第46話 エンドレス・クリスタルを知らないか?
「――ちょっと、お尋ねしたい」
「…………ッ?」
全身黒装束の男が私に手を差し伸べながら言う。っていうか、ここはどこだ? こいつは誰だ? 傭兵か何かか?
「だ、誰だ……?」
「なに。簡単なことだ。――エンドレス・クリスタルを知らないか?」
「…………!」
エンドレス・クリスタルだと!? ズキズキと痛む私の頭に、エンドレス・クリスタルという言葉が突き刺さる。だが、それはもう私たちの手にはない。ルミエール政府が強奪していった。
「そうか。ルミエール政府が……。主らも大変だったな」
「えっ……!?」
黒服の男はそう言い、漆黒のマントを翻して去っていく。だが、少し離れた所まで進んだかと思うと、再び私の方を向く。
「――『大神シュレラ』に代わって礼を言う。主の情報が世界に救済を与えるかも知れぬ」
「…………!」
灰色の雲に追われた空から、黒地に赤いラインが入った帆船型飛空艇がゆっくりと降りてくる。なんだ、アレ……!? 今までに見たことのない飛空艇だ。
帆船型飛空艇の甲板には、男と同じ黒装束の男たちが何百と姿を見せているのが見えた。彼らは槍を手にし、今にも戦闘を始めんばかりの殺気を放っていた。
「――議長、遅くなり申し訳ございません。コマンダー・ウォーター、コマンダー・リバー、コマンダー・レイン。ただ今参上しました」
黒地に紫色のラインが入った装甲を纏う3人のクローンが、男の前で膝をつき頭を垂れながら挨拶する。恐らく彼女は神聖レナトゥスの指揮官だろう。だが、あの男は……?
「あなたかしら? 移転魔法を強引にキャンセルしたのは」
「…………! フウカ!」
私のすぐ側にフウカが立つ。よく見れば、私たちの周りにはパトラーやアース、ミズカも倒れていた。3人とも気を失っているらしい。
そうだ、私たちは廃都の中央市街地からパトラーの移転魔法でアレイシアシティに戻ろうとした。だが、途中からの記憶がない。恐らくは移転魔法キャンセルによる衝撃で気を失ったんだろう。
「ああ、そうだ。主らに少しばかり聞きたいことがあってな。ちょっと止めただけよ」
男は穏やかな口調で言葉を返す。だが、私の心は真逆だった。普通、落ち着いた口調で話す人間に対して恐怖を抱くことは少ないだろう。ましてや、今の私のように本能的に危機を察知するようなことはあり得ない。
長年、戦いに身を投じた私の本能が察知している。この男は危険だと。彼はただの人間ではない。極めて危険な敵だと……!
ふと見ると、高度を落とした帆船型飛空艇から黒装束の男たちが次々と飛び降りて来ていた。彼らは最初に話しかけてきた男の後ろに並んでいく。
「これより、偽りの光を消し、『大神シュレラ』に捧げる神具を取り戻しにゆく」
「あら、お忙しそうね? 『女神のしもべ』からエンドレス・クリスタルを奪いに行くのかしら?」
「そういうことだ。もはや主らに用はない」
「ふふっ、同じ言葉は“あの子”にもかけたのかしら? 1年半前あなたたちに挑み敗れた“あの子”にも……」
「裁きは神の役目。我らは再臨に必要なことだけをするのみ」
「そう……」
フウカは漆黒の装束を纏う男と声を掛け合うと、彼に背を向けて私の側にまで戻ってくる。一方、男もまた私たちに背を向け、無数の男たちと共に去っていく。3人のクローンたちも続く。
「だ、誰だあの男……」
「……ふふっ、とってもマジメで仕事熱心な――愚か者よ」
「…………?」
「さて、パトラーちゃんを起こさなきゃね」
フウカはまだ気を失っているパトラーに青色の魔法弾を当てる。恐らく魔法発生装置による回復魔法だろう。パトラーはゆっくりと目を開ける。
「あ、あれ、ここは?」
「まだあなたの故郷よ。もう一回、移転魔法をお願いできるかしら?」
「…………!」
パトラーは目を見開き、立ち上がる。彼女が見ているモノは私も目にしていた。――ルミエール政府最強の飛空艇プルディシアに向かっていく何十隻もの軍艦。そして、帆船型飛空艇の艦隊。神聖レナトゥスの軍勢は、ソフィア筆頭将軍の乗艦する超大型飛空艇プルディシアを奪い取ろうと激戦を繰り広げていた。
「ルミエール政府は、今度は神聖レナトゥスの間で戦争してるみたいね。関わる人みんな大っ嫌いの思春期かしら? ふふふっ」
「…………。アレ、エンドレス・クリスタルを巡って争っているんですよね? エンドレス・クリスタルって何なんですか……?」
「……アレイシアシティでまた話して上げるわ。そろそろ帰りましょう?」
「わ、分かりました……」
パトラーはそう答えると、再び魔法陣を精製する。私とフウカは未だに気絶しているアースとミズカを魔法陣に乗せる。
「では行きます……!」
「…………」
私はもう一度後ろを振り返る。ルミエール政府にとって、神聖レナトゥスの攻撃は予想外だったのか、徐々に押され始めている。黒い軍艦の艦隊が、プルディシアに到達しつつある。このままだと、本当にプルディシアとエンドレス・クリスタルは奪われてしまうかも知れないな……。




