを掴んでいたのは、死んだ直後のままだから。
なら、霰は?まだ寝ているの?
それとも霰が自分のことをシダだと思い込んでいるの?
「よかった、安心し……」
霰はそのままドサッと倒れる。
「へ?また倒れちゃった!」
鈴は圭と二人で霰を寝床まで運ぶ。
「疲れてたから、記憶が混同してるんかもなあ」
神崎は香織の横に座る。
「首、大丈夫?ごめんね、霰が……」
「大丈夫、俺とご先祖さんはそれだけ似てたんやろうな」
夕飯の準備をしている途中に、霰は目を覚ました。
「霰、もう起きたの?体調は?どう?」
香織が霰の横に座る。
「大丈夫だ。それより、悪かった。本当にごめん」
霰は頭を下げる。
「いいのよ、私が秘密にしてたのが悪かったんだから。辛かったでしょ?」
辛いというより、鬼人には話すのに、俺には話さなかったことへの嫉妬だった。
「それより、さっき……」
「なんだ?」
「……覚えてないの?」
「何の話だ?」
香織は少しため息をついて、むっと膨れた。
「いいわよ、とりあえずご飯食べに行きましょう」




