五十六話目 肉集会が始まる前に
56.
上級階層では挫折するかもしれない、そんな風に思っていた時もありました。
でも、意外な事に挫折もせずに上級階層を二十八階層まで制覇してしまった。
今日からフリオさんが夢見ていた二十九階層に挑戦だ。
ここを制覇したら肉を手土産にフリオさん宅に遊びに行くんだ俺。
いや、なんか変なフラグっぽくなっちゃったね。
一抹の不安が過ぎる。
でも無事に、二十九階層も出口前の部屋まで来てしまった。
ただ、楽では無かった。
雑魚敵は結構な数の種類の肉が取れる敵で、それぞれに攻略パターンはあるけど必ずしもそれが上手く行く訳でもないし、三日間も迷宮内で過ごし戦い続けていると集中力も続かない。
何度かつまらないミスでヒヤッとする場面もあった。
それでも意外となんとかやっている自分に、強くなったのかもしれないと少し自信を持つ。
さて、それじゃあもうひと踏ん張りだから気合を入れて行きましょうかね。
「え? 大き過ぎない?」
上級階層は初級や中級階層と違って、出口前の敵は一体しかいないんだけど大きさが半端ない。
大級、巨級とか言われる等級の敵で、当たり前だけど雑魚と比べたら強さは半端ない。
因みに、このクラスの敵が更に成長すると王級、果ては帝級にまでなるのだそうだ。
神級の冒険者が居る様に、神級の敵も居るそうだけど、一体どんな化け物なんだろう?
でも、今の俺から見たら目の前の巨大な牛も十分に化け物に見える。
雑魚敵の牛三頭分よりも一回り大きい。
取り敢えず、近付かれる前に鉄球と棘付鉄球を続けて投げる。
見事に命中して身体に減り込み血が噴出すけど、巨大牛は特に気にする様子も無く、俺の事を殺る気満々だ。
「ブモーッ」
咆哮しながら血走った目で俺に突進してくる。
その様は大迫力で、恐怖の余りついつい魔力防御壁を何枚も設置してしまった。
でも巨大牛は魔力防御壁を一枚も突破できないみたいだ。
力はあるけど、闘気や魔力を使えないタイプなのかな? 魔力防御壁の頑強さに安堵し、落ち着いてきた俺は巨大牛を見つめる。
魔力防御壁に激突しては反ね返され、再度突進する巨大牛。
鉄球が減り込んだ所から血を流しながら、俺に向かって何度も突進を繰り返す闘争心溢れる姿は格好良いとすら思える。
だけど、敵だ。
命の遣り取り。
相手が殺す気なら、殺される前に殺す。
魔力の腕で魔力防御壁を殴り飛ばす。
凄まじい勢いでそれは当たり、不意のダメージに怯む巨大牛。
ダッシュして間合いを一気に詰めてジャンプし巨大牛の頭を魔力の腕でひたすらに殴り続ける。
「……ふぅ」
巨大牛は説明したくない程に無残な姿になった後に、光の粒子となり消えた。
アイテムウインドウを確認すると名前だけで美味しそうに感じる肉のオンパレードで、涎が出て来る。
そして出現した宝箱を開けてみる。
「マジか」
中にはアレやアレをする為の道具にしか見えない物があった。
収納してアイテムウインドウで確認してみたら、やっぱりだった。
「バーベキューセットと焼肉セットって、どっちがどっちかよくわかんないな」
まあ、アイテムウインドウで確認しながら取り出せば問題無いよね。
しかし、こんな物が手に入ったって事はあれだよね。
使えって事でしょう? 地球でなら無理でも誕生世界でならバーベーキューを一緒にやってくれる人は居るって事を証明してやるぜ!
