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五十四話目 パメラ

54.


 ユージンが軽やかにステップを踏む。

 先ずは様子見って感じでジャブで来るだろうなと思っていたけど、最初から全開の右ストレートだった。

 渾身の一撃なんじゃないかな? 凄まじい速度の右ストレートが顔面に向かって来る。

 ただ、魔力は纏わせていないし、恐らく闘気も練り込んでないうえに軌道がバレバレのテレフォンパンチってやつだ。

 むしろ舐めてるのかな? 単純に肉体の力だけで繰り出した右ストレートが俺に当たるはずがない。

 半自動防御に頼る事も無くパンチの軌道上に魔力防御壁を設置する。

 ユージンは風魔法は使えても、まだ魔力に慣れてないから魔力防御壁を見る事が出来ないかもしれない。

 それに繰り出した渾身の右ストレートを途中で止める事も出来ないはずだ。

 案の定、ユージンの拳は魔力防御壁に反ね返される。

 そこで生じる隙、俺はユージンと同じ様に右ストレートを放つ。

 クリーンヒットし気を失うユージン。


「もう一回、もう一回だ」


 意識を取り戻したユージンは開口一番でそう言った。

 彼の希望に応えるように不死闘技台に行き手招きしてみる。

 ユージンは立ち上がるとニヤリと不敵な顔をして、俺に向かってきた。


 何度向かってきただろう? 何回も何回もユージンは俺に挑んできた。

 魔法を使い、武器を使い、闘気を使い、知恵を使い様々な戦い方で挑んでくる。


 だけど、その全てに俺は勝った。


「お前マジ、チートだわ」


 さすがに疲労で立つ事も出来なくなってしまったのか、寝転んだままユージンはそう言う。

 でも考えてみたら、最適化するか二回聞かれてるから俺って最低でもレベル二十なんだよね。

 ユージンはどんなに高くても一桁だろう。

 勝てる要素は少ない。

 その事を説明すると、早く言えとだけ言われた。

 機嫌はそう悪くなさそうだ。


 その後、暫く休憩して石棺を案内し、ミゲールさんに挨拶を済ませて帰ろうとしたら神殿の入口、門の近くで純血エルフとすれ違った。

 金髪碧眼のスラッとした美人だが、身体のメリハリは余り無い。

 森エルフか。


「なんですってー!? ちょっと待ちなさいよ!」


 森エルフが顔を真っ赤にして俺に詰め寄ってきた。

 どうしたんだろう?


「えっと、なんですか?」

「あんた私の事を森エルフって言ったわよね?」


 どうやら森エルフの部分が聞かれていたらしい。

 と言うか、俺の心の声ダダ漏れですね。


「違いましたか? それなら失礼しました」

「なんなの? 森エルフと間違えておいて、そんなに軽い謝罪なの? 一体どういうつもり? 大体、あんた! 私の何処を見て森エルフって思ったのよ!?」


 うん。なんだろう? 最近、良い事ばかりで調子に乗っていたのかな? これって天罰? もしかして知の神様に祈ってないのが原因かな? でも祈ったらレベルが上がったりしちゃうかもしれないし……


