第81話 優しさの悲劇
「え、エクレー将軍、わわ私、みんなで…戦勝、ティー……楽しみ、でス」
「けが、手当、ありが、ざいまシた」
サイエンネット・モンスターが、呆然とするエクレールの頭を砕こうとする。私は壊れた彼女を背後から斬り捨てる。続けてすぐ横にいた怪物の胸を斬り、その命を完全に奪う。
私はそのままエクレールがもたれている低空浮遊戦車に飛び乗る。辺り一帯はサイエンネット・モンスターで溢れかえっていた。それぞれがふらふらと歩きながら、何か言葉を口にしている。
「チッ……!」
私は怪物たちの海に飛び込む。動きの遅い彼女たちを私は容赦なく斬り倒していく。後ろからサブマシンガンを手にしたパトラーも続く。
「し、ししン聖、レトゥに忠誠誓いマせん。でもエク、レーさんには、私死んでモいい――」
「外道。確実に言えるな」
私に飛び掛かってきたモンスターに水撃弾が撃ち込まれる。水の魔法弾を放ったのはミズカだった。彼女は傘から刀を抜き取り、素早い動きで怪物たちを次々斬り殺す。まるで水が流れるかのような動きだ。
「これ、さっきの男のせいなんでしょうか?」
「たぶんな」
サブマシンガンから無数に放たれる小さな弾丸。パトラーも群がるサイエンネット・モンスターたちを掃討していく。
この怪物たち、動きが遅いだけでなく、攻撃らしい攻撃をしてこない。耐久力も無に等しい。普通のサイエンネット・モンスターはそうでもないのだが……。
「本当にあの男の言う通り、何とかしてくれたみたいですね」
ボルカが空中で手をかざす。数本の雷の雨が怪物の大群に降り注ぐ。地面が揺れ、空気が激しく振動する。雷の音が鳴り響く。
「やり方は最低だけどねーっ!」
ホノカの右手が炎の化し、そこから巨大な炎の渦が生まれ、無数のサイエンネット・モンスターたちが紅蓮の炎に呑まれていく。
私たちはある程度片付けると、開ききったゲートに向かって走る。用意されていた何十台もの低空浮遊戦車やガンシップが動き出すことはなかった。
「わ、私うれし…氷、じゃなくて、ずっと、雷の…に入りたくてテ、――」
私はゲートの側にいた怪物を斬り殺す。結局、『雷の兵団』も悲惨な運命を辿るのか。『水の兵団』も、『氷の兵団』も酷い運命だった。
私たちはゲートをくぐる。最後にブリュンヒルデがヒュンドラに守られるようにして飛び込んでくる。あの飛び方だと、重力魔法で飛んできたのだろう。
「…………! ブリュンヒルデ!」
ミズカが地面に転がったブリュンヒルデに足を繰り出す。ミズカは彼女の背にいたクローンを蹴り飛ばす。黒地に紫色のラインが入った装甲服を纏うクローンはすぐに体勢を立て直す。
「ヴァルハラ帝国ッ、お前たちが私の、私の、大切な私の仲間たちを、よくも……!」
腰に装備した刀を瞬時に抜き取り、私たちに向かって走ってくるのは、嘆きと怒りに満ち溢れた神聖レナトゥスのクローン将軍――エクレールだった。
「お前らのその汚い命で償えぇぇええぇッ!!」
ミズカが刀を使い、ブリュンヒルデを守ろうと、エクレールの刀を防ぐ。怒り狂った神聖レナトゥスの将軍は何度も何度も激しく刀を振り下ろす。その勢いにミズカは防戦一方だった。
「クッ! 受けきれッ……!!」
私たちは一斉にミズカの応援に向かう。だが、――間に合わなかった。
激高のエクレールが刀を振り下ろす。ミズカの刀が砕け、刃が転がる。エクレールの刀が間髪入れずに繰り出され、ミズカの左腕を斬り飛ばす。黒いアーマー・スーツを貫通し、斬り口から真っ赤な血がまき散らされる。
「……ッ、クッ、うああぁぁああぁああッ!!」
ミズカが腹の底から悲鳴を上げ、ブリュンヒルデの側で転げまわる。鮮血が灰色の地面や気を失っているブリュンヒルデの白い軍服を汚す。
私はトドメを刺そうとしたエクレールにバスターソードを投げつける。鋼色をした高機能の軍用ソードは憎しみで何も見えていない将軍の腹部に深々と刺さる。
「あっ、ぐッ!!?」
エクレールはその場に手をついて倒れ、地面に血を吐き散らす。そんな彼女にボルカとホノカが迫る。ようやく状況を察知したのか、エクレールは腹に刺さったバスターソードを抜き捨て、素早くミズカの左腕を拾い上げ、私たちに背を向けて撤退する。
ボルカたちが逃げ出したエクレールの後を追おうとする。だが、その行く手は、駆け付けた6体の衛士メシェディと、1体の獣士ウガルルムによって阻まれる。
「ブリュンヒルデ! ミズカ!」
私は倒れているミズカとブリュンヒルデに駆け寄る。顔色を青くしているヒュンドラが、ミズカの斬られた左腕に回復魔法を当てる。斬り取られた方はエクレールに奪われていた。
「っ、ミズ、カ……?」
目を覚ましたブリュンヒルデがミズカの様子に気付く。
「……命に別状はないです。ただ、――」
ミズカに回復魔法をかけ終わったヒュンドラが、彼女を抱きしめながらブリュンヒルデを軽く睨みながら言葉を続ける。
「――ミズカがこんなことになったのは、間違いなく貴様のせいです」
「…………!」
えっ? ブリュンヒルデの……?
「今後はよく考えてから“助けて”くださいね」
そう言いながら、ヒュンドラはミズカを抱きながら立ち上がる。その姿は恋人がパートナーを立って抱くのと似ていた。
「ブリュンヒルデ……? 今のは――」
「…………。……ああ、そうだな。ヒュンドラの通りだ」
「えっ?」
「私は――エクレールを助けた。だから、こうなった」
「…………!」
私はエクレールの動きを思い返す。最初、エクレールはブリュンヒルデの背中にいた。そこからミズカが……。そうか、そういうことか。
ようやく状況を整理できた。大方、ブリュンヒルデはエクレールをほっとけなかったのだろう。彼女は呆然とする神聖レナトゥスの将軍を助けようと背負い、ゲートまで飛んできた。
だがそこで、正気に返ったエクレールは私たちの仕業と思い込み、後ろから彼女を襲った。恐らく、電撃魔法か何かで気絶させた。……本当は殺す気だったのかも知れないが、正気に返ったばかりで威力の調節が出来なかったのだろう。
ブリュンヒルデはFクローンに対して優しすぎる。それが“こういうこと”を招いた。それは紛れもない事実だった――。




