第84話 惨劇の空中戦
[撃ち方用意っ! ――撃て!]
白地に黄色のラインが入った中型飛空艇の側面に備え付けられた砲口が、一斉に火と煙を噴く。無数に飛ぶ砲弾は黒い鋼の外装を破り、炎と破片を飛ばす。
[クッ、外装シールド強化! 至急迎撃!]
黒い軍艦も負けじと一斉に砲撃を始める。同じように飛ぶ砲弾は、白い外装を砕き、撃ち込んだ穴から炎を上げる。
[こ、こちら、H3074号艦! 左右をルミエールのぐ、軍艦が、ひぃぃ、助けてッ! いやぁあぁぁあ、死に―、く…――!!]
[……H3074号艦、稼働停止。カーネル・エアー艦長、生命反応喪失]
左右を白い中型飛空艇に囲まれた一隻の黒い軍艦が、粉々になって落ちていく。軍艦の瓦礫と一緒に無数の衛士メシェディたちが炎の上がる市街地へと消えていく。
私たちはそんな惨劇を目に、ウロボロス本部の中心に立つ巨大な中枢施設を目指していた。中枢タワーを内包する内周エリアは思った以上に攻撃を受けていた。何十隻ものルミエール政府軍飛空艇が入り込んでいる。
[こちら、地上部隊! グールと思わしき魔物の集団に遭遇! カルセドニー将軍が負傷! 至急応援を! このままじゃ押し切られ、きゃあぁぁ!]
[ウソっ、内周エリアはどうなっているの!?]
飛行ユニットで空を駆ける私の通信機に、何度も通信が入る。相手がかけてきているワケじゃない。私が盗聴機能を切り忘れただけだ。
内周エリアに入ったルミエール政府軍もさぞ驚いただろう。内周エリアを守っていたクローン兵団『雷の兵団』は全員サイエンネット・モンスターことグールと化しているのだからな。
[フィルドさん!]
「ああ、お迎えかな」
パトラーたちを乗せたデルタ型戦闘機の前に、神聖レナトゥスのより小型のデルタ型戦闘機が数機現れる。空戦士デルタだ。赤く輝く目は確実に私たちを捉えている。
デルタ型戦闘機から鋭い弾丸が連続して放たれる。前方に現れ、並走する空戦士デルタ3機を砕き壊す。だが、左右に展開した空戦士デルタを取り逃がす。私たちの出番だ。
「私がやる」
「ふふっ、いきますよ!」
ブリュンヒルデとボルカがそれぞれ左右に先行して進み、デルタ戦闘機の攻撃から逃げ延びた空戦士デルタに直接勝負を挑む。ブリュンヒルデが刀を抜き取り、重力魔法で軍艦に叩き付ける。ボルカが放電魔法で感電させ、機能を停止させる。逃げ延びた6機の空戦士デルタはあっという間に全滅する。
[こ、こちら、ルミエール第3兵団管理官のギョクズイ――]
また通信が勝手に入る。
[も、もし誰か、座標5568-0977付近にいたら、……至急援軍を頼む]
私たちは炎上する神聖レナトゥス軍の大型飛空艇――司令艦の上を飛び越える。目の前にある光景が広がる。
「なッ……!?」
[――もう、これ以上は持ちこたえられない。た、頼む……!]
私たちの向かう先で、白地に黄色のラインが入った大型飛空艇が炎上していた。機体の上部は無数の砲弾を受け、炎と黒い煙が上がっている。
機体はまだ持ちこたえているが、それも時間の問題だろう。なぜなら、その大型飛空艇の上空には3隻の黒い中型飛空艇――軍艦が浮かんでいた。軍艦の底部から砲弾が放たれ、炎上する飛空艇を壊していく。いうまでもなく、大型飛空艇はルミエール政府軍のものだ。軍艦は神聖レナトゥス軍――。
「きゃぁあぁぁあ!!」
「いやぁぁぁあ!!」
「助けてぇぇええぇッ!!」
護衛をしていたであろう中型飛空艇は炎に包まれ、真っ逆さまに市街地へと落ちていく。同じ運命を辿った2隻の中型飛空艇が市街地で巨大な炎を上げている。
同じ任務についていたであろう別の中型飛空艇は、機体上部を大型飛空艇と同じように炎上させている。ただ、ダメージはこっちの方が大きく、徐々に高度を下げ始めている。
死にゆく飛空艇から、次々とガンシップが吐き出されている。なぜか、そのガンシップには血がついていた。考えるまでもないか。3000人を搭乗させられるあの飛空艇に、3000人乗せられるだけのガンシップや戦闘機は乗っていない。プラットホームで奪い合いになってるんだろう。
[ご、護衛艦は全滅。このままでは私たちも……。もう数分も持たない。お願いだ……!]
中型飛空艇の中腹が爆発する。エネルギーシステムにまでダメージがいったか。もう、1分後にはさっき墜落したあの中型飛空艇と同じ運命を辿るだろう。
私のすぐ側を悲鳴で溢れるガンシップが通り過ぎる。明らかに定員を超える人数を乗せ、操縦席にまで溢れんばかりのクローン兵が乗っていた。あれでは満足に操縦も出来ないだろう。ガンシップ機体後方の扉は閉められなかったのか、開いたままだった。そこから投げ出されたクローン兵が空中に消えていく。
「…………」
私はちらりと並走するブリュンヒルデを見る。彼女は下唇を噛み締め、目を強く閉じていた。通信は聞こえていないにしろ、クローン兵たちの泣き叫ぶ声は耳に入っているだろう。助けに行きたい。だが、エクレールの件もある。安易な行動でミズカを傷つけた。
中型飛空艇の中腹と後方が爆発し、木っ端みじんに吹き飛ぶ。逃げ出せなかった何百人ものFクローンたちが投げ出され、瓦礫と一緒に落ちていく。ある子はただ泣き叫び、ある子は助けを求め、ある子は神聖レナトゥスへの呪いの言葉を口にする。だが、その先に待つ運命はいずれも同じだった。
次はギョクズイを乗せた大型飛空艇が同じ末路を迎える。しかも、今度は1万5000人を乗せた大型飛空艇だ。消える声は比じゃないだろう。
「行ってみようか、ブリュンヒルデ」
「…………!」
肩を震わせるブリュンヒルデに、側を飛んでいたミズカが言った。涙を流すブリュンヒルデが顔を上げる。
「大丈夫だ。何があっても俺が守る。さぁ、来い!」
ミズカはブリュンヒルデの返事も待たず、先に炎上する大型飛空艇を攻撃する軍艦へと向かう。ブリュンヒルデも後を追う。
「やれやれ……。パトラー、ボルカ――」
[分かっています]
[ブリュンヒルデ皇帝をお願いします!]
「……ああ。後で落ち合う」
私は希望を含ませた返事をする。相手は軍艦3隻。こちらは小型飛行ユニット3機。勝ち目は……ないワケじゃないが、苦しいことは事実だ。私は覚悟を決め、小型飛行ユニットの先を上空へと向けた――。




