↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/82

五十二話目 今後の目標

52.


 夜。食事も風呂も済ませた俺は寝袋に入る。

 個人空間に行くとアルムの身体に移り、誕生世界と時間の流れが同じ部屋に行ってジョーさんに教わった戦い方を復習していると、携帯電話のバイブの振動を感じた。

 丹沢稔の身体に戻り、携帯電話を見るとジョーさんからの着信だった。

 どうやら優人が誕生世界に来るらしい。

 俺はまたアルムの身体に移ると、急いで誕生世界へと向かう。


「優人?」

「稔? お前、稔なのか?」


 この浮遊大陸に初めて来た時と同じ場所まで急いで行くと、そこに優人は居た。

 優人は見た目に然程変化が無かったので直ぐに分かった。

 話し掛けると、俺のアルムとしての姿を見て「稔が外人になった」と言って笑い出す。


「ここではアルムだから、そう呼んでね」

「ああ、わかってるよ。因みに俺も優人じゃなくてユージンな」

「うん」


 優人改めユージンはパッと見は人間に見える。

 髪の毛が染めた金髪からナチュラルな金髪に変わっているけど、それ以外に変化は無さそうだ。

 二人して街へと歩みを進める。


「ユージンは、どうしてこの世界に来たかったの?」


 街への道すがら、気になっていた事を質問してみた。

 大学で「どうしてもそこに行きたいんだ」と言った優人から強い願いみたいなものを感じた。

 どうしてそんなに? どんな理由があるか気になっていた。


「この世界がどれだけ楽しいか知りたかったんだ。それと究極的には人探し」

「人探し? こっちに誰か知り合いが居るの?」

「たぶんな。まあ、それは置いといて、今はこの世界を楽しませてくれよ」

「分かった」

「しかし、この体力バーってやつさ、歩き疲れても減ってくんのな。どんだけ身体が虚弱なんだよ」

「え? 体力バーの存在をなんで知ってるの?」


 つい先日、ジョーさんから教えて貰ってようやく知った事を、なんで誕生世界に来たばかりのユージンが知ってるんだろう? 不思議に思って聞いたら案内者に聞いたと言っていた。

