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私の命終わる日に ――終焉の女騎――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第5章 悪夢と悪夢 ――ウロボロス本部――
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第77話 お出迎え

 神聖レナトゥス。


 かつて、「ビリオン=レナトゥス」と名乗り、連合政府崩壊後、その力を受け継いだ。


 無限大ともされる鋼の兵器軍団を中心に、Fクローンの兵団をも有し、その軍事力は世界第三位。


 人類史上初の天空要塞を本拠地とし、固有の領土を持たぬ彼らは、まさに難攻不落。


 冷たい鋼の軍団に挑むのは、輝ける光のルミエール政府。


 そして、僅か数名の帝国軍人たちであった――。






































 暗雲が立ち込め、各所から黒煙を上げる鉄の要塞。その一角に青色の魔方陣が現れ、閃光が周辺にいたクローンたちの目を麻痺させる。電撃音が鳴り、光が消えていく。私は中腰姿勢から、そっと背筋を伸ばす。


「ここが――」

「そうです、ここが悪夢の根城――ウロボロス本部で御座います」


 私たちの前に、黒地に紫色のラインが入ったクローンが立っていた。彼女は今さっきまで戦っていたのか、その黒い装甲服は乾いていない血に濡れていた。


「私は神聖レナトゥス・『雷の兵団』少将コマンダー・ライジング。貴様らはヴァルハラ帝国のクローンであるとお見受けしました」

「雷だと? 不吉だな。俺に近寄るな」


 黒地に赤いラインが入る装甲服に身を包んだミズカが、笑みを浮かべるクローンに鋼の傘先を向ける。水のIクローンにとって、雷は弱点属性だ。

 そのとき、すぐ近くに砲弾か何かが落ち、轟音が鳴り響く。空気と地面が揺れる。続いてクローンの叫び声と銃声が耳に入る。


「おやおやっ? パーティーに遅れちゃったかなっ?」

「いえ、貴様らがご到着なさったのは絶好のタイミングであるかと思われます」

[……神聖レナトゥス軍とルミエール政府軍の戦いが始まって、すでに8時間近くが経過しています]

「戦況は?」


 私は通信を介してアレイシア城のコミットに問う。


[ルミエール政府軍がやや優勢です。神聖レナトゥス軍は防衛ラインを要塞付近まで下げ、ルミエール政府軍は第6兵団――レイチェル将軍の部隊と第7兵団――ヴィクター将軍の部隊が要塞の上陸しています]

「つまり、――」


 電撃を纏った槍を大きく振って数機の神聖衛士メシェディを弾き飛ばすボルカは、こんな状況下でも通信を聞いているようだった。


「――神聖レナトゥスは今日死ぬってことね?」

[そこまでは言えませんが、彼らが劣勢に立たされていることは間違いありません]


 上空で爆音が起こる。神聖レナトゥス軍の軍艦が中腹で割れ、炎と煙を上げながら高度下げ始める。そのすぐ横には炎と煙を上げながらも、飛び続けるルミエール政府軍の中型飛空艇。


「……行こう。案内を頼む」


 戦場に加わることを希望し、このオペレーション:ウロボロスを修正したクローン――ブリュンヒルデが私たちの前に進み出る。その手は、ライジングに差し伸べられていた。


「案内はオプション・サービスです。お1人様――」

「ああ、ちゃんと払うさ。――なぁ、ヴァルキュリア・ヒュンドラ」

「……その名で呼ばれたのは久しぶりで御座います」


 神聖レナトゥスのコマンダー・ライジング少将は、――いや、ヴァルハラ帝国のヴァルキュリア・ヒュンドラ中将は、懐から薔薇色に輝く魔法クリスタルを取り出す。移転用魔法クリスタルだ。

 ヒュンドラは、ヴァルハラ帝国の命令で神聖レナトゥスに諜報員として潜り込んでいた。話によると、コマンダー・ライジングを殺し、すり替わったらしい。同じFクリーンだからこそ出来る芸当だ。


「疑問。どうやってライジングと入れ替わった?」


 私たちは戦場となっているウロボロス本部の市街地を駆ける。あちこちで神聖衛士メシェディとルミエール政府軍のクローン兵たちが戦っている。戦車やガンシップといった軍用兵器も無数に転がっている。