ああ、なんだか変なテンションになってきてしまった。
長らく迷宮内に居たせいだ。
きっとそうに違いない。
よし、久し振りに地上に戻ろう。
地上に戻った俺は一先ずマリア師匠に会いに行く。
とある打ち合わせをした後に、肉屋に行ってカンデラさんに用件を話してフリオさんへの伝言も頼む。
その後は神殿に行ってミゲールさんに用件を話し、石棺に入ると個人空間、安アパートへと戻りシャワーを浴びる。
シャワーを浴びた後は適当に飯を食べて栄養補給。
地球の身体のケアは大事だからね。
逆に、誕生世界での俺の一つ目の身体であるタンミノの身体のケアは要らないのかな? と思ってバリーに聞いたんだけど、石棺の中で時が止まった状態で保存されているから大丈夫なのだそうだ。
とんでもない奇跡の技だなと思ったら、石棺も神様が造った物なんだそうだ。
それならなんとなく納得だね。
後はジョーさんと優人に電話して、と。
さて、やる事は終わったし明日は大学も休みだから、速攻で誕生世界へとリターンしよう。
誕生世界に戻ると時間は午後三時。
中途半端な時間だけど、大丈夫かな? 急いで衛兵の詰所に向かいルイスさんに用件を伝える。
武器屋のハミトさんとハリルさんにも用件を伝えて、後はアントニオかあ。
見付かるかな? 先ずは冒険者ギルドに行こう。
すると運良くアントニオが見つかった。
なんだか久し振りだな。
「アントニオ!」
「おう、アルムじゃないか! なんだか、久し振りだな!」
「うん。久し振り! 実は今晩マリア師匠の店でバーベキューパーティーをするんだけど、アントニオも良かったら来てくれないかな? 二十九階層を制覇して肉が沢山手に入ったから、お世話になった皆さんに肉を振る舞おうと思ってさ」
「いや、お世話ってむしろ俺の方が世話になってるじゃねえか?」
「アントニオは友達だろ? パーティーやるなら呼ぶに決まってるよ」
「全くお前って奴は本当に格好良いな! よし、アルムに恥をかかせない手土産を持って参加させて貰うぜ!」
流石、アントニオ。
お前の方がよっぽど男前だよ。
まあ、恥ずかしいから言わないけどね。
「そうそう、それと良かったらアントニオの仲間も連れてきてよ」
「おう、あいつらも連れて行って良いのか。こりゃ半端な手土産じゃ駄目だな」
「アントニオが来てくれたら手土産はなんでもいいよ。いらないとは言わないけどね」
アントニオと俺は互いに笑い合う。
まさか、ぼっちの俺がこんな事をする日が来るなんて……いや、感動してる場合じゃない。
バーベキューパーティーを成功させないとね。
決意も新たにバーベキューパーティーの準備をする為にギルドを出ようとしたら乗合馬車で一緒になった事のある上級冒険者のエンシーナ兄妹と遭遇した。
これも何かの縁だと思い、バーベキューパーティーに誘ってみると自分達が行っても大丈夫だろうかと心配するので、誕生世界で知り合った人は皆を誘ってるんですと言ったら、お兄さんの方が手土産に悩むなあと言いながらも了承してくれた。
そうだ、忙しいかもしれないけどギルドマスターも誘ってみようかな。
ギルド職員に言伝てを頼んでみた。
まあ、スケジュール的に厳しそうだから無理かもしれないな。
よし、今度こそ準備をしにマリア師匠の店に戻ろうと思った俺の手を掴む大人より少し小さな手があった。
その手の持ち主を確認すると……えっと、確かこの子は怖がり屋さんのクーロ・フォワ少年。
学園冒険者の一人だ。
どうしてギルドに居るんだろう? それよりも、俺に何の用だろう?
「あの? どうしたのかな?」
「お肉」
「え?」
「お肉食べたい」
「そうか。じゃあ一緒においで」
この子は、商家の三男坊で末っ子だから甘えん坊気質なんだよな。
甘えん坊のうえに食いしん坊か。やるな。
学園冒険者だけど、この性格だし一人だしフリオさんと揉める事もないよね。
確か地球で言えば中学生ぐらいの年齢だったと思うんだけどな。
クーロ少年は嬉しそうに俺と手を繋いで歩いている。
「クーロ、狡いよ!」
少しすると後ろから甲高い女の子の声が聞こえた。
声の主を確認すると学園冒険者の一人、螺旋迷宮で俺に助けを求めた垂れ目のミレイア・ヒメネス少女が、走って追い掛けて来たのかもしれない。
息切れを起こした呼吸を整えながらフォワ少年を睨んでいる。
「ミレイアもお肉食べたいの? ねえねえ良い?」
クーロ少年が俺に聞いてくる。
勿論答えは是だ。
「勿論、良いですよ。ミレイア・ヒメネス様も一緒に肉を食べましょう」
「ミレイアとお呼び下さい」
「分かりました。ミレイア様」
「いえ、ミレイアとお呼び下さい。それと、冒険者として会っている時は私に敬語はお辞め下さい。アルム様は上級冒険者なのです」
この子は貴族の子らしいから、様付けで呼んだんだけど、お気に召さなかったようだ。
冒険者として接して欲しいみたいだな。
「分かったよ。ミレイア」
そう言うと、パッと明るい顔になったと思ったら、俺の空いている方の手を掴んでクーロと同じ様に一緒に歩き出す。
「ねえねえ、僕はクーロだよ」
「分かってるよ、クーロ」
なんだか年の離れた弟や妹の面倒を見るお兄さんの気分だ。
ん? まあそれもなんだか悪くないかもしれない。




