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五十三話目 武器屋ハリル

53.


 朝食後、螺旋迷宮の早期完全制覇を目標にしたユージンはマリア師匠の勧めもあり、午前中は無手風神流闘法の使い手であるエレナ達から、その技を学ぶ事になった。

 その様子をのんびりと見ながら、俺は俺で自身の技を磨く。

 昼になるまで頑張ったユージンは、まだまだ完璧ではないけど、無手風神流闘法にボクシングを上手く融合させた感じになってきたと言っていた。

 また、簡単なものだけど闘気に関しても学んだようだ。


 お腹が空いてきた頃、昼食にする。

 昼食が済んだら、早速冒険者ギルドに行って登録だ。

 付き添いは俺だけでも良かったんだけど、マリア師匠が当然の様な顔をして付いて来ている。

 これは例のあれをするに違いない。

 案の定、俺の時と同じ様にマリア師匠が冒険者連中を煽り、煽れた冒険者がユージンと戦う事になった。

 全勝とまではいかなかったけど、多く勝ち越したユージンは自信を深め、マリア師匠からもお墨付きを貰い上機嫌だ。


 そして、次にユージンがした事は俺に借金を申し込む事だった。

 素晴らしくスムーズな土下座を見せて貰った。

 リーズンゴブリン並みの素晴らしい土下座だ。

 返せない可能性もあるから気軽に貸せる金額で良いけど、少しでも良いから貸してくれと頭を下げるユージンに対しギルドに預けてある金以外、手持ちの金は全部貸す。

 そして最後に、出来るなら知っている武器屋を紹介してくれと言われる。

 なるほど、そういうことか。

 迷宮に潜る時用の武器防具を購入する際の軍資金は多い方が良い。

 それならと、唯一知っているハミトさんの武器屋にユージンを連れて行く事にする。


「こんにちは!」

「よく来たな」


 ハミトさんの店に行くと、何故だか分からないけど満面の笑みで俺を迎えてくれた。

 こないだと随分違う明るい表情に吃驚だ。

 まだ告げていなかった名前を教えると、やはりそうかと一人納得して俺に説明してくれた。

 簡単に言えば、ハミトさんの息子であるハリルさんが改心したらしい。

 それだけじゃ分からないので更に詳しく聞いてみたら、マリア師匠が潰した裏組織の連中がハリルさんを騙して脅し、訪問者詐欺の片棒を担がせていたそうだ。

 とてつもなく高い値段で武器を売らせていたらしい。

 裏組織が潰れてハリルさんは脅されなくなり、訪問者詐欺の片棒を担いでいた事を自首したけど、賠償金だけで済んだらしい。


「金はこれからまた稼げばいい。わしは息子が真っ当になって嬉しいんじゃ。アルム、感謝しておるよ」

「いや、マリア師匠のお蔭なだけで俺は何も」

「何を言うか。裏組織の者からしたら、アルムは触れてはならぬ者じゃろうが」

「え?」

「ただでさえ、本人が強いのに保護者はその上をいき、お前に何かあれば出てくる。闘王美人だけでなく暴君武帝まで後見人だと聞いたぞ」


 ちょっと待て、触れてはならぬ者ってアンタッチャブルってやつだよね? それが二つ名とかならないよね? それと暴君武帝って何者なんだ? いや、なんとなく予想はついてるけど……それにしても、保護者ありきって感じが気に入らないんですけど。


「あの、暴君武帝て?」

「神級冒険者であり全ての武に通ずる者。彼に挑みし者は自身の一番得意な武器で相手され敗れる。その横暴っぷりは正に暴君。そして、武神に武帝の名乗りを許された者、ジョーマエ」


