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五十五話目 上級冒険者になった

55.


 翌朝、きちんとマリア師匠の店の自分が宿泊している部屋のベッドで目覚める事が出来たけど、完全に二日酔いってやつだと思う。


「頭が痛い。世界が回ってる」


 フラフラと浴室に行きシャワーに似た魔道具でお湯を浴びる。

 寝惚けていたのと二日酔いのせいで頭が回らなくて、ノワールの指輪を着けっ放しで全裸になってしまったのでノワールが大興奮している。

 どうせノワールには馬並みの大きいのがついてるはずなのに「主様の大事な部分を見た」と大合唱だ。

 負けじとフランが「フランはいつも見てるにゃ」とか言い始めた。

 そうだったのか。まあいいや。


「ノワールは俺より立派なモノがついてるんじゃないの?」

「何言ってるのよぅ。私は乙女だって言ったじゃないのよぅ」

「ん? 心は乙女って事じゃないの?」

「違うわよぅ。心も身体も乙女なのよぅ」

「意外だ。てっきり牡馬かセン馬だと思ってたよ」

「失礼しちゃうわ、きぃーっ」

「だって話し方が完全にオカマなんだもの」

「オカマにゃ」

「フランまで、しどいのよぅ」

「あはは」「にゃはは」


 お湯も浴びたし笑って目が覚めたので、下に降りて食事にしよう。

 時間を確認すると午前九時。少し寝過ぎたかな。


 食堂で食事中に二階からユージンが階段を下りてきた。

 隣には昨晩の街エルフのお姉さんが居て、肩を抱いている。

 マジか。

 お泊りなのですか? 凄いなアイツ。

 ユージンと目が合った。

 お互いに軽く手を上げる。

 ユージンは街エルフのお姉さんの肩を抱いたまま俺の座る食卓に向かって来た。

 そして同じ食卓の向かいに二人で座る。


「おはよ」

「おす」


 街エルフのお姉さんからは挨拶が無い。

 本当は少し気になるけど、まあいいか。


「今日からこいつと一緒に行動する事にしたからさ。アルムは俺の面倒を見てくれなくても良いぜ」

「お、おう」

「借金は金が出来次第すぐに返すし、迷宮探索もアルムに追い付けたら一緒にして欲しいと思ってる。でも、一から十までアルムを煩わせるのも悪いじゃん?」


 俺は別に構わないけど、ユージンがそう言うのならそれで良いか。

 彼を尊重しよう。


「わかったよ。まあ、俺に追い付く事は出来ないだろうがな」

「くっそー、絶対追い付いてやんからな」


 二人して笑い合うも、街エルフのお姉さんのテンションは低めだ。

 目が合ったけど思いっきり逸らされた。

 何? 恥ずかしいの? それとも嫌われちゃってる訳? まあ、いいか。

 食事も終わったし、螺旋迷宮に行こうかな。


「じゃあ、俺はそろそろ行くね」

「おう、なんかあったら携帯に連絡くれよ」

「了解、じゃあまた」


 ユージンに手を振り、街エルフのお姉さんにも会釈だけしておく。

 街エルフのお姉さんは無視していたけど、ユージンに頭を下げさせられていた。


 宿を出て螺旋迷宮に向かう。

 折角ぼっちじゃなくなったと思ったのに残念だなと思いつつ、中級階層(十一階層から二十階層)の攻略を始めた。

 中級階層は初級階層と違って迷路がかなり入り組んでいるから、一階層ごとに半日以上はかかる。

 だから一日一階層を目標にして、制覇した後はマリア師匠に指導をして貰っている。

 闘気を使った闘法という側面では才能は普通なので、代わりに魔力を闘気の様に使って補っているから独特ではあるけど、闘神流闘法を少しずつ会得している。

 中級階層を一日一階層順当に制覇してるけど、こっちの世界にずっといる訳にもいかないので、ある程度の日が経ったら地球に戻る。


 そんな感じで誕生世界と地球世界の行き来を繰り返す中、二つの大きな出来事があった。

 ぼっちの俺の事を考えればイベントとなると誕生世界での出来事だと誰もが思うだろうけど、意外な事に両方とも地球での出来事だった。

 一つは独り暮らしデビューをした事だ。

 父さんが九州に転勤で母さんは付いて行く事になったけど、大学のある俺は関東に残った。

 元々家は借家だったので契約を解除、俺は家賃の安いボロアパートに引っ越す事になった。

 ボロアパートは大学に近い。

 だから大学最寄りの駅に寄らないで真っ直ぐに安アパートに帰る。

 つまりは深川侑生さんと偶然では会えなくなっちゃうんだよね。

