第79話 語られぬ任務
【ウロボロス本部 外周エリア 南部市街地】
ゲートをくぐった先は、さらに激しい戦場だった。紅蓮の炎が上がり、灰色の煙で視界は悪く、爆音や銃撃音が絶えることはない。
「かかれ!」
「デルタ3からシグマ7へ! 援軍へ迎え!」
他のゲートから侵入したルミエール政府軍と神聖レナトゥス軍が戦っているのだろう。外殻エリアは、退路を断ちたい神聖レナトゥス軍とそれを死守するルミエール政府軍の戦いだった。
「カイヤナイト中将の指揮下へ!」
「制圧作戦18を開始」
だが、この外周エリアは内周エリアを目指すルミエール政府軍とこれ以上の侵攻を阻止したい神聖レナトゥス軍の戦いの場。つまり、主戦場はここだった。
「ルビー少将!」
「クソ、一時撤退!」
[追撃開始]
私たちが通ってきたゲートの門番をやっていた蛇士クサリクが、複数機で部隊を組んで煙にまみれた空を飛んでいく。素早い動きで硬い鋼の身体で、ルミエール政府軍の機動兵器やガンシップを叩き落とす。
[かかれ! クローンを一人残さず狩尽せ!]
「クッ……!」
「いやぁあぁッ! 助けてぇッ!!」
何体もの獣士ウガルルムがアスファルトの地面を駆け進み、アサルトライフルで迎撃するクローンに飛び込み、その身体に噛みつく。白地に黄色のラインが入った装甲が砕け、真っ赤な鮮血が垂れる。
「敵ティアマット、サーチ。――発射!」
中型飛空艇から鋭い光線が飛び、魔法弾を繰り出していた守護士ティアマットの胸部を吹き飛ばす。爆音が上がり、女性型軍用兵器は背後の軍艦に激突する。炎を上げながら飛んでいた軍艦もバランスを崩し、地上の銃砲陣地に落ちる。
「行こう」
最初に止まった私たちを促したのは、ブリュンヒルデだった。そんな彼女についていく私たちとは対照的に、ミズカやホノカ、ボルカの足取りは重いように感じられた。
あの男の言葉が頭を横切る。久しぶり、失われた任務、また会えて嬉しい、歓迎する……。そして、ミズカの激高。何も言われなくても、何かあったことぐらいは分かった。それも、3年前。3年前は、EF2016年。――クリスター政府崩壊の年だ。
「エンドレス・クリスタルを私たちの手に!」
[迎撃開始]
「進めぇっ!」
私とパトラーがクリスター政府を去ったのは、EF2016年の6月だ。それから何があったのかは知らない。ただ、EF2016年10月にファンタジア一族の多くが殺される事件が起き、12月にはクリスター政府は崩壊した。僅か半年で世界は変わってしまった。
あの男の言った『失われた任務』は、恐らく私たちが去り、クリスター政府が崩壊するまでの半年間にあった出来事だろう。
「貴様らは邪魔で御座います」
「……消えろ」
ヒュンドラの先導を受けながら、私たちは激戦地を進んでいく。ミズカが襲い掛かるウガルルムの下あごに傘を突き刺す。口を強引に閉じられた獣士は、口内で魔法弾を炸裂される。頭部が噴き飛ぶ。
だが、そんなミズカの表情は重苦しかった。ミズカとホノカも、どこか暗い表情をしていた。ヒュンドラは変わらずだったが、空気が重くなったことは悟ったようだ。
「……何があった?」
私がそう聞いたのは、ブリュンヒルデたちと引き離されたときだった。私たちは神聖強襲士テラ・ベーゴマーとやらと戦っていたが、突如ミエール政府軍の中型飛空艇が降ってきて、バラバラになってしまった。
たぶん、ブリュンヒルデ側にはヒュンドラとパトラー、ミズカの3人がいる。こちらは私、ボルカ、ホノカの3人だ。
「……いつか話します。私たちIクローンとブリュンヒルデ皇帝陛下の過去については」
「…………。……そうか」
小型端末でブリュンヒルデたちの位置を調べ終えたボルカは、答えてくれなかった。彼女は私たちを先導して走り出す。
戦場を進む私たちの行く手が阻まれる。アサルトライフルを持った衛士メシェディが2体。彼らは私たちの命に狙いを定め、全速力で走り寄ってくる。
だが、不意に彼らの頭が撃ち抜かれる。銃弾の飛んできた方向には、汚れたアーマー・スーツを纏うルミエール政府のクローン兵たち。
「ヴァルハラ帝国の……!」
「ほ、本当にいたのか!?」
「て、敵だ!」
3人のクローン兵たちが襲い掛かってくる。ブリュンヒルデのいない私たちは、各々の武器を手に、攻撃してきたクローン兵たちに飛びかかる。
ホノカの剣がクローン兵の首を斬り飛ばす。ボルカの槍がクローン兵の左胸を貫き、背中から槍と血を飛ばさせる。私が放った銃弾が、クローン兵の頭を撃ち抜く。
私たちは僅かな時間で3人のクローンから命を奪い取った。恐らくブリュンヒルデには出来ないことだろう。苦痛に満ちた彼女たちの断末魔は、クローンに対して心優しい皇帝の心を傷つけるだろう。
「フィルド――」
ホノカがいつになく暗い声で私を呼んだのは、あと少しでブリュンヒルデたちと合流できそうな時だった。
「そうならないようには努力するんだけどさ、――」
「…………?」
「――もし、私たちがブリュンヒルデを守ろうとしたときは、あなたも彼女“だけ”を全力で守ってください」
後半の言葉はボルカが続けた。
「どういう意味だ?」
私が頼みの真意を探ろうとしたとき、2人は先に駆けだす。その先には同じように走るブリュンヒルデの姿があった――。