「ちょっと! なに、人の事を無視してくれちゃってんのよ!?」

「まあまあ」


 見かねたのか、ユージンが間に入ってくれた。

 ユージンは、こういうところ男前だよね。


「なによ!? あんた、こいつの肩を持つって言うの!?」

「いや、そもそもなんであんたそんな怒ってんの?」

「だって、こいつは私の事を森エルフって言ったのよ。私は街エルフなのに。身体にメリハリが無い街エルフだっているのよ!」


 森エルフのお姉さん、改め街エルフのお姉さんの口調は激しくて、今にも俺に飛び掛かって来そうな勢いだ。

 マジ怖いんですけど。

 すると、ユージンは街エルフのお姉さんの方にゆっくりと近付いていく。

 ユージンに妙な迫力でもあるのか、街エルフのお姉さんは少しずつ後退りしていく。

 とうとう街エルフのお姉さんは神殿の敷地をを囲う壁に背中を預けてしまう。


 ドン


 ユージンが街エルフのお姉さんの近くの壁に手の平を突いた。

 ビクリと震える街エルフのお姉さん。

 だけど毅然にも声を震わせながらだが「何よ」とユージンの顔を見て言い放つ。


 ドン


 するとユージンは手の平だけでなく肘も壁につく。

 近付く二人の顔。ユージンが街エルフのお姉さんに耳元で何かを言った。

 街エルフのお姉さんは顔を赤らめユージンを見つめる。

 ユージンはまた耳元で何かを言う。

 街エルフのお姉さんは潤んだ瞳でユージンを見つめている。

 ユージンは優しく街エルフのお姉さんを抱き締める。


 って、おい。どういう展開なんですかこれ? 誰か教えてくれ。


 抱き締められ、気持ち良さそうに目を瞑っていた街エルフのお姉さんがゆっくりと目を開ける。

 俺と目が合ってしまった。

 街エルフのお姉さんは顔を更に赤らめ、少し乱れたのか着衣をただし、神殿へと向かって行った。


「なんだよ。ああいう時は気を利かして姿を消してくれよ」

「え? そうなの?」

「なんだよ。アルムは童貞か?」

「え? え? なにそれ? 関係あるの?」

「やっぱり童貞か。童貞なら仕方ない。次から気をつけろよな」

「お、おう」


 指輪状態のノワールがカチカチと音を立てている。笑ってやがるな畜生。

 まあいいや、すっかり暗くなってきた。

 取り敢えず、腹も減ったし晩飯にしたい。


「飯はマリア師匠のとこで食べる?」

「ああ。いや、俺はここで今の女を待つからさ。飯喰ってきて良いよ」

「お、おう」


 これが肉食系ってやつなんですか? でもさっきの街エルフのお姉さんが直ぐに戻ってくるとは限らないのでは? と思って聞いたら、どうせ直ぐに戻ってくると言われた。

 凄い自信ですね。俺には到底無理だ。


 ユージンと別れ、マリア師匠の店に向かう。

 神殿からマリア師匠の店に行くのって、あの拉致された事件を思い出しちゃうんだよな。


「ちょっと、お兄さん。私と遊んでかない?」


 そうそう、あんな感じのお姉さんに……って、おい。

 まんま、こないだのお姉さんじゃないか。

 探してるときは見つからなくて会わなくていい時は現れるなんて素敵ね。

 って、素敵な訳あるかあ。


「はぁはぁ」


 一人ボケ一人ツッコミをしていたら息切れしてしまった。

 おかしいな、そんな軟弱な身体じゃ無いんだけどね。


「あ、お兄さん。いつぞやの」

「はい。いつぞやはお世話になりましたね。また誰か誘拐でもするんですか?」


 サラッと嫌味を言ってやる。

 アルムの身体でなら女性に対して強気に出られる時もあるんだ。

 まあ、強気に出られる関係性だよね。

 でも、それを利用するってのもどうなんだろう? なんだか、恥ずかしくなってきたな。


「そんなに根に持たないでおくれよ。それに今日は純粋に商売さ。そうだ、お兄さん。お詫びにたっぷり奉仕してあげるからさ。どうだい? 遊ばないかい?」

「すみませんが結構です」


 だいたい俺には侑生さんという心に決めた人が……って、あれ? え? そうなのか? 俺って侑生さんの事が好きなのか? 自分の気持ちに気付いて吃驚してしまった。


「なんだか、今日は前と違うねえ。好きな人でも出来たのかい?」

「え? どうして分かるんですか?」

「イイ女には男の事なんて簡単に分かるもんなのさ」

「まあ、確かにお姉さんは美人ですよね」

「パメラ」

「え?」

「私の名前さ。お姉さんじゃなくてパメラ。覚えておくれよ?」

「はい。パメラさんですね」


 その後、なんだか知らないけどパメラさんと晩飯を一緒に食べる事になった。

 俺は自分が初めて恋をしているかもしれない事や侑生さんがどれだけ素晴らしい女性かを、初めて誰かにそんな話をする事へのテンションの高さや、空きっ腹に酒を飲みながらの勢いもあって食事も程々にパメラさんとずっと喋っていた。

 食事が終わり会計の時に、ユージンに金を貸していて自分が文無しだった事を思い出し冷や汗を掻いたけど、パメラさんが代わりに払ってくれた。


「商売女に奢らせるなんて、ないわよね? これは貸しよ?」

「はひ、わかりました。明日、必ず返しますのでマリア師匠の店に来てください」

「今度会った時に返してくれれば良いわよ。これはその手付けね」


 そう言って俺の頬にキスをした。


「ななな、何をしてるんでしゅか?」

「ふふふ。純情坊やにキスしちゃったわ。お金を返す時には利子付きでお願いね。じゃないと今度は口にキスしちゃうわよ」

「利子付きって、じゃあ今度会った時じゃなくて明日返しますよお」

「残念だけど、もう遅いわ。またね、お兄さん」


 そう言って、パメラさんは裏通りに消えてしまった。

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