 ヤッパリジョーサンダッタヨー ワーナンダカスゴイデスネー


「どうしたんじゃ、固まって」

「いや、ドン引いてただけです」

「ドンビイテ?」

「いえ、気にしないで下さい。それより話は変わるんですけど、実は今日は連れのユージンに使い易い武器を売ってくれないかと思って来たんですよ」

「そう言う事でしたら私が承りましょう」


 ユージンの相手はハリルさんがしてくれるみたいだ。

 俺の方はハミトさんに連れられて鍛冶場に来ていた。

 俺への礼に武器を無料で贈ろうと思ってくれていたみたいで、もうすぐ出来上がるそれを見せたいらしい。


「これがそうじゃ」


 それは格闘家が使うようなオープンフィンガーグローブに似ているけど、金属と革で出来ている手甲だった。

 最初は武器じゃなくて防具みたいなものじゃ? と思ったけど、魔力を通すと手の甲の部分にある盛り上がった金属が変化して剣になるので武器と言えば武器だ。

 しかもこの剣は魔力が通り易いうえに留まらせ易いので、魔力を纏わせ魔炎剣にする事も出来る。

 厨二心にも火が点きそうだ。


「ありがとうございます!」

「気に入って貰えたかのう?」

「勿論ですよ! 本当に有難う御座います」

「では最後の仕上げに取り掛かろう」


 最後に何か俺自身を表す象徴的なものを刻印して完成だと言われたので、火を刻印してもらう事にした。

 車とかに貼られるファイヤーステッカーみたいなやつだ。

 ハミトさんに説明するのに苦労したけど、出来上がりは想像以上で跳び上がるほど喜んでいたらハミトさんも嬉しそうにしていた。


 ほくほく顔でユージンと合流する。

 ユージンも満足出来たようで顔がにやけている。

 二人してハミトさんとハリルさんに礼を言って店を出た。


 さて、これからどうしよう? 螺旋迷宮に潜るには時間がもう遅い気がする。

 たぶんだけど、時間は午後の三時位かな? 時計が無いと不便だな。


「時計が無いと時間が分からなくて予定を立て辛いから不便だよね」

「え?」

「ん?」

「いや、知らないの?」

「何を?」

「オプション、表示、時間」

「え? マジ?」

「マジ」


 俺は急いでオプションウインドウを開くと、表示設定の所にある時間をオンにした。


「マジかー」


 俺の目の端にデジタル時計の様に時間が表示されていた。


「因みにそれ、オンの状態なら、頭の中でオンとかオフとか思うだけでついたり消えたりするよ」

「マジか。もしかして体力バーとかも?」

「イエス」

「マジ?」

「マジ」

「マジかー」


 俺は小一時間ほど項垂れていた。

 嘘です。

 数分だけ項垂れた俺は時間を確認する。

 体感時間とほぼ同じ時間の午後二時五十五分だった。

 ユージンは螺旋迷宮に早く行きたいだろうけど、この時間から行くのもどうかと思うから明日に回して、今は神殿に行く事にしよう。

 ユージンに言うと、とても残念そうにしてたけど了承してくれた。


 神殿に着くとミゲールさんが居たのでユージンを紹介する。

 珍しくミゲールさんは時間に余裕があるらしく、俺達も勿論時間があるので、魔法を教えて貰える事になった。


 前に魔法を掛けられまくった部屋で初級の簡単な魔法を教わる。

 無手風神流闘法を短時間とは言え学んだユージンは、風の精霊との親和性が高くなっているらしくて、風魔法を覚えやすくなっていた。

 それに要領が良いのもあって精霊絡みの風魔法を次々と覚えていく。

 ミゲールさんが言うにはユージンは人間にしては魔力が多いし素質があるかもしれないそうだ。

 確か、闘気に関わる能力も高いってエレナに言われてたな。

 天才か? チートってやつか? ぐぐぐ、羨ましい。


「いや、君ねえ。悔しそうにしてるけど君の方が凄まじいから」


 その一言からミゲールさんの長々とした説明が始まった。

 要約すると、俺の方がよっぽどチートなのだそうだ。

 一番顕著なのは魔力に関してなのだそうだけど、他にも精霊使いであること、純血エルフである事を差し引いても眼の性能が良い事や身体能力の高さ。

 そして、マリア師匠と言う強力な存在に指導して貰った事も大きいらしい。

 考えてみたらユージンも少しマリア師匠に指導して貰ったよね。

 マリア師匠がチートって事かもしれない。


「アルムは凄いんだな。試しに俺と勝負してくれよ」


 ユージンはミゲールさんの俺への評価を聞いていたら、勝負したくなってしまったようだ。

 とんでもない事を言い出した。


「では、不死闘技台で勝負し給え」


 ミゲールさんもなんだか乗り気になってる。

 と言うか、この神殿の中に不死闘技台があるんだ? 凄いなここ。


「こっちだ」


 ミゲールさんに連れられ神殿の地下、更に奥へと進む。

 そこには冒険者ギルドで見たのと同じ闘技台があった。


「ここでなら死ぬ事は無い。全力を出してみ給え」


 ミゲールさんがユージンに言う。

 ユージンは楽しげにニヤリとすると、腕にメリケンサックみたいなのをはめた。


「早速これを使える機会がくるなんて、嬉しいぜ」


 ハミトさんの店でハリルさんと話して決めた迷宮で使う予定の武器なんだろうな。

 怪物相手の武器を俺に使う気かよ? それにテンション高い。

 それなら俺もハリルさんに貰った武器を装備しとこう。


「じゃあ始めるか?」

「はいはい、お手柔らかに頼むね」

「では、お互いになんでもありで戦い給え。それでは始め」


 ミゲールさんの掛け声を合図にユージンとの勝負が始まった。

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