第78話 軍用兵器の歓迎
「不運。いきなり弱点属性で来るなんて思っていなかった」
「不運じゃありません。ちゃんと資料通りです。貴様は読んでなかったのですか?」
視覚機能がおかしくなったと言ってヘッド・アーマーを捨てたミズカと、元の大きさに戻ったヒュンドラの会話を耳しながら、私は神聖衛士メシェディを撃ち壊す。
「神聖レナトゥスになってから、軍用兵器のA.I.はネットワークで繋がれ、超高度化したんですよ。ミズカさんの情報なんて、筒抜けです」
「知ってる。だからこの服出来たんだ俺は」
「無駄。左腕の生体チップで識別されますから」
私は建物の角から進路方向を確認する。墜落したルミエール政府軍の中型飛空艇が炎上している。その周辺では蛇のような形をした軍用兵器が、ぐるぐると動きながら浮かんでいる。地上にも四つの足を持つ獅子型の軍用兵器が闊歩している。
[ここを一歩も通してはならない! しっかり、見張れ!]
中型の人間型軍用兵器がハンドガンを手に辺りの軍用兵器を引き締めている(なんの意味があるんだ?)。機械のクセに黒地に紫色のラインが入ったローブを纏っている。
「あの指揮官、神聖戦術士アレスだったかな?」
「獅子は神聖獣士ウガルルムだよね? 今日死ぬかな?」
「ふむふむっ、神聖蛇士クサリク……かなっ?」
一生懸命、敵兵器の名前を調べているクローンたちをわき目に、私は突破方法を考えていた。いずれも、強力な上位兵器だ。連合政府時代には、部隊の幹部を任されていたほどの兵器があんなにも……。
獅子ウガルルムが2体。蛇士クサリクが2体。戦術士アレスが1体。そして、衛士メシェディが10体ほど。合計で15体も敵がいる。
「さて、どうしたものかな。強行突破も出来なくはないが……」
この先に外殻エリアから外周エリアに入れるゲートがある。私たちの目指す中枢エリアに入るためには、外周エリアの先――内周エリアに進む必要があった。つまり、この先で門番やってる上級軍用兵器を片付ける必要があった。
「……ここで待っていても援軍が現れるだけだ。進もう」
ブリュンヒルデは刀を手に、門番たちを睨んでいる。彼女の言うことにも一理はある。今は中型飛空艇が墜落して、門番の数が大幅に減っている。今がチャンスでもあった。
「そうだな」
私は意を決する。あまり戦いたくはないが……やむ得ない。私は合図を出す。受け取ったホノカとボルカが真っ先に飛び出す。
[敵を発見! かかれっ、殺せ!]
2体のウガルルムが機械の脚で地面を力強く蹴り、飛び出したボルカとホノカに嚙みつこうとする。その牙にはそれぞれの弱点属性である水と風が纏われていた。口奥には弱点属性を纏った魔法弾まで。
それでも2人はそのまま突っ込んでいく。彼女たちの身体が、大きな鋼の口に消えようとしたとき、2人の位置が入れ替わる。パトラーの移転魔法。
「おやおやっ? 私に風魔法は効きませんよ?」
「あなたの死、決定でーすっ!」
ホノカが炎を纏った剣を手に、風属性を装備したウガルルムの口内で火炎魔法を炸裂させる。黒地に紫色のラインが入った獅子型軍用兵器の頭部が木っ端みじんに弾け飛ぶ火の粉が上がる。
ボルカもホノカと同じように、水魔法に満ちるウガルルムの口に飛び込む。激しくほとばしる雷の槍を口奥に突っ込む。エネルギーを溜めていた軍用兵器は腹の中で暴走を起こし、雷鳴を轟かせながら爆散する。
そして、炎と雷の中からホノカとボルカがそれぞれ飛び出し、周辺を固める衛士メシェディたちに斬りかかる。
[隊長っ!]
[蛇士クサリク、かかれ!]
「させない!」
宙でぐるぐると動き出したクサリクの頭上に、私とパトラーが移転する。それぞれの剣で黒色をしたクサリクの頭部を斬り飛ばす。高速で動きながら魔法弾を飛ばす蛇型軍用兵器は、その特技を見せる前に地面に落ちた。
[隊ちょ――]
指示を仰ごうとした衛士メシェディの身体が、吸い込まれるようにして壁に叩き付けられる。ブリュンヒルデの重力魔法だろう。
私はハンドガンの銃口を向ける戦術士アレスの右腕を斬り飛ばす。斬られた腕は、火花を散らしながら石造りの地面を滑る。
トドメを刺そうとブリュンヒルデが、両手に刀を握り、飛び込んでくる。だが、そのときだった――。
[――ああ、君か]
「…………!?」
急に戦術士アレスが低く落ち着いた声を発する。
[私のような人工知能にとって、3年前という時間は記録的意味しか持たぬが、――懐かしいよ]
「は?」
「…………!」
ブリュンヒルデの側にいたミズカの表情が急に強張る。ミズカとボルカ、パトラーは増援として現れた衛士メシェディの相手で精いっぱいだ。こちらに気付いていない。
[君が来た日、私は覚えているよ。君は泣いていたね。その傷はもう――]
「余計なこと口を開くなクソ機械がぁッ!!」
「…………!?」
鬼ような形相をしたミズカは、青い傘でアレスを叩き飛ばす。一瞬にしてアレスは鋼で作られた建物に叩き付けられ、機能を停止させる。だが、男の声は止まらない。
[私は殺せない。私は無限だ。私はどこにでもいる]
「…………!?」
周りにいた衛士メシェディたちが一斉に動きを止める。声は全ての戦闘用ロボットから発せられていた。
[ミズカ、ボルカ、ホノカ。君たちは“失われた任務”を知っているハズだな?]
「クソッお前!」
「…………!」
「……おや」
衛士メシェディたちは一斉に持っていたアサルトライフルを捨て、背中に装備していたナイフも下ろす。彼らは武器を持っていない状態になる。
[また会えて嬉しいよ。……進むがいい。私たちは君たちを歓迎する]
男は歓迎の意を行動で表したのか、墜落した中型飛空艇のすぐ後ろにあるゲートのロックが解除され、鋼の扉はゆっくりと開き始める。同時に、衛士メシェディたちは一斉に自爆する。機械の破片が辺りに飛び散る。
私たちの進む道は開けた。だが、そこには楽観的な空気はなかった。ミズカの持つ青い傘は僅かに震えてた。それは、ボルカの持つ槍も、ホノカの握る剣も同じだった……。