 だから俺は思い切って彼女を駅で待ち伏せ、その事を告げたんだ。

 すると彼女は待ち伏せした俺を気持ち悪がることも無く、携帯の電話番号を教えてくれた。


「話したい時は電話して。私からも電話するから」


 これが二つ目の出来事なんだけど、俺にとっては奇跡に近い出来事で、その日から日々の生活にハリが増した。

 最初の頃は侑生さんに電話するのにいちいち勇気が必要だったし未だに緊張するけど、今では普通に話せるようになったと思う。

 だけど、地球世界での俺は同年代の女性は侑生さんとしか普通に話せない。

 コンビニでレジのお姉さんが同年代だったりすると、緊張でしどろもどろになってしまう。

 それでも、侑生さんと話せる様になる前の俺と比べたら、少しはマシになってきてる気もする。

 そうだ、同年代の女性と言えば、桜井優人の彼女みたいな化粧の濃いギャルは凄く苦手だ。

 ユージン、地球世界の桜井優人とは大学でよく話す様になったんだけど、俺が彼と仲良く話すのが面白くないのか、彼女は俺の顔を見る度に不機嫌そうにする。

 まあ、桜井優人が彼女を無視して俺と話すようにしているのが問題な気もするけど、優人に言っても彼の態度が変わる事はない。

 少しは、いや、かなり気にはなるけど、気にしないようにしている。


 そして一人暮らしをする事になったお陰で、誕生世界に居られる時間が延びた。

 飯や風呂は自分のペースで出来るから、大学の時間さえ気を付ければ相当いい感じで誕生世界に入り浸れる。

 ただ、余りにも食事をしていないと地球の肉体が餓死してしまうので、ある程度の時間が経過すると例の声で警告される。

 警告されたら地球に戻って飯を食べる様にしているけど、そのまま無視したらどうなるんだろ? 餓死しちゃうのかな? 試す気にはなれない。


 ともかく、順調に螺旋迷宮の攻略も進んでいる。

 相変わらず単独(ぼっち)活動ってところだけは難点だけど、フリオさんが攻略出来ないでいる二十階層の出口前の敵も撃破した。

 単独制覇最難関と言われる二十階層、それは出口前の敵が自分自身の分身であるのが原因なんだけど、実は意外と簡単な攻略方法があった。

 それは二十階層で入手できる技術向上転写本だ。

 出口前の敵は分身なだけあって確かに自分と同じ能力を持っているんだけど、それは出口前の部屋に入った時の自分と同じ力なだけであって、出口前の部屋で自分が強くなった場合にはそれに追い付けない。

 技術向上転写本を使用すれば、それだけで強さは大分上がる。

 前に使った時も十分に自覚できたけど、二十階層の出口前の敵と戦った時は読む前の自分が目の前に敵としているから、自分の強さがどれだけ上がったか更に自覚する事が出来た。

 その事をフリオさんに報告したら、予想はついていたけど技術向上転写本は使ってしまったらしい。

 でも、出口前の敵の部屋で強くなる事が出来れば単独でもなんとかなると、目処が出来て嬉しいと感謝された。

 ただ、抜かれるとは分かっていたけど、こんなに早く上級に駆け上がるとは思わなかったぜと言われた。

 確かに俺は螺旋迷宮で一度も死ぬ事も躓く事も無く順調に突き進んでいる。

 俺とは逆にユージンは何度か迷宮で死を経験したそうだ。

 初級階層ですでに苦労したらしく、俺が一日で初級階層を制覇したと誰かから聞いたのか「やっぱりお前はチートだ」と言われた。


 以前、フリオさんが迷宮は一日で大丈夫みたいな事を教えてくれたけど、上級階層からは一階層を一日で制覇するのは難しくなっている。

 初級階層は勿論の事、中級階層も遥かに凌駕する広大な迷路である事に加え、罠の数が半端ない。

 その罠は単純にこちらを傷つけるような物だけでは無く、方向感覚や距離感覚、時間の感覚すら狂わす厄介な代物が有り、マッピングもなかなか捗らない。

 だけど、ところどころに安全地帯があり、そこで睡眠をとったり休憩できる。

 そうやって何日か掛けて制覇していくのだけど、訪問者には厳しいスケジュールになると思う。

 寝袋に入っている地球世界での肉体の生命維持の為のエネルギー摂取が最低でも地球時間で二日に一回は必要になるから、誕生世界滞在日数は最高で二十日。

 その間しか迷宮探索出来ないからだ。

 まあ今のところ、そんなに日数は掛かってないけど、もしかしたらそのうち挫折するかもしれない。

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