 案内者か。俺だったらバリーなんだよな。

 俺の場合は特殊なケースだから、初めて誕生世界に来る訪問者が聞かされる様な事でも聞かされてなかったりするのが多いのかもしれない。

 なんて、バリーの事をちょっとだけ恨めしく思っていたんだけど、ユージンの話を聞いてみたら違ってた。

 要は質問の仕方なのだそうだ。

 自分にとって有用な情報を聞き出す事が重要らしい。

 俺には出来そうもないな。

 そして、濡れ衣を着せてごめんよバリー。


「ユージンて同じ大学とは思えない頭の良さだよね」

「そう思うのは自由だよ。だけどさ、頭の良し悪しなんてそんな簡単に計れないんじゃね? でもまあ、褒めてくれてありがとな。それにしても、腹減ったな。減らね?」


 ユージンが言うように俺も腹が減っていたから、街に着くとマリア師匠の店に直ぐに行く事にした。

 ついでにユージンを紹介しよう。


 店の前で、半ば恒例となっているマリア師匠に蹴り飛ばされた店への来訪者を目撃する。

 口をあんぐり開けて驚愕しているユージン。


「ああなりたくなかったら、でかい声で挨拶する事。これ大事だよ」


 ユージンは何度も頷いているけど、本当に大丈夫かな? でもその心配は杞憂に終わった。

 彼はマリア師匠に気に入られ、なんだか俺は少し誇らしかった。

 俺の友人なかなか良いでしょ? って感じ。

 でも、友人だなんて図々しいかな? 心の中で思ってるだけだから良いか。

 ただ、俺はまだユージンの事をよく知らないから、知人なのかもしれない。

 友人と知人の違いって難しいね。

 まあ、そんな事が分かるのも誕生世界に来れたお蔭だ。


「先ずは冒険者登録をさっさとしちゃう事だね。それで迷宮にさっさと行くようにしな。アル坊みたいにのんびりしてると色んな事件に巻き込まれちゃうかもしれないからねえ」

「そうなんすか?」

「そうだよねえ? アル坊」

「そうなん?」


 マリア師匠に喰いついていたユージンが、そのマリア師匠のフリで興味深そうに俺の顔を見る。

 迷宮にさっさと行かなかったから事件に巻き込まれた。

 なんて訳じゃ無いと思うんだけどな。

 それとも、そんなジンクスでもあるのかな? 色んな事件に巻き込まれてるのは確かだよね。

 迷宮に行く前に裏稼業の連中に誘拐された事とかを話したら、ユージンは酷く驚いていた。


 ただそんな話よりも、マリア師匠が冒険者ギルドでユージンに無茶をさせないか心配している。

 そもそも、その前にユージンには何か戦う術があるのかな? 無いとしたら、どうするんだろ? やっぱりマリア師匠に師事かな。


「ユージンは何かスキル習得した?」

「ああ、貰えるスキルはまだ選んでないけど、なんか異世界格闘術とか言うスキルを覚えたよ。ボクシングちょっとやってたからかも」

「なんでボクシングが異世界格闘術なんだよ。って、あれか。誕生世界からしたら地球は異世界だからだ」

「そういう事だな」

「へえ、面白そうだねえ。私がどれ位の実力か見てあげるよ」

「え? マリアさんがですか? 大丈夫ですか?」


 ユージン、その心配は的外れだよ。

 マリア師匠がにっこり笑ってる。

 逆に怖いな。


「じゃあ、裏庭に行こうか」


 相変わらずの広い裏庭だ。

 ユージンは軽やかにステップを踏みながら、コンビネーションブローを素振りしてアップしている。

 マリア師匠は特に何をする様子も無い。

 でも、俺は知っている。

 マリア師匠の身体は常時戦闘準備の状態だから、わざわざ直前に何かをする必要が無いだけなんだ。


「軽めに行きますね」


 ユージンが余裕の態度なのが怖いよ。


「いつでもいいよ」


 マリア師匠は構える事も無く、ただ立っているだけだ。

 ユージンはその様子に少し顔を顰める。

 侮られていると感じたのかもしれない。

 軽やかにステップを踏み、間合いを詰めると同時に左ジャブを繰り出す。

 ボクシング最速の攻撃、マリア師匠は微動だにしない。

 マリア師匠の顔面にぎりぎり当たらないように何度か左ジャブを繰り出したユージンはニヤリと笑う。


「どうっすか?」

「当てる気のない攻撃じゃあ判断できないねえ」

「次は当てるよ」


 マリア師匠の言葉にさすがに腹が立ったのか、敬語も忘れ攻撃態勢に入るユージン。

 今度はマリア師匠もステップを踏み始めた。

 左ジャブから右ストレート。綺麗でリズミカルな攻撃だ。そして速い。

 でも、さっきと同じ様にマリア師匠の顔面にギリギリ当たらない。

 そして、さっきと違うのはユージンの表情だ。

 まるで信じられないモノでも見たかの様な表情をしている。


「くっそ」


 ユージンは言葉を吐き捨てるとコンビネーションパンチを何パターンも繰り出した。

 ジャブ、ストレート、ストレートのワンツースリー。

 フックやアッパーを組み合わせたコンビネーションブロー。

 顔だけじゃなく、身体を狙ったボディーブローも繰り出しているのに、その全てが寸前で当たらない。


「はぁはぁ、なんだってんだ。ちくしょう」


 ユージンは悪態をついている。

 マリア師匠はニッコリ笑う。


「すじは悪くないよ。じゃあ次は防御を見せて貰うかねえ。ボクシングってのは手でしか攻撃しないんだろう? 私もそうするよ。ちゃんと避けな」


 マリア師匠の攻撃はユージンの動きが更に洗練されたもので、流麗華美だ。

 でもパンチは少しゆっくりめに打ってるみたいだ。

 ただ、そのパンチですらユージンは必死に避けている。

 そして必死に避けているのにも拘らず、攻撃を受けてしまいそうになる。

 その度にマリア師匠は拳を寸止めする。

 しばらくそれを続け、ユージンがいよいよフラフラになってきたところに最後デコピンをするマリア師匠。

 対して効いていないはずなのにユージンは後ろにぶっ倒れた。


「大丈夫?」


 俺はユージンの顔を覗き込む。

 ユージンは笑っていた。


「実力が違い過ぎて笑うしかないわ」

「だろ? 俺の師匠だからね。マリア師匠より強い人なんてそうそう居ないんじゃないかな?」

「そういうのは早く言ってくれよ」


 そう言って、ユージンはまた笑った。

 そして、フラフラしながらなんとか立ち上がり、マリア師匠に近付く。


「どうすればマリアさんみたいに強くなれますか?」

「先ずは迷宮を制覇しな。そっからだね」

「わかりました」


 どうやら、ユージンは迷宮制覇を強く目標に定めた様だ。

 じゃあ、俺も負けてられないかな。

 のんびり行くつもりだったけど予定変更だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。