「私たちの左腕の中には“生きた”識別コード・チップがあるハズだ。姿かたちではバレなくても、識別コードを調べられたら……」

「回答。俺はライジングの左腕を切り取って、自分の左腕と取り換えたのでございます」


 ヒュンドラはミズカの口調をマネて答える。

 クローンの左腕の中には生体識別チップがある。クローンの入れ替わりを防止するためだ。クローン同士なら、その生体チップを感じ取り、誰なのか見分けることが出来るらしい。


「えっ、じゃぁ、自分の腕切ったのですか?」


 パトラーがぎょっとした表情で言う。


「肯定。その方が都合がよかったのです。そして、ライジングの腕を斬り、自らの肩につなぎ合わせたのです」

「まぁ大変な苦労人ですねーっ! どこかの皇帝にはマネできないでしょうねーっ!」


 ホノカがチラリとブリュンヒルデを見る。確かに彼女には出来ないだろうな。いくら敵とはいえ、同族のクローンから腕を奪うことなど絶対にしないだろう。


「でも、その機械の腕だと困りますよね? 本当に大丈夫ですか?」

「…………」


 ボルカの心配にブリュンヒルデは無言で返す。

 実はクローンは、身体の一部を他人の身体で補える。例えば右腕を斬られても、すぐに回復魔法を当てながら接合すれば元通りになる。それに使うのは、自分のじゃなくてもよかった。つまり、他人の右腕でもFクローンのなら接合できた。


「……俺が取ってこようか?」

「いい……」


 ブリュンヒルデはミズカが指差していたクローンの死体を目にしながら拒否する。神聖レナトゥスのクローン兵の死体が道端に倒れていた。


「あっ、ご覧ください! 我が国の誇る軍用兵器が貴様らをお出迎えです!」

「…………!」


 灰色の空から女性型の軍用兵器が飛んでくる。その手には灰色の杖。――神聖守護士ティアマットだったか? 以前見た資料にそんなのがいた気がする。

 全身ほぼ灰色のティアマットは、同じ色のアイ・ガードで覆われた目で私たちを捉える。動かぬ口が笑った気がした。


「ティアマットは対戦闘機用の軍用兵器だぞ……!」

「余裕。俺に任せろ」


 ミズカが勝手に飛び出す。彼女は空中を蹴りながら、勢いよくティアマットに向かう。迫られる女性型軍用兵器は杖を天に上げ、8つの魔法弾を出現させる。


「…………!」

「ちょっと、今日死にますよっ!?」

「おやっ?」


 8つの魔法弾にはいずれも強力な電撃が纏われていた。意気揚々と攻撃に出たミズカの動きが止まる。青い傘を広げ、防御の態勢を取る。

 閃光輝く魔法弾群は、一斉に電気の尾を引きながらミズカを襲う。激しい電撃音が鳴り響き、黒い装甲服を纏った彼女の身体がコンクリートの地面に倒れる。


「ミズカ……!」


 ブリュンヒルデは赤色のマントを脱ぎ捨てながら、ミズカの元へと走って行く。背中に背負った二振りの刀を引き抜き、電撃を纏った杖を弾き飛ばす。杖はミズカの心臓を潰すことなく、建物に突っ込む。

 武器を失ったティアマットは空中を舞いながら、破壊魔法を8つ作り出す。ブリュンヒルデはミズカを連れて重力魔法でこっちに戻ってくる。


「ああいう大きいのはお前の得意分野だったな」

「よく分かってるじゃないですか、貴様は――」

「えっ!?」


 パトラーが困惑しながらヒュンドラを“見上げて”いる。ホノカやボルカは退屈そうな顔をしていた。私は見るのは初めてだが、ウワサには聞いていた。


「貴様のお出迎えは不要だとのことで御座います!」


 勢いよく繰り出されたヒュンドラの拳が、ティアマットの巨体を叩き飛ばす。砕けた灰色の外装から配線やチップ盤がむき出しになった軍用兵器は、崩れかかった建物に突っ込んで姿を消す。建物から轟音と炎が上がり、崩れていく。


「これで、不要な出迎え者はいなくなりました。これで貴様らも進めますね」


 ティアマットという大型軍用兵器とほぼ同等の大きさをしたヒュンドラが、私たちを見下ろしながら言う。


「これが『巨大化』のヴァルキュリアか……」


 私はバスターソードを戻しながら呟く。ヴァルキュリア・ヒュンドラ。彼女の能力は『巨大化』だった。能力の詳細は……そのままだ。

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