第83話 飛空艇プラットホーム
【ウロボロス本部 小型戦闘機プラットホーム】
振り下ろした鋼の刃が、黒い機械兵器を真っ二つに両断する――。
私たちは小型戦闘機の飛び立つターミナルを襲撃していた。警備の衛士メシェディたちが武器を手に襲い掛かってくる。
[かかれ、連中をこれ以上進ませるな]
不気味に光る赤い目をした中型の人間型機械兵器――戦術士アレスが私たちにハンドガンの銃口を向けて司令を出す。複数の衛士メシェディが走ってくる。
パトラーがサブマシンガンの銃口を侵攻方向に向け、引き金を引く。衝撃波を纏った銃弾が飛んでいく。サブマシンガンの威力は低いが、衝撃波を纏うことでその攻撃力は補完される。
だが、衛士メシェディたちは機械兵器とは思えない軽快な動きで全ての銃弾を避ける。ただの1体も倒れず、彼らは私たちの命を奪わんと迫りくる。
「遠距離攻撃は避けられても、近距離攻撃は避けられません!」
「残念ねーっ!」
ボルカとホノカが、攻撃圏内に入った衛士メシェディたちを流れ作業の様に次々と破壊していく。
衛士メシェディの攻撃は、アサルトライフルによる銃撃かナイフによる斬撃。いずれも無属性攻撃だ。彼らの攻撃は、彼女たちに通じない。そのことは彼らも分かっているのか、攻撃の対象は私、ブリュンヒルデ、パトラーに向けられている。
だが、その攻撃ももう終わりだ。
「敵戦術士アレス、破壊しました」
サブマシンガンからエッケザックスに持ち替えたパトラーが、衛士メシェディを斬り倒す。その先には身体から煙と火花を散らす戦術士アレスの姿があった。赤く光っていた目は黒く染まり、輝きを失っていた。あの銃撃は、衛士メシェディを狙ったものじゃなかった。最初から戦術士アレスを停止させるものだった。
私はバスターソードで、飛び掛かってきた衛士メシェディの胸部を串刺しにする。壊れた機械音を発しながら、衛士メシェディは機能を停止させる。
「――これで全て、だな」
魔法で戦えるまでに回復したミズカが、刀を傘という鞘に戻す。私たちも武器を戻し、プラットホームに並べられた小型戦闘機に近づく。デルタ型の小型戦闘機だ。3人乗りの小型戦闘機。ただ、機動力にはややかける。
「どうする?」
ブリュンヒルデが黒色をした板状の小型飛行ユニットを見ながら聞く。あれは1人乗りの戦闘用飛行ユニットだ。そのまま上に乗り、操作パネルを使って操る。安全性なんてものはゼロに等しい。神聖レナトゥスに安全性などというのは、意味を成しえない言葉だ。戦えればそれでいい。それだけだ。
今、ここにいるのは7人。まさか、全員が危険極まりない飛行ユニットに乗るワケにもいかないだろう。たぶん、3人ぐらいはデルタ型戦闘機に搭乗だ。こちらはルミエール政府やヴァルハラ帝国でも使われる戦闘機と同タイプで、そこそこ耐久性がある。
「私はデルタ機搭乗を希望します。戦闘は貴様にお任せします!」
最初に希望を述べたのは、ヒュンドラだった。異論を述べる者はいない。まぁ、そうだろう。ヒュンドラはVクローン。攻撃を無効化できるワケでもなければ、特性を生かすことも出来ない。飛行ユニットで巨大化すれば、確実にユニットは落ちるだろう。
「私は飛行ユニットに乗ろう」
危険な役目を買って出たのはブリュンヒルデだった。やはり、そうなった。彼女ならそうすると思った。皇帝に危険な役目に負わせるのは気が引けるが……まぁ言っても聞かないか。
結局、デルタ型小型戦闘機に乗るのはパトラー、ヒュンドラ、ホノカ。小型戦闘機を防衛する飛行ユニットは私、ブリュンヒルデ、ミズカ、ボルカとなった。
「着陸座標地点はさっき送ったデータ通りだ。ウロボロス中枢タワー正門前で落ち合おう」
「了解っ!」
私は操縦担当のパトラーと頷き合う。恐らく、何人かは離れるだろう。コミットから入った情報によると、ルミエール政府軍は内周エリアの防衛シールドを解除し、空路からも内周エリアに侵攻しているらしい。空中も今や戦場だ。
プラットホームの扉がゆっくりと上がっていく。見えてきたのは、豆粒ほどの戦闘機やガンシップが灰色の空を飛び交う姿。神聖レナトゥス軍とルミエール政府軍の混戦。
[フィルドさん、……ブリュンヒルデ皇帝陛下のこと――]
飛び立つ直前、コミットが通信を入れる。
「ああ、分かっている」
[……それと、ウロボロス中枢タワーの正門は特殊な合金で作られ、その上から多角形シールドが張られています。普通の攻撃では壊せません]
「ジェネレーターか操作装置は――」
[残念ながら中枢タワー内部です]
「な、なにっ!? それじゃ解除できな――」
[ええ、分かっています。なので、こちらでもサーガ中将がネットワークを介してハッキングを試みています]
「解除できるのか?」
[フィルド筆頭将軍、ヴァルハラ帝国ナンバーワンのハッカーを信じてください]
通信相手がコミットからサーガに代わる。ファンタジア遺跡で一緒だったヴァルキュリア・クローンだ。
「そうか。頼んだぞ、――委員長」
[はい!]
私は通信を切ると、パトラーに合図する。彼女は親指を立てて僅かに笑みを浮かべると、すぐに小型戦闘機の操作パネルに触れる。稼働していたエンジンの音がより一層大きくなる。
目標はウロボロス本部の心臓部前。恐らく、神聖レナトゥス軍も相当の戦力を置ているだろう。しかも、辿り着く空路は戦場だ。
「必ず――」
私たちは小型戦闘機が飛び出すと、一斉にその後を追うようにしてプラットホームから飛び立つ。身を弾かれそうな風。けたたましい爆音。――戦場だ。
――このとき、私は知らなかった。7人全員で中枢タワーに辿り着ける運命なんて、存在しないことに。




